トップ猫の健康と病気猫に薬を飲ませる方法

猫に薬を飲ませる方法・完全ガイド~投薬術から嫌がる猫のしつけ方まで

 獣医さんが処方してくれる薬には錠剤(固形薬)、粉薬、液状薬などがあります。病院で飲ませてくれる分には問題ありませんが、自宅で薬を飲ませる場合、猫が薬を嫌がったり、協力者がいないなどの事情により、往々にして投薬に失敗して薬を無駄にしてしまいます。ではいったいどうやったら上手に薬を飲ませることができるのでしょうか?詳しく解説します(🔄最終更新日:2022年4月)

動物病院に連れて行く

 確実に薬を飲ませるため、投薬のタイミングに合わせて猫を動物病院に連れて行くという方法があります。
猫を動物病院に連れていくことは、かなりのストレスになる  百戦錬磨の獣医さんに任せておけば、何とかして猫に薬を飲ませてくれるでしょう。しかし投薬のたびに狭いキャリーやクレートに閉じ込められ、車や徒歩でガタガタと揺られながら得体の知れない場所に連れ込まれ、見たことのない人に囲まれて体中を触られるということは、猫にとってかなりのストレスになると考えられます。
 半年に1度程度なら猫も我慢してくれるでしょうが、内臓疾患の薬のように月に1回や週に1回ともなると飼い主にとっても猫にとっても気が重くなってきます。確実な方法ではありますが、できれば一番最後の手段として考えたいものです。
「国際猫医療協会」(ISFM)が認定しているキャットフレンドリークリニックのロゴ  ちなみに「国際猫医療協会」(ISFM)は独自の基準により、猫にやさしい「キャットフレンドリークリニック」(Cat Friendly Clinic)の認定を行っており、この基準を満たした病院においては、猫にストレスをかけないまま高いレベルの医療を受けることができるとしています。今後こうした猫にやさしい病院が増えてくれれば、ペットを病院に連れていくたびに感じる憂鬱が、多少軽減されるかもしれません。「キャットフレンドリークリニック」は、そのレベルに応じて「シルバーレベル」と「ゴールドレベル」に分けられており、それぞれの認定基準は以下です。
シルバーレベル
  • 設備や施設全体が基準を満たしている
  • スタッフ全員が猫にストレスをかけない扱い方を心得ている
  • どんな質問にも答えられる「猫スタッフ」(Cat Advocate)が最低一人常駐している
  • 猫にやさしい待合室がある
  • しっかりとした入院設備がある
ゴールドレベル
  • シルバーレベルの基準を全て満たしている
  • 病院内に猫専用の区画がある
  • 入院猫用の大き目なケージがある
  • 待合室が猫に特化している
  • 施設や設備が猫に特化している
 まだまだ認知度は低いですが、日本国内においても少しずつ上記「キャットフレンドリークリニック」の認定を受けた動物病院が増えてきました。病院のリストは以下のページから検索できますので、タブの中から「JAPAN」を選び、お近くの病院を探してみてください。なお、ただ単に「猫専門病院」という看板がついている場合、「猫だけを受け付けている病院」なのか「ISFM公認の病院」なのか分かりません。どちらなのかは直接病院に問い合わせたり、データベースの記録を見てご確認ください。 ISFM認定CatFriendlyClinic

猫の投薬のしつけ方

 猫が嫌がったり暴れたりする場合、日ごろから投薬のしつけを行っておくと猫にかけるストレスを最小限に抑えつつ、非常にスムーズに薬を与えることができるようになります。具体的なしつけの手順は以下です。投薬頻度が半年に1回であれ毎日であれ、すべての飼い主が済ませておくことをお勧めします。

猫を膝の上に誘導する

 まずは猫が飼い主の膝の上に自発的に来るようしつけます。ごほうびとして用いるのはペースト状のおやつ、またたび、マッサージなどです。個々の猫に合わせて最も強い快感を与えるものを選んでください。
 猫に対するごほうびが決まったら膝の上に座布団やクッションなどを敷き、猫の名前を呼んでみましょう。膝の上に座ってくれたらそのタイミングで用意しておいたごほうびを与えます。 膝の上に乗ったタイミングで猫にごほうびを与えて行動を強化する  この作業を繰り返しておくと、猫の頭の中で「膝の上に乗るといいことがある!」という記憶が形成され、自発的に飛び乗ってきてくれるようになります。警戒心が強く人見知りの猫に対しては決してあせらず1ヶ月くらいかけてゆっくりと行動を強化してしてください。

