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猫に多い怪我・外傷の原因~外にさえ出さなければほとんど防げる

 国によっては猫の全死因死亡率のおよそ12%を占めると推計されている怪我・外傷。「VetCOT」と呼ばれる医療データベースを用いて原因を精査したところ、そのほとんどは室内飼育で防げることが明らかになりました。

猫の怪我・外傷統計

 調査を行ったのはアメリカ・コロラド州立大学を中心としたチーム。外傷に関する知識共有と技術向上のために創設された電子医療記録のデータベース「VetCOT」を利用し、猫における外傷症例とその転帰を統計的に検証しました。

調査対象

 調査対象となったのは2017年4月から2019年12月までの期間、上記「VetCOT」に報告された合計3,895頭の患猫たち。基本用語は以下です。
用語解説
  • 外傷外部からの力によって組織に加えられた急性の損傷
  • 鈍的外傷皮膚や筋肉を貫通しないタイプの外傷
  • 貫通外傷皮膚や筋肉を貫通するタイプの外傷
  • 複合外傷鈍的外傷+貫通外傷
  • ATT動物外傷トリアージ(Animal Trauma Triage)の略。急患を重症度によって振り分けることで軽症は0~2、中等度は3~6、重症は6超とされた。
  • mGCS意識の正常レベルを測る指標「グラスゴー・コーマ・スケール改」の略。正常は18超、中等度は4~17、重症は3~13とされた。

調査結果

 調査対象となった3,895頭に関し、年齢は中央値で3歳、体重は中央値で4.4kg、不妊手術ステータスの内訳は未去勢オスが448頭(11.5%)、去勢オスが1,705頭(43.8%)、未避妊メスが392頭(10.1%)、避妊メスが1,243頭(31.9%)でした。また外傷区分の内訳は鈍的外傷が2,240頭(58%)、貫通外傷が1,365頭(35%)、複合外傷が290頭(7.4%)でした。
入院率
  • 鈍的外傷:849頭(38%)
  • 貫通外傷:298頭(22%)
  • 複合外傷:122頭(42%)
外科手術率
  • 鈍的外傷:597頭(27%)
  • 貫通外傷:522頭(40%)
  • 複合外傷:113頭(39%)
生存率
  • 鈍的外傷:1,783頭(80%)
  • 貫通外傷:1,232頭(90%)
  • 複合外傷:198頭(68%)
外傷患猫たちの医療措置とその結果
重症度(ATTスコア)
外傷のタイプ別に見た患猫の重症度(ATTスコア)
  • 軽症・鈍的外傷:61%
    ・貫通外傷:76%
    ・複合外傷:39%
  • 中等度・鈍的外傷:25%
    ・貫通外傷:17%
    ・複合外傷:34%
  • 重症・鈍的外傷:13%
    ・貫通外傷:6%
    ・複合外傷:26%
mGCS
外傷のタイプ別に見た患猫の意識レベル(mGCS)
  • 正常・鈍的外傷:71%
    ・貫通外傷:89%
    ・複合外傷:63%
  • 中等度・鈍的外傷:20%
    ・貫通外傷:7%
    ・複合外傷:24%
  • 重症・鈍的外傷:9%
    ・貫通外傷:3%
    ・複合外傷:13%
Evaluation of outcome associated with feline trauma: A Veterinary Committee on Trauma registry study
Journal of Veterinary Emergency and Critical Care(2023), Carly W. Gregory, Akaterina M. Davros, et al., DOI:10.1111/vec.13277

猫の外傷は室内飼いで防げる

 鈍的外傷は入院率が高くて手術率が低く、逆に貫通外傷は入院率が低くて手術率が高いという特徴が見て取れます。前者の代表格は打撲、捻挫、骨折で、後者のそれは皮膚や筋肉の裂傷ですので、外傷のタイプが治療計画に反映されたものと推測されます。

外傷の原因

 気になる猫たちの受傷原因を見てみましょう。
貫通外傷の原因
  • 咬傷:44%
  • 不明:31%
  • その他:13%
 「その他」には金属裂傷、ガラス裂傷、銃創、刺創、ナイフ裂傷、トゲなどが含まれ、どれも7%未満でした。
鈍的外傷の原因
  • 高所からの落下:27%
  • 乗り物との衝突:23%
  • 不明:22%
  • その他:19%
 「その他」には落下物、非貫通性咬傷、首輪による窒息、乗り物内、乗り物から飛び出す、武器による殴打などが含まれ、どれも5%以下でした。

外傷予防法

 猫における怪我・外傷の原因を見る限り、そのほとんどが屋外で発生していることがわかります。「不明」を「猫が外にいる時に受傷したのでわからない」と読み替えると、さらにその割合は増えます。
 こうした事実や推論から見えてくる猫の怪我予防法は「完全室内飼い」するという単純なことです。猫をベランダに出さなければ高所から落下することはありません。猫を屋外に出さなければ犬や外猫に噛まれることもありませんし、車に轢かれることも、動物虐待者にナイフで刺されることもありません。
 外傷が原因の死亡率(安楽死含む)に関し、貫通外傷はおよそ10%、鈍的外傷はおよそ20%、そして複合外傷はおよそ30%です。 一方、新型コロナウイルスの死亡率はおよそ0.2%です(2023年1月末時点における死亡者数の累計÷陽性者数の累積)。猫を外に出して怪我・外傷リスクを高めることが、いかに危険かがお分かりいただけるでしょう。 猫を放し飼いにしてはいけない理由