猫のトリコモナス症の病態と症状
トリコモナスとは、脊椎動物全般に寄生する原虫の一種です。原虫(げんちゅう)とは、他の動物に寄生する性質を持ち、さらに病原性を有している単細胞生物のことを指します。 人間では性感染症として有名ですが、猫では大腸に寄生する「トリトリコモナス・フィータス」(Tritrichomonas foetus)が知られています。頭に付いている「トリ」とは「3つの」という意味で、「トリトリコモナス」と言った場合は「3鞭毛トリコモナス」という意味になります。同じく原虫であるジアルジアやコクシジウムの亜種であるイソスポラと共に発見されることが多く、1歳未満の子猫に対し以下に述べるような症状を引き起こします。
トリコモナス症の症状
トリコモナスには非常に沢山の種類があり、どの動物を宿主にするかによって呼称が変わります。以下は宿主動物とトリコモナスの関係性です。ちなみに1990年代後半、ウシに寄生する「T.foetus」(トリトリコモナスフィータス)に遺伝的に近い原虫が猫の腸管内から発見され、これを「T.blagburni」と名付けようという動きがありましたが、結局浸透しませんでした。
宿主とトリコモナスの関係
- ヒト→Trichomonas vaginalis
- ウシ→Tritrichomonas foetus
- ブタ→Tritrichomonas suis
- マウス→Trichomonas muris
- リスザル→Tritrichomonas mobiliensis
- 七面鳥→Tetratrichomonas gallinarum
- ハト→Trichomonas gallinae
- 脊椎動物全般→Pentatrichomonas hominis
猫のトリコモナス症の原因
猫のトリコモナス症の原因としては、主に以下のようなものが考えられます。「トリトリコモナス・フィータス」は非常にありふれた原虫であるため、たとえ猫に症状が現れていなくても、保有していないとは言い切れません。こうした無症候性のキャリアが感染源となることもあります。
女性の性感染症を引き起こす「膣トリコモナス」や、ウシの流産を引き起こす「ウシ胎子トリコモナス」に関する研究は盛んに行われている一方、免疫力が低下したときに下痢を引き起こすだけの猫の「トリトリコモナスフィータス」はかなり蔑(ないがし)ろにされているようです。以下に示すような9.8~32%という高い感染率から考えると、もう少し知名度があってもよいと思われます。
トリコモナス症の原因
- 経口感染 原虫に汚染された糞便を何らかの形で口に入れることにより感染します。頻発する場所は、キャッテリ・保護施設など、数多くの猫がトイレを共有するような環境です。
女性の性感染症を引き起こす「膣トリコモナス」や、ウシの流産を引き起こす「ウシ胎子トリコモナス」に関する研究は盛んに行われている一方、免疫力が低下したときに下痢を引き起こすだけの猫の「トリトリコモナスフィータス」はかなり蔑(ないがし)ろにされているようです。以下に示すような9.8~32%という高い感染率から考えると、もう少し知名度があってもよいと思われます。
トリコモナスの感染率
- アメリカ(2003年)国際キャットショーに参加していた89のキャッテリから117頭の猫を集め、トリコモナスの感染率を調査した。その結果、キャッテリベース(28/89)でも頭数ベース(36/117)でも共に31%というデータが取れた。感染が確認されたキャッテリへの調査を行った所、単位面積あたりの飼育頭数が多いという傾向が確認された(→出典)。
- イギリス(2007年)下痢を示す111頭を調査した所、トリコモナスの感染率は14.4%(16/111)だった。特に1歳未満、純血種、シャムとベンガル猫の感染率が高かった(→出典)。
- スイス(2007年)慢性的な下痢を示す45頭を調べた所、トリコモナスの感染率は24%(11/45)だった(→出典)。
- アメリカ(2008年)全米から集められた173の糞便サンプルを調査した所、トリコモナスの感染率は9.8%(17/173)だった。品種や性別による偏りは確認されなかった(→出典)。
- イタリア(2008年)保護施設に暮らす猫のうち、慢性的な大腸性下痢を示す74頭を調査した所、トリコモナスの感染率は32%(24/74)だった。最も多かったのは1歳以上の不妊手術済み非純血種だった(→出典)。
猫のトリコモナス症の治療
猫のトリコモナス症の治療法としては、主に以下のようなものがあります。原虫を根絶やしにする薬剤を見つける事は現時点では困難なため、投薬以外によって症状を軽減させるアプローチが基本となります。
トリコモナス症の治療と予防
- 対症療法 特効薬が存在しないため、差し当たり今ある症状を軽減することを目的とした治療が施されます。具体的には、下痢の頻発で引き起こされた脱水に対する輸液や、腸内細菌のバランスを改善するためのプロバイオティクスなどです。死に至ることはまれですが、治癒するまでに2ヶ月から3年という長い時間がかかるとされます。
- 投薬治療 チニダゾール、メトロニダゾール、フェンベンダゾール、ロニダゾールなどが投与されることもあります。しかし効果がまちまちで、また副作用が強いことから、優先的に行われる治療法ではありません。
- 衛生管理 汚染された糞便が感染源であるため、排せつ物を素早く片付ける、多頭飼いの環境においてはトイレの数を増やす、管理する人間が手洗いを徹底する、といった対策が重要になってきます。