JVARMによる耐性菌調査
報告を行ったのは農林水産省の調査チーム。農水省がJVARM(動物由来薬剤耐性菌モニタリング)の一環として行っている「病気の動物由来の薬剤耐性菌調査」のうち、犬と猫における大腸菌の動向について精査しました。
- JVARM
- JVARMは主要な抗菌剤に対する動物由来の薬剤耐性菌の動向等を把握し、動物に使用する抗菌剤による人の健康と獣医療に対するリスク評価及びリスク管理の基礎資料を得ることを目的とした監視システム。1999年から実施されている。農林水産省・JVARM
調査対象
調査対象となったのは何らかの病気を抱えた犬猫の尿もしくは生殖管から単離された大腸菌サンプル。複数の抗菌薬に対する感受性を調査しましたが、特に2017年の調査で高い抵抗性が報告されたセフォタキシム(犬26.1% | 猫33.8%)にフォーカスした解析を行いました。
- セフォタキシム
- セフォタキシム(cefotaxime)は第三世代のセファロスポリン系抗菌薬。ヒトでも動物でも高い有効性が確認されているが、本国では動物医薬品として承認されていない。
調査結果
日本全土を北海道・東北地方、関東地方、中部地方、近畿地方、中国・四国地方、九州・沖縄地方の6つに区分した上でサンプル解析を行った結果、中国・四国地方を除くすべての地域からセフォタキシム抵抗性の大腸菌が検出されたと言います。具体的には犬27.6%(55/199)、猫33.0%(45/136)という高いものでした。
抵抗性が確認された大腸菌サンプルのうち犬51サンプルと猫45サンプルをさらにWGS(全ゲノムシーケンス)解析したところ、全サンプルが抵抗遺伝子mdf(A)を有しており、セフォタキシムのほかセファゾリンとアンピシリンに対する抵抗性を示しました。また多くのサンプルがキノロン系に対する抵抗性に関わっている遺伝子領域のgyrAおよびparCにダブル変異を持っていることが明らかになりました。
保有していたCTX-M遺伝子は多い順に以下のような並びとなりました。
Yukari Hiraoka, Hitoshi Abo, et al., Veterinary Microbiology Volume 298, DOI:10.1016/j.vetmic.2024.110220
抵抗性が確認された大腸菌サンプルのうち犬51サンプルと猫45サンプルをさらにWGS(全ゲノムシーケンス)解析したところ、全サンプルが抵抗遺伝子mdf(A)を有しており、セフォタキシムのほかセファゾリンとアンピシリンに対する抵抗性を示しました。また多くのサンプルがキノロン系に対する抵抗性に関わっている遺伝子領域のgyrAおよびparCにダブル変異を持っていることが明らかになりました。
- mdf(A)
- mdf(A)は多剤排出ポンプを通じてアミノグリコシド、スルフォナミド、トリメトプリム、マクロライド、テトラサイクリンに対する抵抗性を生み出す遺伝子。
保有していたCTX-M遺伝子は多い順に以下のような並びとなりました。
犬51サンプル
- blaCTX-M-27=21.6%
- blaCTX-M-14=19.6%
- blaCTX-M-15=17.6%
猫45サンプル
- blaCTX-M-27=22.2%
- blaCTX-M-14=22.2%
- blaCTX-M-15=11.1%
Yukari Hiraoka, Hitoshi Abo, et al., Veterinary Microbiology Volume 298, DOI:10.1016/j.vetmic.2024.110220
保菌率は横ばいも要観察
セフォタキシム抵抗性大腸菌の保有率に関して2017年に行われた調査では、犬26.1%、猫33.8%だったと報告されています。今回の調査では犬27.6%、猫33.0%という概ね同等の割合でした。
保菌率の大きな上下動はないようですが、そもそもなぜ犬猫から回収された大腸菌サンプルが、動物用薬剤とて承認されていないはずのセフォタキシムに対する抵抗性を有しているのでしょうか?
可能性は2つあります。1つはセフォタキシムが人に処方された後で耐性を獲得し、何らかのルートを通じて生活環境を共有するペットの犬猫に菌が移行したという可能性です。
当調査で解析されたサンプルはヒトから単離されるST131大腸菌(blaCTX-M-27保有)とクラスター上の深い関わりが認められました。また別の先行調査では飼い主とペットの腸内細菌が近似化するという現象が報告されています。特に飼い主が習慣的にペットとキスするような場合は、口を経由して容易に細菌が個体間を行き来するでしょう。 2つめは人間用の薬剤を動物に転用した結果、犬猫の体内でセフォタキシムに対する抵抗性を獲得してしまったという可能性です。概算では、小動物に処方される抗菌剤のおよそ40%が人間向けの薬だとされていますので、動物用として承認されていない薬剤に対する耐性菌が生まれないというのは早合点でしょう。
今回の調査は何らかの疾患を抱えた犬猫だけを対象としたものでしたが、健康な動物が不顕性に保有している菌の薬剤耐性もモニタリングする必要があると言及されています。
保菌率の大きな上下動はないようですが、そもそもなぜ犬猫から回収された大腸菌サンプルが、動物用薬剤とて承認されていないはずのセフォタキシムに対する抵抗性を有しているのでしょうか?
可能性は2つあります。1つはセフォタキシムが人に処方された後で耐性を獲得し、何らかのルートを通じて生活環境を共有するペットの犬猫に菌が移行したという可能性です。
当調査で解析されたサンプルはヒトから単離されるST131大腸菌(blaCTX-M-27保有)とクラスター上の深い関わりが認められました。また別の先行調査では飼い主とペットの腸内細菌が近似化するという現象が報告されています。特に飼い主が習慣的にペットとキスするような場合は、口を経由して容易に細菌が個体間を行き来するでしょう。 2つめは人間用の薬剤を動物に転用した結果、犬猫の体内でセフォタキシムに対する抵抗性を獲得してしまったという可能性です。概算では、小動物に処方される抗菌剤のおよそ40%が人間向けの薬だとされていますので、動物用として承認されていない薬剤に対する耐性菌が生まれないというのは早合点でしょう。
今回の調査は何らかの疾患を抱えた犬猫だけを対象としたものでしたが、健康な動物が不顕性に保有している菌の薬剤耐性もモニタリングする必要があると言及されています。
細菌の移行は双方向性で、人からペットだけでなくペットから人へも移ります。人医療と獣医療の知見を相補的に扱うワンヘルスの観点に立つと、耐性菌の出現抑止はとても重要な課題です。