社会的傍受実験の方法
調査を行ったのは京都大学心理学部を中心としたチーム。第三者の行動を観察することで協力的(向社会的)か非協力的(非社会的)かを判断する「社会的傍受」(social eavesdropping)の能力が猫にもあるのかどうかを確認するため、36頭(メス18+オス18/7ヶ月齢~14歳)の猫たちを対象とした観察実験を行いました。13頭は一般家庭で飼育されている普通のペット猫、23頭は5つの猫カフェで飼育されているスタッフ猫という内訳です。
猫たちをランダムで「協力者」(平均4.13歳/メス10+オス8)と「非協力者」(平均4.43歳/メス8+オス10)という2つのグループに分け、以下に述べる実験手順を見せた時のリアクションを観察しました。
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飼い主が透明な円筒形の容器を手に取り開けようと苦心した後、横にいる「協力者」に助力を申し入れ、「協力者」は開けるのを手伝ってあげる
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猫が上記した芝居をしっかり観察(傍受)したことを確認した上で「協力者」と「中立者」が手に持ったおやつを同時に猫の前に差し出し、自発的にどちらか一方を選ばせる
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人物の位置をランダムで入れ替え、60秒間のインターバルを置いて合計4回観察(傍受)させる
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飼い主が透明な円筒形の容器を手に取り開けようと苦心した後、横にいる「非協力者」に助力を申し入れるが、「非協力者」はそっぽを向いて無視する
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猫が上記した芝居をしっかり観察(傍受)したことを確認した上で「非協力者」と「中立者」が手に持ったおやつを同時に猫の前に差し出し、自発的にどちらか一方を選ばせる
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人物の位置をランダムで入れ替え、60秒間のインターバルを置いて合計4回観察(傍受)させる 飼い主との交流に関わっていないニュートラルな「中立者」と、飼い主と交流を持った「協力者」もしくは「非協力者」が同時におやつを提示した時、どちらか一方の人物を積極的に選ぶ傾向があった場合、猫たちは直前に観察した交流の内容からその人物を評価する「社会的傍受」の能力を発揮したということになります。果たして猫たちはどのようなリアクションを見せたのでしょうか? Cats (Felis catus) show no avoidance of people who behave negatively to their owner.
Chijiiwa, H., Takagi, S., Arahori, M., Anderson, J. R., Fujita, K., Kuroshima, H. (2021). Animal Behavior and Cognition, 8(1), 23-35. , DOI:10.26451/abc.08.01.03.2021
猫たちをランダムで「協力者」(平均4.13歳/メス10+オス8)と「非協力者」(平均4.43歳/メス8+オス10)という2つのグループに分け、以下に述べる実験手順を見せた時のリアクションを観察しました。
協力者
猫から1m離れた場所に飼い主が陣取り、片側に「中立者」、もう片側に「協力者」が陣取る↓
飼い主が透明な円筒形の容器を手に取り開けようと苦心した後、横にいる「協力者」に助力を申し入れ、「協力者」は開けるのを手伝ってあげる
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猫が上記した芝居をしっかり観察(傍受)したことを確認した上で「協力者」と「中立者」が手に持ったおやつを同時に猫の前に差し出し、自発的にどちらか一方を選ばせる
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人物の位置をランダムで入れ替え、60秒間のインターバルを置いて合計4回観察(傍受)させる
非協力者
猫から1m離れた場所に飼い主が陣取り、片側に「中立者」、もう片側に「非協力者」が陣取る↓
飼い主が透明な円筒形の容器を手に取り開けようと苦心した後、横にいる「非協力者」に助力を申し入れるが、「非協力者」はそっぽを向いて無視する
↓
猫が上記した芝居をしっかり観察(傍受)したことを確認した上で「非協力者」と「中立者」が手に持ったおやつを同時に猫の前に差し出し、自発的にどちらか一方を選ばせる
↓
人物の位置をランダムで入れ替え、60秒間のインターバルを置いて合計4回観察(傍受)させる 飼い主との交流に関わっていないニュートラルな「中立者」と、飼い主と交流を持った「協力者」もしくは「非協力者」が同時におやつを提示した時、どちらか一方の人物を積極的に選ぶ傾向があった場合、猫たちは直前に観察した交流の内容からその人物を評価する「社会的傍受」の能力を発揮したということになります。果たして猫たちはどのようなリアクションを見せたのでしょうか? Cats (Felis catus) show no avoidance of people who behave negatively to their owner.
