再分類菌コリネバクテリウム・ラモニー
熊本保健科学大学を中心とした調査チームは、2023年に日本の皮膚潰瘍患者から単離されたコリネバクテリウム菌および2018年から19年にかけて保護猫208頭の口内スワブから採取されたコリネバクテリウム菌を解析し、系統やシーケンスタイプの近似性を比較しました。
ヒト由来のコリネバクテリウム
人患者の病変部位から単離されたコリネバクテリウム菌は系統がKCU0303-001と同定されたものの、質量分析(MALDI-TOF-MS)ではC.ulcerans(ウルセランス)かC.pseudotuberculosis(シュードツベルクローシス)のどちらかという曖昧な解析結果となりました。
そこで全ゲノムシーケンスによる遺伝学的アプローチを行ったところ、最も近い系統がC.ulcerans NCTC7910であることが判明し、塩基配列の平均一致率は95.9%に達しました。
一方、微生物ゲノムの分子タイプに関するデータベース(Pasteur MLST)ではC.diphtheriae complexに属するC.ramonii(ST344)であることが示されました。
そこで全ゲノムシーケンスによる遺伝学的アプローチを行ったところ、最も近い系統がC.ulcerans NCTC7910であることが判明し、塩基配列の平均一致率は95.9%に達しました。
一方、微生物ゲノムの分子タイプに関するデータベース(Pasteur MLST)ではC.diphtheriae complexに属するC.ramonii(ST344)であることが示されました。
猫由来のコリネバクテリウム
2018年から19年にかけ、208頭の保護猫から採取された細菌群を分析した結果、C.ulcerans6系統とC.ramonii1系統が検出され、すべての系統でジフテリア毒素遺伝子の保有がPCRで認められました。
C.ulceransのうち1系統のシーケンスタイプ(ST)は既知のST337でしたが、残りの5系統は7つの遺伝子座のうちfusAに変異が認められたことから新たな系統の可能性が考慮されました。そこでパスツール研究所のゲノム解析サイトに登録したところ、予測通り新しいシーケンスタイプ「ST1011」であることが明らかになりました。
一方、C.ramoniiの系統はKPHES-18084、シーケンスタイプは「ST344」と判明し、シーケンスタイプに関しては上記したヒト由来のKCU0303-001と同じであることが判明しました。
C.ulceransのうち1系統のシーケンスタイプ(ST)は既知のST337でしたが、残りの5系統は7つの遺伝子座のうちfusAに変異が認められたことから新たな系統の可能性が考慮されました。そこでパスツール研究所のゲノム解析サイトに登録したところ、予測通り新しいシーケンスタイプ「ST1011」であることが明らかになりました。
一方、C.ramoniiの系統はKPHES-18084、シーケンスタイプは「ST344」と判明し、シーケンスタイプに関しては上記したヒト由来のKCU0303-001と同じであることが判明しました。
人と猫の細菌比較
ヒト由来の細菌と猫由来の細菌のシーケンスタイプが同一であることから、C.ramoniiとC.ulceransを完全ゲノムシーケンスで比較したところ、人から単離されたKCU0303-001および猫から単離されたKPHES-18084という2つの系統はTOX遺伝子を1つだけ保有した同一クローンである可能性が浮上しました。同じくST344に属するTSU-28との比較も行われましたが、こちらはTOX遺伝子を2つ保有しているという点で異なっていました。
Genomic Analysis of Novel Bacterial Species Corynebacterium ramonii ST344 Clone Strains Isolated from Human Skin Ulcer and Rescued Cats in Japan
Chie Shitada, Mikoto Moriguchi et al., Zoonotic Diseases(2024) Volume 4, DOI:10.3390/zoonoticdis4040020
Chie Shitada, Mikoto Moriguchi et al., Zoonotic Diseases(2024) Volume 4, DOI:10.3390/zoonoticdis4040020
猫→人→人感染にも要注意
コリネバクテリウムはジフテリア毒素を産生する系統があることから、日本では主要菌である「C.diphtheriae(ジフテリア)」が第二種感染症に指定されています。一方、C.diphtheriae complexと総称される群にはC.ulceransやC.pseudotuberculosisが含まれており、感染症指定はされていないものの一部の菌株がジフテリア毒素を産生する能力を有しています。また当調査で検出されたC.ramoniiは動物から伝染するC.ulceransとは異なり、ヒトからヒトに感染してジフテリア様症状を引き起こす危険性が疑われることから世界的に注意喚起がなされています。
猫の口内は菌の温床
来歴が記載されていないものの保護猫の口内から3.4%(7/208)の割合でコリネバクテリウム菌が検出され、ジフテリア毒素を産生する遺伝子を保有したC.ulceransもC.ramoniiも含まれることが明らかになりました。30頭に1頭ですから決して低くない数値です。
日本におけるC.ulceransによる人のジフテリア症例は2001年から2020年までの20年間で34件あり、その多くは保菌していた犬もしくは猫との接触が感染に関係しています。また2010年以降の症例が13件と過半数を占めています(:厚生労働省)。
こうしたトレンドが猫の飼育数増加と連動しているかどうかはわかりませんが、猫→人という感染ルートには警戒が必要でしょう。
日本におけるC.ulceransによる人のジフテリア症例は2001年から2020年までの20年間で34件あり、その多くは保菌していた犬もしくは猫との接触が感染に関係しています。また2010年以降の症例が13件と過半数を占めています(:厚生労働省)。
こうしたトレンドが猫の飼育数増加と連動しているかどうかはわかりませんが、猫→人という感染ルートには警戒が必要でしょう。
人猫間の菌移行に注意
系統解析の結果、猫由来のKPHES-18084はヒト由来のKCU0303-001のクローンであることが示されました。患者と猫との間に接触があったかどうかが未確認のため確定はできないものの、何らかのルートを通じて細菌が人間と猫の間を行き来ししている可能性がうかがえます。
なお2系統の間には一塩基バリアント(SNV)が81確認され、進化率(4SNV/ゲノム/年)から単純に逆算すると分岐して20年が経過しているとのこと。調査チームは両系統が属する「ST344」が日本国内において数十年前からエンデミック状態にあるのではないかと危惧しています。
ジフテリア症の致死率は5.9%で、欧州ではC.ulceransとC.diphtheriaeが同等に扱われているのに対し日本では後者だけが第二種感染症に指定されています。症例数は少ないもののやや軽視されている印象ですので、C.diphtheriae以外の菌に対する今後の監視が重要となるでしょう。
ジフテリア症の致死率は5.9%で、欧州ではC.ulceransとC.diphtheriaeが同等に扱われているのに対し日本では後者だけが第二種感染症に指定されています。症例数は少ないもののやや軽視されている印象ですので、C.diphtheriae以外の菌に対する今後の監視が重要となるでしょう。
症例報告を見る限り、特に多頭飼育家庭や屋外で餌やりに関わっている人は要注意です。また「C.ramonii」に関しては人から人に感染する可能性も指摘されています。