エアガン(空気銃)による猫の受傷事例
屋外にいる猫を対象とし、心無い人間がエアガン(空気銃)を用いて虐待行為に走る事例が世界的に頻発しています。ギリシアにある大学が受傷事例を集めた簡易版の疫学調査を行いました。
調査対象
調査対象となったのは1998年11月から2022年9月の期間、テッサロキニにあるアリストテレス大学附属伴侶動物クリニックを「急性の神経異常」で受診した猫たち。重症度は規定のスコアリングシステムに則ってI~Vに、受傷部位は頚部(髄節C6~T2)、胸部(髄節T3~L3)、腰部(髄節L4~S3)の3ヶ所に分類されました。
調査結果
医療データを精査した結果、空気銃関連の脊髄外傷が合計23件見つかりました。患猫たちの平均月齢は27.39ヶ月、オス13(去勢済み3)+メス10(避妊済み3)という内訳で、受傷部位は頚部1+胸部17+腰部5でした。
弾丸の直径は4.5mmで、射入孔は体幹背部に集中しており腹部などから弾丸が抜けた形跡(射出孔)は認められませんでした。脊椎(脊髄を囲む骨)の不安定性は認められなかったものの、すべてのケースで弾丸が脊椎を貫通して脊柱管内に突出しており、重症度Ⅲの1頭を除きすべてが重症度V(19頭)でした。
全頭が受診時に排尿もしくは排便に障害を抱えており、術後部分的にでも排泄機能の改善が見られたのはわずか3頭だけで、排尿に際しては徒手やカテーテル挿入で膀胱を空にする手技を必要としました。
外科手術を受けた20頭のうち片側椎弓切除術が17頭で、進行性の脊髄軟化症が疑われた1頭には安楽死が施されました。随意運動(自発歩行)を取り戻した患猫は6頭にとどまり、脊髄歩行(脊髄の反射を利用した歩行)が4頭、未回復のまま麻痺が残ったのは9頭で、術後10週のうちに神経学的な改善が見られなかった9頭のうち5頭には最終的に安楽死が施されました。 Penetrating airgun spinal cord injury in 23 cats (1998?2022)
Eirini Sarpekidou, Panagiota Svania, George Kazakos, Journal of Feline Medicine and Surgery, DOI:10.1177/1098612X241299274
弾丸の直径は4.5mmで、射入孔は体幹背部に集中しており腹部などから弾丸が抜けた形跡(射出孔)は認められませんでした。脊椎(脊髄を囲む骨)の不安定性は認められなかったものの、すべてのケースで弾丸が脊椎を貫通して脊柱管内に突出しており、重症度Ⅲの1頭を除きすべてが重症度V(19頭)でした。

外科手術を受けた20頭のうち片側椎弓切除術が17頭で、進行性の脊髄軟化症が疑われた1頭には安楽死が施されました。随意運動(自発歩行)を取り戻した患猫は6頭にとどまり、脊髄歩行(脊髄の反射を利用した歩行)が4頭、未回復のまま麻痺が残ったのは9頭で、術後10週のうちに神経学的な改善が見られなかった9頭のうち5頭には最終的に安楽死が施されました。 Penetrating airgun spinal cord injury in 23 cats (1998?2022)
Eirini Sarpekidou, Panagiota Svania, George Kazakos, Journal of Feline Medicine and Surgery, DOI:10.1177/1098612X241299274

