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レシチン~安全性と危険性から適正量まで

 キャットフードのラベルに記された「レシチン」。この原料の成分から安全性と危険性までを詳しく解説します。そもそも猫に与えて大丈夫なのでしょうか?また何のために含まれ、猫の健康にどのような作用があるのでしょうか?

レシチンの成分

 レシチン(lecithin)は人間を始めとした生物の体内において、細胞膜、脳、神経組織などの構成要素として大量に保持されているリン脂質の一種です。含有食品としては卵黄、大豆、ヒマワリの種、エン麦、酵母、カビ類、動物の肝臓(レバー)、赤身肉、小麦、落花生、米、チーズ、魚などが挙げられます。 キャットフードの成分として用いられる「レシチン」  レシチンはリン脂質、糖脂質、中性脂肪、遊離脂肪酸、炭水化物など複数の成分から構成される物質であるため、分子式や分子量を特定することはできません。狭義では「ホスファチジルコリン」だけを意味しますが、健康食品の分野における広義ではホスファチジルコリンのほか、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトールなど複数の物質を同時に「レシチン」と呼称します。

レシチンの安全性

 レシチンは国内外において安全性の評価が行われており、おおむね人体や環境に対する悪影響はないと判断されています。具体的には以下です。
レシチンの安全性評価・海外
  • アメリカアメリカ食品医薬品局(FDA)ではレシチンを大豆油、とうもろこし油、サフラワー油の精製によって得られる複雑な混合物と定義し、一般食品への添加をGRAS(一般的に安全とみなされる)物質として認めています出典資料:FDA)
  • JECFAJECFA(FAO/WHO合同食品添加物専門家会議)はレシチン、加水分解レシチン、部分的加水分解レシチンのどれに対しても一日摂取許容量(ADI)を設定していません。
  • EFSA欧州食品安全機関(EFSA)はレシチン類は乳化剤として有効であり、対象動物種、消費者、使用者及び環境に対して安全であるため一日摂取許容量(ADI)を設定する必要はないと結論づけています出典資料:EFSA, 2020)
  • IARCIARC(国際がん研究機関)によって発がん性は確認されていません。
 一方、日本国内では厚生労働省によって大豆や卵黄由来の「酵素処理レシチン」が既存添加物の乳化剤として認可されマーガリン、チョコレート、アイスクリーム類、パン、ビスケットなどに使用されているほか、2014年からはヒマワリ種子由来の「ヒマワリレシチン」が指定添加物(乳化剤)として認可されています。どちらも安全な成分とみなされており、使用基準やADIは設定されていませんが、念のため動物を対象とした毒性試験結果を以下に示します。
レシチンの安全性・国内評価
  • 酵素処理レシチンの安全性 定義は「植物レシチン又は卵黄レシチンとグリセリンの混合物に、ホスホリパーゼDを用いて得られたもの」で、主成分はホスファチジルグリセロールです。
     マウスを対象とした急性経口毒性試験から得られたLD50(半数致死量)は体重1kg当たり5g超。ラットから得られたLD50は4g超。ラットを対象とした28日間の反復投与試験から得られた無毒性量(NOAEL=有害反応が見られない最大投与量)は体重1kg当たり1日481mg。ラットを対象とした3ヶ月間の反復投与試験から得られた無毒性量は体重1kg当たり1日2g。細菌を用いたDNA修復試験で変異原性(発がん性)は認められなかったとされています出典資料:食品安全委員会)
  • ヒマワリレシチンの安全性 2014年から指定添加物として認可されており、ヘキサンなどの溶剤で抽出したヒマワリ油に水を加えて撹拌し、沈降したガム質の塊から分離して作ります。
     ラットを対象とした28日間連日強制経口投与から得られた無毒性量(NOAEL)はオスメスともに体重1kg当たり1日1g超。ヒトにおいては22~83gを摂取しても有害事象は認められず、1日25~40gを数ヶ月間連続給与したところ、血清コレステロールの低下が頻繁に認められたとされています。また細菌を用いた調査により遺伝子突然変異誘発作用は認められず、ハムスターを対象とした調査により染色体異常誘発性は認められなかったとされています出典資料:添加物評価書)
 なお日本国内では使用された原材料に関わらず、レシチン全般が「医薬品的効能効果を標ぼうしない限り医薬品と判断しない成分本質(原材料)」に区分されていますので、薬と誤解を招くような表記とともに販売することはできません。

レシチンは猫に安全?危険?

 レシチンを猫に与えても大丈夫なのでしょうか?もし大丈夫だとするとどのくらいの量が適切なのでしょうか?
 人間の妊婦を対象とし、妊娠18週から出産後90日まで1日750mgのホスファチジルコリンを摂取してもらったところ、産まれてきた子供が10ヶ月齢および12ヶ月齢になった時の認知発達機能に関し、言語発達、短期視空間記憶、長期エピソード記憶に未投与グループと違いは見られなかったといいます出典資料:Cheatham, 2012)。リン脂質は脳の構成成分ですが、少なくともそれが脳の機能を改善してくれるわけではないようです。
 犬を複数のグループに分け、エン麦レシチンを体重1kg当たり1日1,250mg、2,500mg、5,000mgの割合で28日間に渡って給餌したところ、試験期間中に副作用や有害反応は見られず、体重、摂食量、血液、眼、尿にも何の変化も見られなかったといいます。この調査から犬における無毒性量(NOAEL)は体重1kg当たり1日5g超とされています出典資料:EFSA, 2020)
 猫を対象とした給餌試験は見つかりませんが、ヒマワリレシチンの一般的な構成分子から考えると、毒にはなりにくいと推測されます出典資料:添加物評価書)
ヒマワリレシチンの構成要素
  • リン脂質(47%)ホスファチジルコリン(16%)、ホスファチジルエタノールアミン(8%)、ホスファチジルイノシトール(14%)、ホスファチジン酸(3%)、その他
  • 糖脂質(10%)ガラクトースと脂肪酸からなるモノガラクトシルグリセリドやジガラクトシルジグリセリド。スルホキノボースと呼ばれる硫黄を含む糖をもち、光合成を行う微生物や高等植物に広く存在するスルホキノボシルジグリセリド。
  • 遊離脂肪酸(1%)パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸
  • 炭水化物(5.5%)食物繊維のため小腸においてほとんど消化されず、腸内細菌によって短鎖脂肪酸やガスに代謝されるスタキオースやラフィノース。グルコース(ブドウ糖)とフルクトース(果糖)の結合からなる二糖類の一種スクロース。
  • 中性脂肪(36%)
  • 水分(0.5%)
 レシチンは主要構成分子であるリン脂質のほか、糖脂質、遊離脂肪酸、中性脂肪、炭水化物などから構成されますが、どの物質も食品中に広く存在しており、生体にとって毒になりにくいものばかりです。食品安全委員会の言葉を借りれば「食品常在成分であること又は食品内若しくは消化管内で分解して食品常在成分になることが科学的に明らか」となります。
レシチンは猫の体内に元から存在している成分ですので、大量に摂取しても毒にはなりにくいですが、明白な健康増進効果もないようです。キャットフードに添加する目的は、純粋に「乳化剤」としてでしょう。