トップ2021年・猫ニュース一覧3月の猫ニュース3月2日

猫の背骨と便秘(巨大結腸症)との関係~腰椎や仙骨の異常が結腸機能を障害している可能性あり

 原因を特定できないことも多い猫の便秘。悪化すると巨大結腸症にまで発展する油断ならない病気ですが、「背骨の異常」という意外な因子が発症に関わっている可能性が判明しました。

猫の便秘と脊柱下部の異常

 調査を行ったのはタイにあるチュラーロンコーン大学獣医科学部のチーム。大学付属の小動物教育病院に蓄積された医療記録を後ろ向きに参照し、 腸管に異常を抱えている猫たちを「背骨に異常があるもの」と「背骨に異常がないもの」とに区分した上で、両グループにおける発症リスクを比較しました。
 2016年3月から2018年2月までの期間、画像診断ユニットに蓄積された腹部と腰仙部(胸椎下部~坐骨結節)を含むエックス線画像を調べた結果、腸管に異常を抱えた猫が1,365頭(平均年齢53.7ヶ月齢/平均体重4.02kg)見つかったといいます。さらにこの1,365頭を腰仙部の状態で区分した所、正常群が959頭、非外傷性の異常群が406頭となり、後者に関しては先天性異常が226頭(207頭は単一部位/19頭は複数部位)、後天性異常が180頭(89頭は単一部位/91頭は複数部位)という内訳になったとのこと。
 腰仙部の状態と腸管異常の発症率を調べた結果が以下です。
腰仙部正常=959頭
  • 便秘=55頭(5.7%)
  • 巨大結腸症=20頭(2.1%)
腰仙部異常=406頭
  • 便秘=31頭(7.6%)
  • 巨大結腸症=21頭(5.2%)
 さらに腸管異常の発症リスクを統計的に計算した所、腰仙部異常群が正常群に比べて異常な結腸径(※下記ボックス参照)を有しているオッズ比(OR)は1.731で、先天的異常群がOR1.92、後天性異常群がOR4.107になることが明らかになりました。
異常な結腸径
当調査内では、結腸の直径最大部と第5腰椎(L5)の高さを比較し、結腸径がL5長の1.28倍以上ある場合は「便秘」、結腸径がL5長の1.48倍以上ある場合は「巨大結腸症」と定義された。 猫の腹部と脊柱下部のエックス線画像
Radiographic lumbosacral vertebral abnormalities and constipation in cats
Thanaboonnipat C, Kumjumroon K, Boonkwang K, Tangsutthichai N, Sukserm W, Choisunirachon N (2021), Veterinary World 14(2): 492-498, DOI:10.14202/vetworld.2021.

脊柱と結腸の因果関係

 人間においては先天性であれ後天性であれ、脊柱管狭窄症(脊髄を入れている背骨内部のチューブ構造内腔が狭くなった状態)や骨棘(骨の一部が退行変性して骨のようにとがった状態)が馬尾症候群のリスクを高め、結果として腸管の脱力を引き起こして重度の便秘につながる可能性が示されています。また犬においては腰仙部の移行椎が馬尾症候群に続発する便の制御不全に関わっていると推測されています。
 猫の便秘巨大結腸症は原因を特定できないことが少なくありませんが、多くには腸管平滑筋の機能不全が関わっているのではないかと推測されています。原因の一例を挙げれば、脊椎の異常が腰椎や仙骨から伸びる腰仙骨神経叢にダメージを与え、自律神経が支配する内臓の機能に悪影響を及ぼすなどです。今回の調査では猫の脊柱下部に先天的異常がある場合は正常群よりも1.9倍、後天性異常がある場合は正常群よりも4.1倍便秘や巨大結腸症を発症しやすい可能性が示されましたので、上記仮説が部分的に立証されたことになります。
 脊柱下部の異常が見つかったからと言って効果的な予防法や治療法があるわけではありませんが、腹部や骨盤の画像を撮影して何らかの異常が偶発的に見つかった場合は、将来的に便秘や巨大結腸症を発症するかもしれないという心の準備くらいはできるでしょう。
 なお脊柱下部の異常の具体例は以下です。当調査では、腸管径に異常を抱えた猫1,365頭中、非外傷性の腰仙椎異常が29.74%というかなり高い割合で発見されています。
先天性異常
  • 椎骨が1つ少ない
  • 腰椎の仙骨化
  • 仙骨の腰椎化
後天性異常
  • 骨棘
  • 椎間板狭小化
  • 変形性脊椎症
  • 腰仙椎の退行性変性
脊柱の異常と馬尾症候群との因果関係は証明されていませんが、先天性であれ後天性であれ脊柱下部に何らかの異常を抱えている場合は1.7倍ほど便秘巨大結腸症を発症しやすくなります。