猫の上あごを上げる

 猫が自発的に膝の上に乗ってきてくれるようになったら今度は上あごを握る練習をします。用いるのは利き手の親指、人差し指、中指、そして手のひらです。具体的には以下のポイントにコンタクトします。 目の下にある頬骨の前方端に指先を引っ掛けると持ちやすい  猫の目の下には頬骨の先端があり、指先で握りやすくなっていますので、ここに人差し指、中指、親指の3本を添えてしっかりと握りましょう。手のひらは猫の頭の上に軽くのせるようにします。この状態で小指の付け根を支点として頬骨を上にあげてみます。ちょうど指輪ケースのフタをパカッと開くような感じです。 手のひらの小指球を支点として猫の上あごを引き上げる  猫がじっとしていたらおやつ与えたりなでたりしてごほうびをしっかり与えて下さい。これを繰り返すことにより、猫は上あごを握られた状態で上を向くという動作に慣れてきます。

猫の下あごを下げる

 利き手で猫の上あごを上に向けたら、利き手ではない方の手の中指(もしくは薬指)を猫の前歯(切歯)の隙間にこじ入れ、下に下げてみましょう。歯が指に刺さって痛い場合は指サックなどをしても構いません。 中指を猫の切歯の隙間に入れて下あごを下げる  できたらすぐに手を離し、おやつを与えたりなでたりしてごほうびをしっかり与えます。これを繰り返すことにより、猫は下あごを下げられるという動作に慣れてきます。猫に投与するのがどんなタイプの薬であれ、ここまでの流れが基本になります。次は錠剤を与える時と液状薬を与えるときに分けて見ていきましょう。

猫への錠剤の飲ませ方

 猫に錠剤を投与する場合、下準備としておやつを口の中に放り投げる練習をしておきましょう。
 まずは猫の投薬のしつけ方を終わらせておきます。利き手で猫の上あごを上に向けたまま、利き手ではない方の中指(もしくは薬指)で下あごを下げます。このとき利き手ではない方の人差し指と親指をフリーにしておき、猫が大好きな小粒のおやつをつまんでおきましょう。逆の方がやりやすい場合は手を入れ替えても構いません。 【動画】How To Give Your Cat A Pill - VetVid Episode 020 中指で下あごをさげつつ、フリーの人差し指と親指でおやつをつまんでおく  口が大きく開いたタイミングでつまんでいたおやつを猫の口の中に放り込みます。嚥下反射を最も強く引き起こしやすい舌の付け根あたりにポトンと落とすのがベストです。うまくいかない場合は指ごと口の中に入れても構いません。 【動画】How to pill a cat 舌の付け根への刺激が最も強い嚥下反射を引き起こす  おやつを投げ入れたら猫が吐き戻さないよう、すぐに下あごをぴっちり閉じてのど元をさすります。ゴクリと飲み込んだら成功です。なかなか飲み込まない場合は鼻先にふっと軽く息を吹きかけてみましょう。のどぼとけがゴクリと下がって飲み込んだことを確認してください。 猫の嚥下を促す際は喉元をさすったり鼻先に息を吹きかける  終わったらおやつを与えたりなでたりして猫にごほうびを与えます。こうすることで、猫は投薬に限りなく近い状況に少しずつ慣れていきます。口の中に投げ落としたおやつを猫がひそかに吐き出していないことを確認してください。ここまでできるようになったら、指先でつまんでいたおやつを錠剤に持ちかえるだけで、猫にストレスをかけることなく簡単に投薬ができるようになります。