猫を守れるのは結局「室内飼い」
ひとたび巻き込まれると皮膚だけでなく脊髄まで損傷する危険性があるエアガン銃創。飼い主のいない猫を守り切ることは困難ですが、ペット猫を確実に守る方法ならあります。
潜在的な受傷件数は多い
今回の調査では20年以上の期間が対象となりましたが症例が23件と少なく、おおよそ年に1件しか起こらないイメージです。また2013年9月から2017年3月の期間、北米、欧州、オーストラリアにある合計29の獣医外傷センターを受診した猫のうち、弾道性の外傷が27件あったといいます。これは全受診数3,425件の0.7%、貫通性外傷1,478件の1.8%に該当する値であり、やはりそれほど多いという印象は受けません。
しかし無差別の動物虐待は飼い主のいない野良猫をターゲットとすることが多いこと、および受傷した猫のすべてが医療措置を受けられるわけではないことを考えると、エアガンの被害に遭ったにもかかわらず病院で治療も受けずそのまま暮らしている外猫の数はかなりの数に上ると推測されます。実際、2021年に千葉県で発覚した動物虐待事件では、犯人が少なくとも80頭の猫にエアライフルを発射して大小の怪我を負わせたことを自供しています。このうち治療を受けられた猫は一体何頭いるのでしょうか?
しかし無差別の動物虐待は飼い主のいない野良猫をターゲットとすることが多いこと、および受傷した猫のすべてが医療措置を受けられるわけではないことを考えると、エアガンの被害に遭ったにもかかわらず病院で治療も受けずそのまま暮らしている外猫の数はかなりの数に上ると推測されます。実際、2021年に千葉県で発覚した動物虐待事件では、犯人が少なくとも80頭の猫にエアライフルを発射して大小の怪我を負わせたことを自供しています。このうち治療を受けられた猫は一体何頭いるのでしょうか?
エアガン受傷は重症化しやすい
弾丸の直径が4.5~5.5mmのとき、射速が36.6~91m/秒で人間の皮膚を貫通するとされています。猫の症例で弾丸が脊椎と髄膜を貫通して脊髄にまで達していた理由は、エアガンの射速が46~366m/秒で人間に比べると猫の体組織が薄く脆弱だったからでしょう。また射入孔がすべて背部に集中していた理由は、悪意ある人間が逃げ惑う猫を標的として下に向かって射撃したからだと推察されます。要するにおもちゃの銃でも当たり所が悪いと重症化しやすいということです。

エアガンの規制と実効力
日本では空気銃による悪質な事件が相次いだことを受け、2006年に銃刀法が改正されて空気銃(気体を圧縮して弾丸を発射する模造銃)に明白な区分が設けられました。威力の弱い順にエアソフトガン<準空気銃<空気銃となります。
D-StageGunNet
威力によるエアガンの区分
- エアソフトガン3.5J/cm2未満/玩具(おもちゃ)の扱いで所持に際して登録や認可は必要ない(※3.5J/cm2は6㎜BB弾で0.98J未満、8㎜BB弾で1.64J未満に換算)
- 準空気銃3.5J/cm2以上20J/cm2未満/人を傷害しえる威力で所持禁止
- 空気銃20J/cm2以上/人の生命に危険を及ぼしえる威力で競技用・狩猟用としての所持には公安委員会の許可が必要
エアガンによる猫の虐待事件
- カナダ(2024年5月)メイプルベイの迷子猫がエアガンの標的となり眼球損傷の大けが。予後が悪かったため安楽死となった(
:Cowichan Valley Citizen)。
- イギリス(2024年9月)ウエストノーフォークで暮らす猫の歯茎にエアガンの弾がめり込んだため摘出手術を余儀なくされる(
:BBC)。
- キプロス(2025年2月)レメソスの地域猫がエアガンで撃たれ、脊髄を損傷する大けが。最終的に安楽死が施された(
:in-cyprus)。
千葉県警は、空気銃で猫を撃って死なせたとして2021年6月22日に動物愛護法違反(愛護動物の殺傷)容疑などで逮捕した平田雄一郎容疑者(49/千葉市若葉区愛生町)について、別の猫も傷つけた疑いがあるとして、同容疑などで14日にも再逮捕する方針を固めた(このろくでなしは3年間で80~100匹の猫を撃ったと自供し、「命や法律を守る気持ちがなかった」とほざいています。先述したように、法律があろうとなかろうと動物虐待者の加害衝動を完全に抑えきることはできないのです。:朝日新聞)。
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ペットを悪意ある魔弾から守れるのは飼い主だけです。迷子を予防して室内飼いを徹底しましょう。