交差反応による「馬-猫症候群」
複数の医療施設に所属する日本のチームは、アレルゲンの交差反応メカニズムによって馬アレルギーを発症した少年の例を報告を行いました。以下で簡単にご紹介します。
9歳になる少年は片親だったため、週日は祖母の家で過ごし、週末は父親の家で過ごすという変則的な生活を送っていた。どちらの家でも猫を飼っていたものの、持病としてアトピー性皮膚炎、鶏卵アレルギー、喘息、アレルギー性鼻炎などを抱えていたことから積極的な接触は避けていた。しかし掃除が行き届いていなかった父親の家では湿疹や喘息がいつも悪化していたため、診断は付いてないものの猫アレルギーを併発していることが疑われた。
ある日、少年がレストランで生の馬肉を食べたところ、5分から10分が経過したタイミングで口内の痛み、全身性の蕁麻疹、喘鳴が出現した。症状が深刻だったため救急車で最寄りの病院に搬送され、アドレナリンの筋内注射、気管支拡張薬の吸引、糖質コルチコイドと抗ヒスタミン剤の静脈注射という応急処置が施された。
シーソー呼吸(息を吸うときに胸がへこんでおなかがふくらみ、息を吐くときは胸がふくらんでおなかがへこむ状態)を含む初期症状はいったん収まったものの、22時間後に両下肢に蕁麻疹が出現。再び抗アレルギー治療が行われた。 アナフィラキシーを疑って食歴を調べたところ、加熱調理された豚肉、牛肉、燻製肉(ハムやソーセージ)などは日常的に問題なく食べていたとのこと。一方、生の豚肉、生の牛肉、および加熱調理済みの馬肉を食べた経験がなかったため、これらの食材の抗原性に関してはよく分からなかった。
アレルギー検査の結果、以下のような事実が明らかになった。
Tomoya Shingaki MD, Yukiko Hiraguchi MD et al., Journal of Allergy and Clinical Immunology(2023), DOI:10.1016/j.jacig.2023.100139
シーソー呼吸(息を吸うときに胸がへこんでおなかがふくらみ、息を吐くときは胸がふくらんでおなかがへこむ状態)を含む初期症状はいったん収まったものの、22時間後に両下肢に蕁麻疹が出現。再び抗アレルギー治療が行われた。 アナフィラキシーを疑って食歴を調べたところ、加熱調理された豚肉、牛肉、燻製肉(ハムやソーセージ)などは日常的に問題なく食べていたとのこと。一方、生の豚肉、生の牛肉、および加熱調理済みの馬肉を食べた経験がなかったため、これらの食材の抗原性に関してはよく分からなかった。
アレルギー検査の結果、以下のような事実が明らかになった。
アレルギー検査結果一覧
- 血清特異的IgE抗体検査猫のフケ、豚肉、牛肉、猫血清アルブミン(Fel d 2)、ブタ血清アルブミン(Sus s 1)、ウマ血清アルブミン(Equ c 3)、ウシ血清アルブミン(Bos d 6)に対して陽性反応が認められた/一方、α-gal(4足動物の赤身肉や内臓に含まれる糖鎖の一種)に対しては陰性だった
- 皮膚プリックテスト加熱調理済みの馬肉には無反応だったものの、生の馬肉に対して2.7×2.7mmの弱反応が認められた
- BAT(好塩基球活性化テスト)生の馬肉抽出成分に対してCD203cの発現量促進が認められた
- 免疫ブロットEqu c 3への反応が示唆された
- 阻害試験猫被毛抽出成分を阻害剤とした阻害試験では、濃度依存性に馬肉タンパクおよびFel d 2両方に対する血清IgE抗体の減衰が認められたことから、Fel d 2と馬肉タンパクとの間で交差反応が起こりうる可能性が示された
Tomoya Shingaki MD, Yukiko Hiraguchi MD et al., Journal of Allergy and Clinical Immunology(2023), DOI:10.1016/j.jacig.2023.100139
四足動物の生肉には要注意!
交差反応は意外な動物間で起こりますので、猫アレルギーを抱えている人は特に四足動物の肉を食するときに注意しなければなりません。
馬アレルギーの症例
馬アレルギーの症例は極めて少なく、文献上数えるほどしかありません。例えば39歳の女性の例では、そもそもハムスターアレルギーによる喘息持ちで、馬肉を食べた後で唇の腫れを経験したとされています。また38歳の女性の例では、犬アレルギーによる喘息持ちで、馬肉ステーキを食べた後で咳き込み、喉頭、唇、歯茎の腫れを経験したとされています。
どちらの症例も馬と接することで感作されたのではなく、別の動物に対するアレルギーを持病として持っており、アレルゲン(抗原)の交差反応によって馬アレルギーを発症していることがうかがえます。今回の少年も、猫と馬との間で交差反応が起こってしまった可能性が高いと考えられます。
どちらの症例も馬と接することで感作されたのではなく、別の動物に対するアレルギーを持病として持っており、アレルゲン(抗原)の交差反応によって馬アレルギーを発症していることがうかがえます。今回の少年も、猫と馬との間で交差反応が起こってしまった可能性が高いと考えられます。
交差反応の好例「豚-猫症候群」
免疫系が抗原を誤認することで発症する交差反応の好例としては「豚-猫症候群」が有名です。
この疾患ではブタアレルゲンである「Sus s 1」と猫アレルゲン「Fel d 2」との間で交差反応が起こり、豚肉を食べることで猫アレルギー症状が引き起こされます。血清アルブミンの同一性は70~87%程度ですが、加熱すれば分子構造が変化して抗原性が減弱します。
今回の少年も、馬刺しではなくすき焼きやステーキ(ウェルダン)など赤みが見えなくなるくらい加熱調理した肉だったらアナフィラキシーを発症しなかったかもしれません。
この疾患ではブタアレルゲンである「Sus s 1」と猫アレルゲン「Fel d 2」との間で交差反応が起こり、豚肉を食べることで猫アレルギー症状が引き起こされます。血清アルブミンの同一性は70~87%程度ですが、加熱すれば分子構造が変化して抗原性が減弱します。
今回の少年も、馬刺しではなくすき焼きやステーキ(ウェルダン)など赤みが見えなくなるくらい加熱調理した肉だったらアナフィラキシーを発症しなかったかもしれません。
「Fel d 2」を抗原とした猫アレルギーを抱えている方は、豚肉だけでなく馬肉にも注意が必要です。どうしても食べたいときは十分に加熱してアレルゲンの分子構造を変えてください。