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スペインにおける猫のフィラリア感染率調査(2022年版)

 スペイン国内で猫のフィラリア症に関する大規模な疫学調査が行われ、抗体陽性率と関連のあるいくつかのリスクファクターが明らかになりました。

スペインにおける猫のフィラリア感染率

 犬糸状虫症(フィラリア症)を引き起こすD. immitisの感染率調査を行ったのはスペイン国内にある複数の大学からなる共同チーム。2020年9月から2021年10月の期間、スペイン国内で開業している動物病院や保護施設128ヶ所から合計6,588頭分の血清サンプルを集め、ELISAと呼ばれる手法を用いた抗体(D. immitis/ヴォルバキア)検査を行いました。猫たちの選別条件は「6ヶ月齢以上」「居住県から外に出たことがない」「フィラリア感染歴がない」です。 犬の血液中を巡回しているミクロフィラリアの大きさは295~325μm  調査の結果、全体における抗体陽性率は9.36%(617/6,588)だったといいます。平均年齢は6.6歳で性差はなし(メス49.2%:オス:50.8%)。普通の短毛種が89.5%が大多数を占め、純血種間の陽性率に統計的な有意差は認められなかったそうです。
 また県と自治都市ごとに見た抗体陽性率は以下です。亜熱帯地域で最高(19.2%)、Cfbと略される温暖な海洋性気候の地域で最低(4.1%)を記録しました。 スペイン国内におけるフィラリア(D.immitis)の血清陽性率一覧マップ Seroprevalence of Feline Heartworm in Spain: Completing the Epidemiological Puzzle of a Neglected Disease in the Cat
Front. Vet. Sci., 12 May 2022, DOI:10.3389/fvets.2022.900371

猫のフィラリア症・危険因子

 解析した結果、抗体陽性率と特定項目との間に統計的に有意なレベルの関連性がいくつか確認されました。具体的には以下です。

加齢・年齢

 抗体陽性猫の年齢は6ヶ月齢~20歳と幅広く、1~4歳で9.2%、5~10歳で11.1%、11~15歳で9.7%、15歳超で9.1%という分布を見せました。また抗体陽性猫の年齢中央値は陰性猫より約1歳年長という結果になりました。
 長く生きていればそれだけフィラリアを媒介する蚊と接する機会が増えますので、こうした差が生まれるのは当然といえば当然です。

来歴・飼育環境

 飼い猫の占める割合は81.8%、保護猫の占める割合は18.2%で、前者の抗体陽性率(7.9%)と後者のそれ(15.8%)との間には統計的な有意差が確認されました。
 また室内飼育の割合は56.6%、屋外飼育の割合は24.4%、放し飼いの割合は19%で、抗体陽性率はそれぞれ5.6%(210/3,734)、15.8%(246/1,609)、12.9%(161/1,245)と算出されました。
 こうしたデータから、「屋外にアクセスできる」という猫の来歴・飼育環境が媒介生物(蚊)との接触機会を増やし、結果としてフィラリアに感染するリスクを高めているものと推測されます。

予防措置

 フィラリアに対して何らかの予防措置を取っていた割合が7.7%(毎月5.8%+散発的1.9%)だったのに対し、何の予防措置も取っていない割合が92.3%と大部分を占めました。
 両群の抗体陽性率を比較したところ予防措置ありが5.5%~7.3%、予防措置なしが9.6%となり、この格差は統計的に有意と判断されました。
 こうしたデータから予防措置が有効であることが伺えます。

FeLV?

 猫白血病ウイルス(FeLV)の血清陽性率は1.5%、猫エイズウイルス(FIV)のそれは1.2%、そして両ウイルスに対するそれは0.4%でした。
 FeLV陽性猫のフィラリア抗体陽性率(22.1%)と陰性猫のそれ(9.3%)との間に大きな格差が認められ、計算の結果統計的に有意と判断されました。フィラリアを媒介する蚊がFeLVに感染した猫を何らかの方法で見分け、積極的に狙ったという根拠がありませんので、FeLVと抗体陽性率との間にある関連性には不明な点が残ります。
 過去に行われた調査では概して「関連性がなかった」と報告されていますので、偶発的な要因によってたまたま現れた見かけ上の関係なのかもしれません。例えば、FeLV陽性猫は保護施設出身が多く、屋外環境での生活歴が長いので、FeLVとフィラリアの両方に対する感染リスクがそもそも高いなどが考えられます。
抗体検査と合わせて行われた抗原検査でも、陽性猫(34/6,588=0.5%)でやはり「高齢」「屋外アクセス」「保護施設出身」という属性傾向が見られました。北米における猫のフィラリア感染率調査(2017年版)猫を放し飼いにしてはいけない理由