遊びとケンカの境界線
調査を行ったのはスロバキアにあるコシツェ獣医薬学大学のチーム。2頭の猫が見せる行動が敵対的であるのか友好的であるのかを判断する際のヒントを明確化するため、各所から猫の動画を集めて動物学的な分析を行いました。
調査対象と方法
調査対象となったのはYouTubeにアップロードされている猫動画の中から「ケンカ」や「遊び」をキーワードに絞り込んだもの、およびFacebook内での呼びかけに応じた一般飼い主からボランティアベースで送られてきたペット猫の動画。個体重複や不鮮明なものを除外し、最終的に210頭による105の相互活動が解析対象となりました。ちなみに子猫は38頭(18.1%)、屋外サンプルは64(39%)、動画の平均長は2分2秒(122秒)です。
映像は4人の評価者(アカデミック分野から2名+行動診療の専門家2名)が猫たちの行動をあらかじめ決めておいたエソグラムに則って分類し、さらに2頭の関係性を「遊び」「敵対」「中間」「不明」のどれかに区分していきました。
映像は4人の評価者(アカデミック分野から2名+行動診療の専門家2名)が猫たちの行動をあらかじめ決めておいたエソグラムに則って分類し、さらに2頭の関係性を「遊び」「敵対」「中間」「不明」のどれかに区分していきました。
エソグラム
- 不動頭と胴体が特定姿勢(しゃがみ・寝そべり・座位・立位)に固定されたまま動かない状態。
- 取っ組み合い2頭の猫が互いに接触し、くんずほぐれつになった状態。前足で引き寄せたり猫キックを繰り出したり噛んだりするが身体を傷つけることはない。
- 追いかけ一方の猫が逃げ惑う他方の猫を追いかける状態。
- 相互活動2頭の猫が関係する行動全般。相互毛づくろい、接近、拒絶、腹見せ、にらみ合い、猫パンチ、水平飛び、ロードーシス(背中を反らせた状態)、マウント、首噛み、立毛、飛びかかり、退散、横っ飛び、匂い嗅ぎ、直立、ストーキング、ごろ寝など。
- 非相互活動他の猫の存在を必要としない行動全般。物を触る、飲む、頭を振る、ジャンプする、自分の体をグルーミングする、歩く、走るなど。
- 発声喉や口から声を発する行動全般。うなる、シャーと言う、カッと威嚇する、わめく、ニャーと鳴く、喉の奥でクルルと音を出すなど。
調査結果
映像を1つずつ評価していった結果、「遊び」が56.2%(118サンプル)、「敵対」が28.6%(60サンプル)、「中間」が15.2%(32サンプル)という内訳になったといいます。
また主成分分析(PCA=たくさんの量的な説明変数をより少ない指標や合成変数に要約する手法)を行った結果、変数の11~18%を説明できる6つの主成分(PC)が見つかったとのこと。
Gajdos-Kmecova, N., Pe?kova, B., Kottferova, J. et al. . Sci Rep 13, 92 (2023), DOI:10.1038/s41598-022-26121-1
また主成分分析(PCA=たくさんの量的な説明変数をより少ない指標や合成変数に要約する手法)を行った結果、変数の11~18%を説明できる6つの主成分(PC)が見つかったとのこと。
6つの主成分(PC)
- PC1=取っ組み合いvs不動
- PC2=発声
- PC3=追いかけ
- PC4=非相互活動
- PC5=繰り返しの相互活動
- PC6=長時間の相互活動
3つのメタクラスター
- クラスターAPC1(取っ組み合いvs不動)が高く、PC4(非相互活動)が低い/取っ組み合い+非発声が特徴/「遊び」と評価された映像の58%が含まれる/「遊び」が有意に多く「敵対」が有意に少ない/子猫が多い
- クラスターBPC5(繰り返しの相互活動)とPC6(長時間の相互活動)が高い/小休止をはさみつつ長い間相互活動を行うのが特徴/「中間」と評価された映像の47%が含まれる/「中間」が多く「敵対」が少ない
- クラスターCPC2(発声)とPC5(繰り返しの相互活動)が高い/PC1(取っ組み合いvs不動)が低い/繰り返しの相互活動中で発声が見られることおよび長い時間の不動が特徴/敵対評価の72%が含まれる/敵対評価が多く遊び評価が少ない/子猫が少ない
Gajdos-Kmecova, N., Pe?kova, B., Kottferova, J. et al. . Sci Rep 13, 92 (2023), DOI:10.1038/s41598-022-26121-1
仲裁のタイミングは「敵対的な声」
「遊び」評価の58%が含まれるクラスターAと、「敵対」評価の72%が含まれるクラスターCを比べることにより、2頭の猫が見せる行動が友好的なのか対立的なのかを判断する際のヒントが浮かび上がってきます。端的に表現すると以下のようになるでしょう。
●遊び/友好的
子猫が黙々と取っ組み合いをしている状況 ●敵対/対立的
成猫が声を発しながらじっと睨み合っている状況
敵対的な声は交戦の合図
猫同士が友好的な声をかけあう状況は実はかなり限定的で、子猫と母猫で発せられる声や発情期の猫で発せられる声を除き、多くは人間に対して発せられるものです。
一方、敵対的な声は縄張り争いやメスを巡ってのオス同士のケンカでよく発せられます。このときの声は実際の争いに発展する前の段階で相手の気勢を削ぎ、身体的な傷つけ合いを避けようとする本能的な戦略です。
クラスターCの特徴として挙げられた「発声」も、一触即発の状態にある猫たちが発した儀式的な威嚇声が反映されたものと推測されます。
一方、敵対的な声は縄張り争いやメスを巡ってのオス同士のケンカでよく発せられます。このときの声は実際の争いに発展する前の段階で相手の気勢を削ぎ、身体的な傷つけ合いを避けようとする本能的な戦略です。
クラスターCの特徴として挙げられた「発声」も、一触即発の状態にある猫たちが発した儀式的な威嚇声が反映されたものと推測されます。
飼い主が介入すべきタイミング
猫の本能的な行動、および今回の調査で浮かび上がってきた敵対的な猫が見せる特徴的な行動から考え、多頭飼育家庭において飼い主が介入すべきタイミングが「猫が敵対的な声を出し始めた時」であることが強く示唆されます。「敵対的な声」に含まれるのはシャーシャー、喉の奥でカッ、ヴ~という唸り声、赤ん坊のような雄叫びなどです。以下の動画を見たほうがわかりやすいでしょう。
クラスターCのもう1つの特徴であるPC5(繰り返しの相互活動)には多くの項目が含まれますが、敵対している猫がよく見せる行動にはにらみ合い、腹見せ(降参)、立毛、飛びかかり、退散などがあります。これらは遊びの中でも見られますが、声と合わせて覚えておけばケンカになる前の段階で中断できる確率が高まるでしょう。
敵対的な発声はそれまで遊んでいたはずの猫同士の間でも突如として発せられることがあります。もし声に気づいたら、どちらか一方が「もうやめよう」「しつこいぞ!」「痛いじゃないか!」という意思を表明していると理解し、仲裁に入ったほうが良いでしょう。そのまま放置してしまうと、儀式的な威嚇声から実際の身体的な暴力に発展してしまう危険性があります。クラスターCのもう1つの特徴であるPC5(繰り返しの相互活動)には多くの項目が含まれますが、敵対している猫がよく見せる行動にはにらみ合い、腹見せ(降参)、立毛、飛びかかり、退散などがあります。これらは遊びの中でも見られますが、声と合わせて覚えておけばケンカになる前の段階で中断できる確率が高まるでしょう。