トップ2024年・猫ニュース一覧3月の猫ニュース3月27日

猫とのキスから移る病気~パスツレラ菌にご用心!

 猫とのスキンシップは飼い主の特権ですが、キスを始めとする濃厚な接触は避けたほうが良いかもしれません。悪条件が重なると、入院を余儀なくされるような重症例に発展する危険性があります。

パスツレラ菌による入院事例

 2024年、日臨救急医会誌に猫との濃厚接触が原因と考えられる中年男性の入院事例が報告されました。以下はその概要です。
 朝から続く発熱と咽頭痛が呼吸困難に進展した50代の男性が近くの救急病院を受診。診察では咽頭喉頭に発赤と腫脹が認められ、しわがれ声や呼吸困難が顕現したことから精査のため夜になって転院した。転院先では咽頭痛で発語すらできなくなっていた。
 血液検査で白血球19,900/μL、C反応蛋白8.43mg/dLが認められた以外特記すべき異常はなかったが、喉頭内視鏡検査で喉頭蓋の発赤と腫脹、および周囲粘膜の浮腫が認められ、緊急の気道確保が必要と判断された。
 救急集中治療室に移った後、急性喉頭蓋炎の起因菌として多いインフルエンザ桿菌、肺炎球菌、ブドウ球菌などのほか、口腔内嫌気性菌の可能性も考慮して取り急ぎセフトリアキソンとクリンダマイシンが投与されたが、発症から5日目に来院時の血液培養から犬猫の口内常在菌Pasteurella multocidaが検出されたため抗菌薬がセフトリアキソンからベンジルペニシリンカリウムに変更された。
 症状の落ち着きを見て生活環境を詳しく聴取したところ、飼い猫とキスをするなどの濃厚接触が日常的に行われていたことが判明。発症8日目には集中治療室を退室し、抗菌薬を10日間投与した後、14日目に自宅退院するに至った。
ネコとの接触で生じた Pasteurella multocidaによる急性喉頭蓋炎の気道緊急の1例
日臨救急医会誌(JJSEM)2024;27:63-7

猫とのキスに要注意!

 当調査で同定されたPasteurella multocidaは犬や猫の咬傷や引っ掻き傷に起因する感染症例の90%以上を占めるありふれた菌です。健康な人では免疫系が菌の増殖を抑え込むためほとんど症状は見られませんが、高齢、栄養不足、免疫抑制剤、その他免疫力を低下させる基礎疾患を抱えている人では日和見感染を起こすことがあります。

免疫力低下につけこむ菌

 当症例に登場した男性は空腸消化管間質腫瘍に対する2回の手術歴あり、抗悪性腫瘍剤としてイマチニブメシル酸塩を長期間服用していました。この薬は副作用として骨髄抑制が報告されていますので、潜在的な免疫抑制状態にあったのかもしれません。また皮膚への副作用として低確率で口唇炎、歯周炎、口腔アフタなどを引き起こすこともあるため、口の中にできた微小な傷口が菌の侵入経路になった可能性もあります。

基礎疾患がなくても要注意

 調査では世界中から報告された「猫を原因とするPasteurella multocidaが起因菌の急性喉頭蓋炎」の先行事例が8つほど紹介されていました。概要は以下です。 Pasteurella multocidaを原因菌とする急性喉頭蓋炎の症例集  症例が少ないため断言はできませんが、50歳過ぎの中年男性に多い印象を受けます。また明白な基礎疾患がなくても濃厚接触するだけで発症しうる可能性が伺えます。
 スキンシップはペットを飼う理由の1つといってもよいほど重要なことですが、基礎疾患や投薬の有無にかかわらず、口と口を合わせてキスをするような濃厚な接触は避けたほうがよいかもしれません。また意図的であれうっかりであれ、猫と食器を共有することも唾液を経由して菌が移動しますので同程度に危険です。 唾液を介するような猫との濃厚接触はパスツレラ菌感染のリスクあり  年齢的に中年に差し掛かったとか、薬を服用しているなど、免疫力を落とすような要因がある場合は一層注意したほうが良いでしょう。飼い主が倒れてしまうと、最悪のケースでは世話人を突然失った猫の方も共倒れしてしまいますからね。 パスツレラ症