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犬や猫との接触は子供の回虫感染リスクを高める

 異なる大陸に属する2万人以上を対象としたメタ分析により、犬や猫との接触は回虫の感染リスクを高めることが明らかになりました。ただし「18歳未満」という条件が重なったときだけです。

犬猫との接触と回虫感染率

 寄生虫の一種である回虫によって引き起こされるトキソカラ症(toxocariasis)の調査を行ったのはブラジルにあるウエスタンサンパウロ大学のチーム。2009年1月から2019年6月までの期間、回虫の血清陽性率および犬猫との接触を変数として含んだ調査を世界中のデータベースから選別し、最終的に大陸の異なる13の国から発表された41報をメタ解析の対象としました。大まかな地域には北南米(21報)、中東(9報)、西太平洋(5報)、ヨーロッパ(3報)、アフリカ(2報)、東南アジア(1報)が含まれます。
トキソカラ症
犬回虫もしくは猫回虫が何らかのルートを通じて人体内に入り込み、幼虫が器官内を移行する寄生虫症。幼虫移行症とも。多いのは目や内臓で、前者を「眼移行型」、校舎を「内臓移行型」に分類する。 人と動物の共通感染症ガイダンス CDC:Toxocariasis 回虫の生活環(ライフサイクル)と宿主との関係概略図
 41報中に含まれていた合計20,515人分の医療データを調べた所、血清から回虫卵の抗体が検出された割合(血清陽性率)は24.1%だったといいます。緯度0~20度の範囲内に全体の41.1%が含まれ、緯度が高いほど陽性率が低いという傾向が認められました。
 地域別に感染リスクを比較した場合、統計的に有意と判断されたのは北南米、中東、西太平洋だけでオッズ比(OR)は以下のように算出されました。オッズ比とは標準の起こりやすさを「1」としたときどの程度起こりやすいかを相対的に示した数値のことです(OR2→2倍リスクが高い)。
回虫感染率の地域別OR
  • 北南米=OR1.37
  • 中東=OR2.87
  • 西太平洋=OR1.39
 年齢で見ると18歳未満における血清陽性率は27.2%(3,665/13,496)、18歳以上におけるそれは18.3%(1,283/7,019)となり、若年層における感染率がかなり高いことが明らかになりました。また調査の眼目である「犬や猫との接触歴」という変数を交えて血清陽性率を調査した結果、「18歳未満+犬猫との接触歴あり=16.2%」「18歳以上+犬猫との接触歴あり7.8%」となり、両者の差は統計的に有意と判断されました。さらに18歳未満に限定した場合、犬との接触歴はOR1.53、猫との接触歴はOR1.64でしたが、同様の感染リスク増加は18歳以上の年齢層では確認されなかったそうです。
Dog and Cat Contact as Risk Factor for Human Toxocariasis: Systematic Review and Meta-Analysis.
Merigueti YFFB, Giuffrida R, da Silva RC, Kmetiuk LB, Santos APD, Biondo AW, Santarem VA. Front Public Health (2022), DOI:10.3389/fpubh.2022.854468, PMID: 35836995; PMCID: PMC9273826

子供で高い回虫感染リスク

 今回の調査により、18歳未満に限定した場合、犬や猫との接触が回虫の感染リスクを高める可能性が示されました。どういうことなのでしょうか?

年齢と回虫感染リスク

 小児病院における患者を対象として行われた先行調査では、回虫の抗体陽性率が30%だったと報告されており、今回の調査結果で示された高い値(27.2%)と近似しています。
 回虫感染リスクを調査した別の先行調査では「2~8歳」「爪噛み癖」「土食癖」「動物への暴露」などが危険因子として挙げられていますので、若齢層における高い感染率には「好奇心の赴くまま土遊び、砂遊び、動物との戯れに夢中になる→手を洗わないまま指を口に入れてしまう→虫卵を体内に取り込む」といった感染ルートが関わっていると想定されます。

緯度と回虫感染リスク

 今調査では緯度0~20度という低い地域において高い感染率が報告されました。「緯度が低い=赤道に近く温暖」「緯度が高い=赤道から遠く寒冷」と単純に解釈すると、寒冷気候が回虫のライフサイクルに合っていないため感染率が低下するものと推測されます。また気温が低いと外出機会が減り、結果的に虫卵との接触機会も減って感染率が下がるという因果関係もあるでしょう。

犬猫と回虫感染リスク

 ポーランドで2~16歳を対象として行われた調査では、駆虫治療(アルベンダゾール)に反応しなかった患者における影響因子は「土食」および「犬猫との接触」だったと報告されています。犬の場合は散歩、猫の場合は放し飼いによって屋外にアクセスする機会が増えます。屋外で過ごす時間が長ければ長いほど虫卵と接触する機会も増え、被毛の表面に付着してしまうのかもしれません。
 また別の調査では人間の靴底に虫卵が付着してそのまま家庭内に持ち込まれるリスクも示唆されています。この知見から考えると、たとえ犬や猫が外に出なくても靴の置かれた玄関を歩くことで肉球や被毛に虫卵が付着し、そのペットを触ることで子供が感染してしまうというルートが想定されます。 イヌ回虫は犬の足や人間の靴底に付着して家の中に入り込む! 外を歩いた後の犬の足裏および人の靴裏から採取された回虫卵の陽性率

トキソカラ症の予防法

 過去のメタ分析を通して世界的に見たときの回虫血清陽性率は19%、不特定多数の人が訪れる公共空間(広場や公園)における回虫卵検出率は21%と報告されています。世界保健機関(WHO)が回虫症を公共の健康として優先して考慮すべき疾患のトップ6に数えているのもうなづけます。
 大人における感染リスクは生水、生食、洗っていない生野菜、鶏肉、豚肉の摂食などです。子供における感染ルートは上記のほか、土食、爪噛み、指しゃぶり、手洗いの不徹底などが含まれます。さらに今回の調査により犬や猫の被毛が虫卵を媒介している可能性が示されましたので、「動物との接触」も危険因子として数えたほうが良いでしょう。
 動物好きの人はポジティブな感情で補正がかかり「動物は汚くなんかない!」と思い込みがちですが、見た目の愛らしさと虫卵保有率とは無関係です。感染リスクを下げたいのなら感情的な擁護論に走るのではなく、「屋外にいる犬猫には不用意に触らない」「犬を散歩した後は肉球や被毛を念入りに拭く」「猫を放し飼いにしない」といった実際的なルールを守ることの方が重要です。
 注目すべきは18歳以上の年齢層では犬猫の接触歴と感染リスクが連動していないという点です。爪を噛んだり指をしゃぶらないことの他、手洗いをする回数が子供に比べて多いからだと推測されます。つまり衛生観念によってもリスクは十分に軽減できるということです。
猫と飼い主両方の健康を守るためにできることは、まず猫を完全室内飼いにすることです。猫は犬ほど食糞をしない代わりに、毛づくろいするという習性があることから、被毛に付着した虫卵を容易に飲み込んでしまいます! 猫を放し飼いにしてはいけない理由