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ジフテリア産生菌の一種が人獣共通感染症として台頭

 犬や猫などで稀に感染例が報告されるジフテリア産生菌の一種が、人間にも感染しうる病原体として無視できない存在になりつつあります(2016.2.19/日本)。

詳細

 大阪市立環境科学研究所などを中心とした日本の調査チームは、大阪市内に住む犬、猫、ネズミを対象としてジフテリア毒素産生性の「コリネバクテリウム・ウルセランス」(C. ulcerans)の感染率を調査し、日獣会誌の68号内でその結果を報告しました。内容を簡潔にまとめると以下のようになります。 日獣会誌68(2015), P765~769 Corynebacterium ulceransとジフテリア

C.ウルセランスについて

「コリネバクテリウム・ウルセランス」(C. ulcerans)の顕微鏡写真  「C.ウルセランス」は感染症法において2類感染症に指定され、届け出が義務付けられている「C.ジフテリア」の近縁種で、一部はジフテリア毒素を産生する能力を有しています。日本国内では犬や猫の感染例が稀に報告されており、風邪に似た症状、皮膚炎、皮膚・粘膜潰瘍といった症状を引き起こすとされています。
 C.ウルセランスの中には動物だけでなく人間に感染する株もあり、発熱、発咳、咽頭痛といった「ジフテリア症」に似た症状を引き起こすことが知られています。人間の感染例は2001年から2012年までに11件が報告されており、2009年1月には野良猫が感染源と疑われる症例も報告されています。また、11件中8件は、猫との接触が感染源ではないかと疑われています。

調査対象

 2011年6月~2014年2月の期間、大阪市動物管理センターに収容された犬125頭と猫137頭、および2012年10月~2014年2月の期間、環境調査のために大阪市内で捕獲したドブネズミ27匹とクマネズミ2匹。

調査結果

 猫5頭(3.6%)の咽頭からのみC.ウルセランスが分離され、犬とネズミからは検出されなかったといいます。菌分離は夏季(5~8月)のみに見られ、すべての株で毒素産生が認められました。菌を保有していた5頭の猫に呼吸器症状は認められなかったものの、すべてやせ細って健康状態が悪く、統計学的にもC.ウルセランスと健康状態とが関連しあっていることが確認されました。また犬80頭、猫84頭、ドブネズミ20匹、クマネズミ1匹の血液検査を行ってジフテリア抗毒素価を測定したところ、猫3頭から検出されたものの、そのうち2頭からは菌が分離されなかったといいます。この2頭は「かつてC.ウルセランスを保菌していたけれども、今はクリーン」という意味です。

注意事項

 3.6%という無視できない感染率が確認されたことから研究チームは、「新興人獣共通感染症」とも言えるC.ウルセランスに関し、以下のような点への注意を促しています。
  • 野良猫について 所有者不明の猫や健康状態の悪い猫と接触する場合は、念のためマスクをしたり、接触後は確実に手洗いを行ったほうが無難である。
  • ペット猫について 健康状態を常にモニタリングし、皮膚炎、皮膚・粘膜潰瘍といった異常がみられた場合にはただちに獣医師に相談する。
  • 飼い主について 50歳以上で免疫力が低下するような基礎疾患を抱えている人、およびジフテリア予防接種を受けていない人は、発熱、発咳、咽頭痛といった「ジフテリア症」の症状に留意する。

解説

 C.ウルセランスに関しては2014年、山形県の研究チームからも報告があります。こちらの報告では2012年5~7月の期間中、山形県内の19ヶ所にある動物病院を受診した飼い猫187頭が調査対象となりました。血液中のジフテリア抗毒素価を測定した結果、猫187頭中2頭(1.1%)から0.1IU/ml以上の抗毒素が検出されたそうです。大阪と山形という空間的な距離にもかかわらず、両地においてC.ウルセランスの存在が確認されたという事実は、当菌がもうすでに日本各地に伝播してしまっているという可能性をうかがわせます。明確な感染ルートに関してはいまだにわかっていませんが、室内と屋外を自由に出入りできる猫の方が、感染の危険性が高いことは言うまでもありません。またやせ細った野良猫にエサを与えているだけの人は、やせている原因が空腹のせいではなく病気のせいである可能性も考慮し、是非動物病院に連れていってあげてください。 人獣共通感染症 日獣会誌67(2014), P613~616 やせた猫にエサを与えたいなら、感染症の可能性も考慮して病院に連れてって!