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猫は飼い主の声がわかる?~聞き分けはできるけれど反応は薄い

 猫は薄暗い中で聴覚を頼りに狩りを行う動物ですので、目に比べると耳は良い方だと考えられます。では全く知らない第三者と飼い主の声を聞き分けることはできるのでしょうか?

声の聞き分け実験方法

 調査を行ったのは東京大学・認知行動科学科のチーム。一般家庭で飼われている20頭のペット猫たち(オス猫12+メス猫8 | 平均年齢6.05歳)を対象とし、「馴化-脱馴化パラダイム」と呼ばれる実験手法を用いて、飼い主の声を聞き分けることができるかどうかを検証しました。
馴化-脱馴化パラダイム
似たような刺激を繰り返し与えて馴れが生じたタイミング(馴化)で、被験者に馴染みのある刺激を与えると、リアクションが大きくなる(脱馴化する)現象のこと。リアクションのリバウンドが見られた場合、被験者や被験動物が刺激を弁別できていると判断される。
 猫たちが飼われている家をそのまま実験室とし、3m離れた地点から65dBの音圧で猫が知らない3人の声を30秒間隔で3回聞かせた後、飼い主の声を聞かせ、4人目の知らない人間の声を聞かせるという馴化-脱馴化パラダイムを行いました。

声の聞き分け実験結果

 猫たちのリアクションを映像で録画した上で、調査の目的を知らされていない中立的な評価者10名(男女5名ずつ・平均25.5歳)が猫たちの反応6種(耳を音に向ける | 顔ごと音がした方を向く | 瞳孔が開く | 声を発する | しっぽを動かす | 体勢や居場所を変える)を「無反応」~「大いに反応」に分類していったところ、20頭中15頭では、知らない人間の声をくり返し聞くうちに反応が小さくなっていったといいます。この事実から、声に対する馴化が生じたと解釈されました。
 次に飼い主の声を聞いた瞬間の反応を観察したところ、馴化が生じた15頭のうち11頭で反応のリバウンド現象が確認されたとのこと。飼い主の後に別の人物の声を聞かせましたが、再馴化(反応が小さくなること)は起こらなかったそうです。
 こうした事実から調査チームは猫たちは音声的な刺激だけから飼い主の声を聞き分けることができるとの結論に至りました。 声に対して耳だけを向ける「傾注的反応」  なお猫の反応は、耳を音のした方に向けたり顔ごと音がした方を向く「傾注的反応」(=刺激が発せられた方向に注意を向ける)が多く、声を発したりしっぽを動かす「交流的反応」(=刺激と積極的に交わろうとする)は少なかったといいます。猫の名前を呼んでも耳だけこちらに向けて動こうとしないことがありますが、一応飼い主が自分を呼んでいることには気づいているのでしょう。
Vocal recognition of owners by domestic cats (Felis catus)
Saito, Shinozuka, Animal Cognition volume 16, pages685?690(2013), DOI:10.1007/s10071-013-0620-4