猫への液状薬の飲ませ方

 猫に液状薬を投与する場合、下準備としてシリンジ(注射器)を口の中に入れる練習をしておきましょう。
 まずは猫の投薬のしつけ方を終わらせておきます。水の入ったシリンジ(注射器)を用意し、利き手ではない方の手に持っておきます。押し子(注射器のおしりの方)をプッシュする指は親指でも人差し指でも構いません。使いやすい方を選んでください。事前のしつけで練習したように、利き手で猫の上あごを45度くらい上に向けましょう。逆の方がやりやすい場合は手を入れ替えても構いません。 注射器を入れるポイントは猫の犬歯のすぐ後ろにある隙間  シリンジ(注射器)を猫の口の横からこじいれ、舌の上にゆっくりと中身を注ぎ込みます。入れるポイントは犬歯のすぐ後ろにある隙間です。この場所は口をぴっちり閉じていたとしても多少の隙間があります。一度に大量の液体を流し込むと気管の上にある喉頭蓋の動きが間に合わず肺に入ってしまう危険がありますので、ゆっくり注入するようにして下さい。最悪のケースでは誤嚥性肺炎を引き起こしてしまいます。 【動画】How to Give Pills to a Cat (or Liquid Medication) 液状薬を注ぎ込むときは誤嚥しないようにゆっくりと  猫が口をぴちゃぴちゃ鳴らしながら水を飲み込んだら、おやつを与えたりなでたりして猫にごほうびを与えます。こうすることで、猫は投薬に限りなく近い状況に少しずつ慣れていきます。口の中に注ぎ込んだ水を猫がひそかに吐き出していないことを確認してください。ここまでできるようになったら、シリンジ(注射器)の中身を水から薬に入れ替えるだけで、猫にストレスをかけることなく簡単に投薬ができるようになります。

投薬を嫌がる時の対処法

 錠剤にしても液状薬にしても、猫が嫌がったり暴れたりしてどうしても投薬できない場合は以下に述べるような対処法を試してみてください。

協力者を見つける

 猫が投薬を嫌がって途中で逃げてしまうような場合は、協力者を見つけて「抑え係」になってもらいます。猫の身体を保定する際は、両手で肩の付近を固定すると同時に体や脇腹で猫のお尻が動かないように抑え込みます。 【動画】How to give your cat a pill by hand 協力者に猫を抑えてもらうと投薬しやすくなる  猫がおとなしくしているうちにもう1人の「投薬係」が錠剤なり液状薬なりを投与します。うまくいくかもしれませんが拘束ストレスが強いため、しょっちゅう投薬する必要がある猫には不向きです。

猫を毛布で包む

 猫が暴れてどうしてもうまくいかない場合は、毛布、タオル、シーツなどで体を包み「猫ブリトー」にしてしまうという方法があります。 【動画】How to pill a cat 猫をブリトーのように毛布でくるんでしまうと拘束しやすい  猫が諦めておとなしくなったら問題ありませんが、抵抗して逃げ出そうとする場合は毛布(シーツ)の端を膝などで固定する必要があります。うまくいくかもしれませんが、猫に対する拘束ストレスが強いため、しょっちゅう使いたい方法ではありません。

薬のタイプを変える

 動物病院で処方される駆虫薬などは、錠剤(ピル)タイプが多いですが、猫がどうしても固形薬を受け付けない場合は、薬のタイプを変えてもらうことを検討します。液体状やスポットタイプ(滴下)のものがあるかもしれませんので、獣医さんに相談してみましょう。なお、錠剤の種類によっては吸収速度を保つために砕いてはいけないものもあります。固形薬を粉末薬にする際は、自己判断で行うのではなく必ず事前に獣医さんの確認を取るようにしてください。

投薬道具を使う

 猫の抵抗が激しく、口を開けようとした指を噛んでしまうような場合はピルガン(ピルポッパー)と呼ばれる投薬専用の道具を用いるという方法があります。 【動画】How to Give Pills to a Cat (or Liquid Medication) 錠剤を猫の口の奥に落とすときに用いられるピルガン(ピルポッパー) これは注射器とマジックハンドが合体したような道具で、先端部分に錠剤を挟み込み、猫の口の中に入れた後でリリースするというものです。口元へのタッチに敏感な猫に使えるでしょう。
 ただしこの器具に関しては、先端についているシリコン製のグリップ部分が投薬中に外れ、猫が飲み込んでしまう事故がしばしば報告されています。猫を健康にするはずの道具が逆に害をなしてしまうという本末転倒にならないよう、使い方には十分な注意が必要です。 猫に投薬する時に使うピルガンの先端部を誤飲する事故が多発

