猫の耳腫瘍の病態と症状
猫の耳腫瘍とは、耳のひらひら部分や耳の穴の中に腫れ物ができた状態のことです。
耳の穴である「外耳道」の表面は、皮膚の最上部に当たる「表皮」(ひょうひ)、表皮の下で皮膚の形状を維持する「真皮」(しんぴ)、そして「アポクリン腺」と呼ばれる分泌腺などから構成されています。腫瘍はこれら全ての組織から発生する可能性があり、その性質によって「良性」と「悪性」とに分類されます。「悪性」とは、異常な細胞分裂を繰り返して他の臓器に支障をきたすようなタイプのことです。
なお、厳密な意味で腫瘍ではありませんが、たまに発生する「真珠腫」(しんじゅしゅ)も無視できません。「腫瘍」が「自律的に分裂・増殖した細胞の塊」を意味しているのに対し、「嚢腫」(のうしゅ)は「袋状の組織内に何らかの内容物が詰まった状態」を意味しています。「真珠腫」は、「腫」という言葉がついているため「腫瘍」と勘違いしそうですが、厳密には「嚢腫」に分類されます。好発部位は外耳道や鼓膜の奥にある鼓室と呼ばれる部分の表面で、鼓室で発生した真珠腫が炎症を引き起こし、中耳炎に発展したものが「真珠腫性中耳炎」です。この病気は人間でもよく見られます。
猫の耳腫瘍の主な症状は以下です。肉眼で確認できるような腫れがあること以外は、外耳炎や中耳炎と言った他の疾患を症状を共有しています。なお、ただ単に外観を見ただけで、それが良性腫瘍なのか悪性腫瘍なのかを見分けることはほとんどできません。
耳の穴である「外耳道」の表面は、皮膚の最上部に当たる「表皮」(ひょうひ)、表皮の下で皮膚の形状を維持する「真皮」(しんぴ)、そして「アポクリン腺」と呼ばれる分泌腺などから構成されています。腫瘍はこれら全ての組織から発生する可能性があり、その性質によって「良性」と「悪性」とに分類されます。「悪性」とは、異常な細胞分裂を繰り返して他の臓器に支障をきたすようなタイプのことです。
良性
乳頭腫
皮脂腺腫
良性耳垢腺腫
良性線維腫
悪性
扁平上皮癌
皮脂腺癌
悪性耳垢腺腫
悪性線維腫
耳腫瘍の主症状
- イボ状の盛り上がりを視認
- 腫瘍からの出血
- 腫瘍から膿(うみ)や脂の排出
- 耳をしきりに触ろうとする
- 頭を振る
猫の耳腫瘍の原因
猫の耳腫瘍の原因としては、主に以下のようなものが考えられます。予防できそうなものは飼い主の側であらかじめ原因を取り除いておきましょう。
耳腫瘍の主な原因
- 不明 腫瘍の多くは原因不明で発生します。
- 皮膚の慢性炎症 「真珠腫」や良性腫瘍に関しては、外耳道や鼓室の皮膚における慢性的な炎症が引き金になっていると考えられています。猫で特に多いのが外耳道や中耳における良性腫瘍(炎症性ポリープ)で、好発年齢は5ヶ月~5歳です。
猫の耳腫瘍の治療
猫の耳腫瘍の治療法としては、主に以下のようなものがあります。
耳腫瘍の主な治療法
- 対症療法 腫瘍が良性で命を脅かすものでない場合は、疾患の原因を取り除くよりも、症状の軽減を目的とした治療が施されます。ただし猫に多い中耳の良性腫瘍に関しては、中耳炎や内耳炎を引き起こすことが多いため、外科手術が考慮されることもしばしばです。
- 腫瘍の切除
腫瘍が悪性で命を脅かす危険がある場合は、外科的に腫瘍を切除します。垂直耳道に腫瘍がある場合は、「外側垂直耳道切除術」(Zepp's法)が行われ、水平耳道に腫瘍がある場合は、「全耳道切除術」と「外側鼓室胞骨切り術」が複合的に行われます。前者は、耳の付け根あたりの皮膚を切り開き、垂直耳道にアプローチするという手技です。後者は骨切りを伴う非常に難易度の高い手技であるため、熟練した専門医による執刀が推奨されます。
中耳付近の良性腫瘍に対しては「腹側鼓室胞骨切り術」(VBO)がよく行われます。しかしこの手技は、手術部位の近くを走っている交感神経を傷つけ、医原性のホルネル症候群や内耳炎を引き起こす危険性があるため、事前のインフォームドコンセントが重要です。2017年にオランダのチームが行った調査(→詳細)では、「外側アプローチ牽引剥離」(TALA)という方法を用いれば、VBOよりも術後の合併症が少なくて済むと報告されていますので、ポリープの数が少なく鉗子でアプローチできる場所であれば、こちらの手術法が優先されることもあります。