Chijiiwa, H., Takagi, S., Arahori, M., Anderson, J. R., Fujita, K., Kuroshima, H. (2021). Animal Behavior and Cognition, 8(1), 23-35. , DOI:10.26451/abc.08.01.03.2021
社会的傍受実験の結果
両グループの猫たちのリアクションを統計的に計算した結果、「協力者」グループの猫たちが中立者を選んだ割合は50.0%、「非協力者」グループの猫たちが中立者を選んだ割合は33.3%となり、どちらも偶然レベルと判断されました。要するに「協力者(いい人)」を積極的に好む傾向も、「非協力者(嫌な人)」を積極的に拒絶する傾向も見られなかったということです。
社会的傍受は集団で生活し、互いに助け合いながら生きていく社会的動物においてよく発達した能力です。例えば人間の3歳児を対象とした調査では、「他人の手助けをする人」と「他人に害をなす人」を観察した後では「他人に害をなす人」 を助けようという傾向が減弱したとされています。また今回行われた実験と同じデザインを用いたカプチンモンキーや犬の実験では、手助けする人とニュートラルな人物との間に選好格差は見られなかったものの、他者を無下にする人物とニュートラルな人物とを比較した場合、前者からおやつをもらいたがらないというネガティブバイアスが確認されています(:Chijiiwa, 2015 | :Anderson, 2013)。 一方、京都大学の調査でも過去に行われた別の調査でも、猫における社会的傍受の能力が確認されませんでした。例えば16の家庭に飼われている26頭の猫たち(平均年齢5.53歳)を対象とし、キャリーバッグに入れた状態で実験室内に入れ、見知らぬ第三者と飼い主が会話をする状況を間近で見せた後、いったいどのような反応を示すかを観察しました。実験環境は、飼い主が中立的なトーンとボリュームで話し、飼い主の会話相手が「ポジティブな口調」もしくは「ネガティブな口調」のどちらかで対応するというものです。実験中、猫を触ることやアイコンタクトは避けるよう指示されました。実験の結果、飼い主もしくは実験者に接近する頻度、キャリーバックから自発的に外に出るまでの待機時間、猫が見せるポジティブとネガティブな反応は、どれも口調による影響を受けないことが明らかになったといいます。唯一見られた特徴は、見知らぬ実験者よりも飼い主の方を頻繁に見つめる傾向が見られたという点だけでした(:Galvan, 2015)。 猫において「社会的傍受」の明白な証拠が見つからない理由は、猫という動物がそもそも孤独なハンターであり、他の個体と協力しながら生きていくというライフスタイルではないからだと推測されます。要するに他の個体が協力的で向社会的かどうかは生きていく上でそれほど重要ではないということです。
社会的傍受は集団で生活し、互いに助け合いながら生きていく社会的動物においてよく発達した能力です。例えば人間の3歳児を対象とした調査では、「他人の手助けをする人」と「他人に害をなす人」を観察した後では「他人に害をなす人」 を助けようという傾向が減弱したとされています。また今回行われた実験と同じデザインを用いたカプチンモンキーや犬の実験では、手助けする人とニュートラルな人物との間に選好格差は見られなかったものの、他者を無下にする人物とニュートラルな人物とを比較した場合、前者からおやつをもらいたがらないというネガティブバイアスが確認されています(:Chijiiwa, 2015 | :Anderson, 2013)。 一方、京都大学の調査でも過去に行われた別の調査でも、猫における社会的傍受の能力が確認されませんでした。例えば16の家庭に飼われている26頭の猫たち(平均年齢5.53歳)を対象とし、キャリーバッグに入れた状態で実験室内に入れ、見知らぬ第三者と飼い主が会話をする状況を間近で見せた後、いったいどのような反応を示すかを観察しました。実験環境は、飼い主が中立的なトーンとボリュームで話し、飼い主の会話相手が「ポジティブな口調」もしくは「ネガティブな口調」のどちらかで対応するというものです。実験中、猫を触ることやアイコンタクトは避けるよう指示されました。実験の結果、飼い主もしくは実験者に接近する頻度、キャリーバックから自発的に外に出るまでの待機時間、猫が見せるポジティブとネガティブな反応は、どれも口調による影響を受けないことが明らかになったといいます。唯一見られた特徴は、見知らぬ実験者よりも飼い主の方を頻繁に見つめる傾向が見られたという点だけでした(:Galvan, 2015)。 猫において「社会的傍受」の明白な証拠が見つからない理由は、猫という動物がそもそも孤独なハンターであり、他の個体と協力しながら生きていくというライフスタイルではないからだと推測されます。要するに他の個体が協力的で向社会的かどうかは生きていく上でそれほど重要ではないということです。