食べ物の中に隠す

 猫が薬の苦味や臭いを嫌って抵抗する場合、おやつやフードの中に隠して投薬するという方法があります。猫がまんまとだまされてくれれば、こんなに楽な方法はありません。しかし現実にはそう思うようにはいかず、特に薬が苦くてまずい場合は、かなりの確率で気づかれてしまいます。また「空腹時に投薬」と指示されている場合は必然的に使えません。

錠剤を固形のまま隠す

 錠剤をそのままの形で与える場合は、ピルポケット(タブポケット)など専用の商品が市販されていますので試してみましょう。ただし錠剤を包んだ分かなり大きくなっていますので、猫が吐き戻してしまうかもしれません。
 人間用のオブラートで包んで薬品臭を消すという方法もありますが、食道の途中でオブラートが溶けて止まってしまうことがあります。溶け出した薬剤で食道の内壁が傷ついてう危険性がありますのでやめたほうがよいでしょう。同じ理由で食品用カプセルも避けたほうが無難です。

錠剤を砕いて隠す

 固形薬を砕いて「ちゅーる」などペイスト状のおやつに混ぜ込むという方法があります。練り込んだものを猫の口元に塗りつけておけば、違和感を解消しようとして口元をペロペロと自発的になめてくれますので、そのついでに薬をなめ取ってくれます。しかし投薬量によってはかなりの量のペイストをなめさせることになりますので、決して万能な方法というわけではありません。また錠剤の種類によっては、吸収速度を保つために砕いてはいけないものもあります。事前に必ず獣医さんに確認するようにしてください。

猫に投薬する際の注意

 猫に薬を与える時に絶対に守らなければならない基本ルールがあります。こうしたルールを守らないと猫の体が良くならないばかりか、逆に命を危険にさらすことすらあります。
猫に対する投薬ルール
  • 投薬方法を守る「1日1回」とか「食前」といった指示がある場合は、必ず守るようにします。
  • 有効期限を守る薬の有効期限が切れている場合は潔く廃棄します。また、期限が書かれていない薬でも、1年を経過したものは交換したほうが無難です。
  • 投薬量を守る本来与えるべき薬を忘れてしまったため、次のタイミングで2倍の量を投薬するというのは大間違いです。2倍にしたところで効果が2倍になるわけではなく、副作用の危険性が高まるだけですので絶対に避けるようにします。
  • 人間用の薬を与えない薬箱に余っている人間用の鎮痛薬や解熱薬を猫に与えないようにします。最悪のケースでは中毒死する事もあります。
 最後に挙げた「人間用の薬を与えない」は、とりわけ重要です。 2016年、イギリスのペット保険会社「MORE THAN」が行った統計調査によると、約9%の飼い主が「人間用の医薬品をペットに与えたことがある」と回答したといいます。中にはペットの命を奪いかねない危険なものまで含まれていたとも。 多くの飼い主が人間用医薬品をペットに誤投与している  2013年の資料によると、日本国内で人体用医薬品が獣医師の処方権によりペット動物に転用される頻度が高い領域は以下のようになっています。 獣医師の処方権により人体用医薬品がペット動物に転用される領域のグラフ  「殺菌消毒薬」や「ビタミン薬」の転用率が50%を超えていますが、飼い主の自己判断で市販薬やサプリを与えるのは大変危険ですので絶対に避けるようにします。また動物用であれ人間用であれ、猫が薬を誤飲してしまわないよう厳重に管理します。
投薬の失敗や中止は猫の健康を損なうだけでなく耐性菌の出現を促しうる危険なものです。日頃からスキンシップを兼ね、保定やハンドリングに慣らしておきましょう。 猫に投薬する難しさは世界共通 猫への投薬成功率を高める薬のタイプは?