ピーカンナッツ～安全性と危険性から適正量まで

　ピーカンは果実部分であれ外皮部分であれナッツアレルギーを引き起こす危険性があります。キャットフードにどちらかが用いられている場合、猫にもアレルギー症状が出てしまうかもしれません。
　ナッツアレルギーとは木の実全般に対して免疫系が過剰反応を示してしまう体質のことです。2015年から2016年にかけアメリカ国民40,443人を対象として行われた大規模なアンケート調査（複数回答あり）によると、木の実に対してアレルギーを抱えた人の割合が全体で1.2%おり、クルミが0.6%、アーモンドが0.7%、ヘーゼルナッツが0.6%、ピーカンが0.5%、カシューナッツが0.5%、ピスタチオが0.4%という内訳だったといいます（:Gupta, 2019）。 　ナッツアレルギーでやっかいなのは交差反応です。これは複数の木の実に対して同じようにアレルギー反応が出てしまうことで、クルミでアレルギーが引き起こされる人がカシューナッツでも引き起こされるなどの状態を指します。こうした危険性があることから、アメリカでは「食品アレルゲン表示消費者保護法」（FALCPA）によって、商品の中に意図的に木の実を入れた場合はその旨を表示しなければならないと義務付けられています。またEUでも同様の法律があります。
　日本でも食品表示法により、容器包装された加工食品に特定原材料が含まれている場合はその旨を表示しなければならないとされています。具体的には表示義務品目がえび、かに、小麦、そば、卵、乳、落花生。表示努力義務品目がいか、いくら、オレンジ、カシューナッツなどです。また2017年に行われた即時型食物アレルギーに関する実態調査により、特に幼児におけるナッツ類（木の実類）のアレルギーが増えていることが判明したため、2019年9月からはアーモンドが表示努力義務項目として加えられました。
　木の実アレルギーを引き起こす原因物質（アレルゲン）は完全には解明されておらず、果実だけでなく外皮にも含まれている可能性があります。例えばカシューナッツにアレルギーを抱えている人が、ナッツの外皮から抽出したオイルにも反応してしまうなどです。ピーカンも例外ではなく、果実と外皮の両方にアレルゲンを含んでいる可能性が示されています（:Joyce, 2006）。

　ヒルズの調査チームは46頭の猫を対象とし、構成の異なる食物繊維群が猫たちの腸内細菌叢にどのような影響を及ぼすかを検証しました。比較対照フードに含まれる繊維は粗挽きパール大麦、トウモロコシ、乾燥ビートパルプ、フラクトオリゴ糖、サイリウムで、テストフードに含まれる繊維はこれらに全粒オーツ麦、ピーカンナッツの殻（粉末）、マメ繊維、フラックスシード、乾燥した柑橘類の果実、かぼちゃ、クランベリーの絞りカス（ポマス）を加えたものです。
　比較フード4週間とテストフード8週間の給餌試験を行い、4週間に1回のペースで便サンプルを採取して中の細菌叢を調べたところ、テストフードを食べていた期間において酢酸とプロピオン酸が増え、逆に腐敗性の代謝産物（イソ酪酸・2-メチル酪酸・3-メチルブタン酸など）が減ったといいます。4週間目と8週間目の両方のチェックにおいてペプトコッカス属、サクシニビブリオ、エンテロコッカス属が減少していたのに対し、ブラウティアとバクテロイデスは逆に増加していたとも。
　こうした結果から調査チームは糖分解による発酵性の増加と腐敗性代謝物の減少から考え、食物繊維によって猫の腸内環境が改善した可能性が高いとの結論に至りました（:Wernimont, 2019）。

　ヒルズの調査チームは消化管に軽度の不調を抱えた30頭の猫を対象とし、食物繊維群が体調にどのような影響を及ぼすかを検証しました。試験デザインは、すべての猫に比較対照フードを3週間与えた後、ランダムで2つのグループに分け、一方にだけテストフードを4週間与え、さらに次の4週間では残った一方にだけテストフードを与えるというものです。なおテストフードに含まれる繊維はピーカンナッツの殻（粉末）、フラックスシード、乾燥した柑橘類の果実、ビートパルプ、クランベリーの絞りカス（ポマス）です。
　比較フードの給餌を終えた後、およびテストフードの給餌を開始して24日目と52日目のタイミングで便サンプルを採取して中の細菌叢を調べたところ、テストフードを給餌していた期間においては、細菌叢の構成で酢酸やプロピオン酸を生成するバクテリアであるバクテロイデス、クロストリジウム属、プレヴォテラ、ルミノコッカス属が増加していたといいます。また含有成分ではプロピオン酸が増加して便のpHが低下（酸性に傾いた状態）していたとも。統計的には有意ではありませんでしたが酢酸も増加傾向を示しました。
　さらに便中の糖分解産物（エリスロース・フコース・マルトース・リブロース・キシルロース・グルコース・アラビノース・グルクロン酸・フルクトース・キシロース・マンノース）が増加し、柑橘類由来と考えられる物質（エリオジクチオール・ヘスペリジン・ナリンゲニン・リモニン・ポンシレチン）、フラックスシード由来と考えられる物質（セコイソラリシレシノール・ジグルコシド）のほか、フェルラ酸、キナ酸、シナピン酸、バニリン酸、ゲンチジン酸などの増加も確認されました。
　こうした結果から調査チームは、食物繊維と特定の炭水化物によって腸内における糖分解と発酵性が上昇し、結果として便のpH低下や含有成分の変化が起こった可能性が強いとの結論に至りました。直腸に近い下部消化管から検出された植物由来の抗炎症物質や抗酸化物質は、猫の腸内環境を整え症状の改善につながるのではないかと指摘しています（:Wernimont, 2019）。

　ヒルズの調査チームは臨床上健康な46頭の猫たちをランダムで2つのグループに分け、一方には食物繊維としてピーカンナッツの殻（粉末）、全粒オーツ麦、マメ繊維、フラックスシード、乾燥した柑橘類の果実、カボチャ、クランベリーの絞りカス（ポマス）、フラクトオリゴ糖、サイリウムを含んだフード、他方にはサイリウム、チコリー、フラクトオリゴ糖を含んだフードを8週間に渡って給餌しました。給餌開始から4週目と8週目のタイミングで便サンプルを採取して細菌叢や組成を調べたところ、試験開始前と比べて両方のグループとも酢酸とプロピオン酸の濃度が増加し、腐敗性代謝産物の生成量が減少したといいます。また便のpHが低下して水分含量が増えたとも。
　両グループとも糖分解の代謝産物が増加しましたが、ピーカンナッツを含んだフードの方がすべての項目において上回っていたといいます。さらにピーカンナッツを含んだフードでのみ、マルトース、植物由来の抗炎症物質と抗酸化物質（リモニン・ポンシレチン・セコイソラリシレシノール・ジグルコシド）の増加が見られたそうです。
　こうした結果から調査チームは、、ポリフェノールに富む食物繊維源によって腸内細菌叢が活性化し、糖の分解が促進されたのではないかと推測しています（:Wernimont, 2019）。