猫の薬剤関連性顎骨壊死
ビスホスホネート関連性顎骨壊死(BRONJ)はビスホスホネートの投薬治療を受けた後、上下の顎骨が壊死を起こしてしまう病態。再吸収阻害薬に含まれるビスホスホネートとデノスマブを合わせた場合は薬剤関連性顎骨壊死(MRONJ)とも呼ばれます。
- ビスホスホネート
- ビスホスホネート(Bisphosphonate)は、骨の吸収(骨の脆弱化や破壊)を防ぐために用いられる再吸収阻害薬の一種。人では骨粗鬆症、猫では高カルシウム血症に対してよく処方される。日本口腔外科学会~顎骨壊死に関するポジションペーパー
調査対象
調査対象となったのは2015年から2021年の期間、アメリカ国内にある11の診療施設において「薬剤関連性顎骨壊死(MRONJ)」と診断された猫20症例。
選定条件は「ビスホスホネートを投薬されている」「骨露出もしくは8週間以上継続する慢性瘻を通してプローブ可能な骨が視認できる」とされました。また除外条件は「放射線治療歴や転移性骨疾患の病歴あり」とされました。
選定条件は「ビスホスホネートを投薬されている」「骨露出もしくは8週間以上継続する慢性瘻を通してプローブ可能な骨が視認できる」とされました。また除外条件は「放射線治療歴や転移性骨疾患の病歴あり」とされました。
調査結果
患猫たち20頭の平均体重は4.3kg、診断時の平均年齢は10.3歳、純血種6+非純血種14、メス9+オス11、全頭不妊手術済みでした。
Hatunen SL, Anderson JG, Bell CM,Campos HC, Finkelman MD and Shope BH (2024) , Front. Vet. Sci. 11:1436988, DOI:10.3389/fvets.2024.1436988
患猫たちの医療情報
- ビスホスホネートの成分アレンドロン酸
- 投薬理由特発性の高カルシウム血症
- 投薬期間(15例)平均30.2ヶ月(5ヶ月~66ヶ月)
- 併存症(19例)84.2%(16/19)
- 受診時の主訴口内違和, 食欲不振, 顔面部腫脹, 慢性瘻管, 流涎, 膿瘍, 骨の露出, 抜歯箇所に関連した非治癒箇所
- 治療骨と軟部組織のデブリードマン, 抜歯, 修正手術(35%=7/20)
- 転帰術後の完全回復(45%=9/20), 安楽死(10%=2/20), 症状残存(10%=2/20)
Hatunen SL, Anderson JG, Bell CM,Campos HC, Finkelman MD and Shope BH (2024) , Front. Vet. Sci. 11:1436988, DOI:10.3389/fvets.2024.1436988
顎骨壊死の原因と予防法
人医学におけるビスホスホネート関連骨壊死は投薬患者の0.35%程度、悪性腫瘍の治療を受けている人では0.7~18%程度とされています。人のほか猫、犬、マウス、ラット、ヒツジ、ミニブタで報告があります。
発症機序
発症機序は解明されていませんが、ビスホスホネートは骨組織との親和性が高いため、「骨マトリクスの中に再編・蓄積→破骨細胞の細胞死→骨再吸収率の低下→骨リモデリングの変化→老化した骨の除去が滞る→壊死した骨の蓄積」というメカニズムを通じて骨壊死が起こるものと想定されています。
猫では特発性もしくは難治性の高カルシウム血症に対する再吸収阻害薬の投与で発症します。また歯根吸収病変や口腔内扁平上皮種に対する逸話的な投薬例もあるため、発症の可能性を否定できません。
顎骨が特異的に侵食される現象に関しては、上下顎骨を構成する歯槽骨のターンオーバー(組織の総入れ替え)が長骨に比べてかなり長いからではないかと推測されています。また咀嚼に伴う微小外傷に常にさらされているという解剖学的な特徴も発症に関わっている可能性があります。
猫では特発性もしくは難治性の高カルシウム血症に対する再吸収阻害薬の投与で発症します。また歯根吸収病変や口腔内扁平上皮種に対する逸話的な投薬例もあるため、発症の可能性を否定できません。
顎骨が特異的に侵食される現象に関しては、上下顎骨を構成する歯槽骨のターンオーバー(組織の総入れ替え)が長骨に比べてかなり長いからではないかと推測されています。また咀嚼に伴う微小外傷に常にさらされているという解剖学的な特徴も発症に関わっている可能性があります。
人と猫の違い
人におけるBP副作用としてはびらん性食道炎、食道狭窄、胃潰瘍、腹痛、ぶどう膜炎、再発性の口内潰瘍・水疱などがあり、長期服用で非定型的な大腿骨骨折の報告もあります。
猫における先行報告では骨硬化症に対するアレンドロン酸投与で両側性の膝蓋骨骨折や右踵骨と左腓骨骨折をきたしたという症例があります。当調査でも長期服用群において両側の脛骨骨折および脛骨と腓骨骨折が認められました。
長期的な投薬を行った場合、人と同様に顎骨だけでなく長骨にも何らかの病変が生じる可能性は考慮しておいた方がよいでしょう。
人における危険因子には化学療法、糖質コルチコイド、糖尿病、高血圧、喫煙、トロンビン性の血液凝固障害、抜歯、装具誘発性外傷、歯科手術歴、歯周炎、インプラントなどがあります。
上記項目群のうち、猫では抜歯、口腔内手術、歯周病が多いため、同じメカニズムを通して発症リスクになるかもしれません。機序としては危険因子が免疫システムに悪影響を及ぼし、感染リスクが増大して発症につながる可能性が指摘されています。
猫における先行報告では骨硬化症に対するアレンドロン酸投与で両側性の膝蓋骨骨折や右踵骨と左腓骨骨折をきたしたという症例があります。当調査でも長期服用群において両側の脛骨骨折および脛骨と腓骨骨折が認められました。
長期的な投薬を行った場合、人と同様に顎骨だけでなく長骨にも何らかの病変が生じる可能性は考慮しておいた方がよいでしょう。
人における危険因子には化学療法、糖質コルチコイド、糖尿病、高血圧、喫煙、トロンビン性の血液凝固障害、抜歯、装具誘発性外傷、歯科手術歴、歯周炎、インプラントなどがあります。
上記項目群のうち、猫では抜歯、口腔内手術、歯周病が多いため、同じメカニズムを通して発症リスクになるかもしれません。機序としては危険因子が免疫システムに悪影響を及ぼし、感染リスクが増大して発症につながる可能性が指摘されています。
予防策・対応策
発症メカニズムが不明なため完全に予防することは難しいですが、過去の傾向からいくつかの対策を講じることは可能です。調査チームは以下の項目を推奨しています。
MRONJ対策
- 高カルシウム血症が本当に特発性か再確認
- 投薬の前に口腔手術を完了し、骨の治癒を完了させておく
- 抜歯後2ヶ月は投薬を控える
- すでに投薬を開始している場合は手術前後の抗菌剤
- 抜歯後の傷口をしっかり閉じる
- 6~12ヶ月に1度のモニタリング
障害部位の一部は膝歯症候群(PADS)と重複しますが、両者の関係性は不明です。