トップ2021年・猫ニュース一覧12月の猫ニュース12月10日

症状はなくても外猫はレプトスピラを保菌している

 これまで猫はレプトスピラに対して抵抗があると考えられてきましたが、それは重症化しないというだけの話であって、保菌動物として環境内に病原体を拡散しないというわけではありません。

外猫のレプトスピラ保菌率

 レプトスピラ症はスピロヘータというらせん状をしたグラム陰性細菌によって引き起こされる人獣共通感染症の一種。2000年の統計では人間における重症患者が年間50万に達し、死亡率は10%を超えるとされています。人間だけでなく150を超える哺乳動物に感染することが確認されていますが、多くの場合は無症候性で重症化することはまれです。 レプトスピラ症を引き起こす病原性レプトスピラと流行確認地域  これまで猫はレプトスピラに対して抵抗があると考えられてきたものの、必ずしも体内から駆逐されるわけではなく、宿主の免疫状態によっては尿中に排出されることが分かってきました。そこでカナダ・プリンスエドワードアイランド大学は2017年7月から2018年9月までの期間、島内に暮らしている飼い主のいない猫から血液と尿を採取し、一体どのくらいの割合でレプトスピラが検出されるのかを調査しました。
 調査対象となったのは、不妊手術プログラムのためプリンスエドワード島内にある70の区域から集められた合計200頭の猫たち。メス83頭(41.5%)、オス117頭(58.5%)、乳歯が残っている幼齢個体71頭(35.5%)、成熟個体129頭(64.5%)という内訳です。 カナダ・プリンスエドワード島に生息する野良猫はおよそ10%がレプトスピラに感染している

血液の抗体価レベル

 抗体価レベル「1:50以上」を陽性反応と定義して血液サンプルを検査したところ、全体陽性率は10%(20頭)だったといいます。血清型に関しては1つだけに反応が全体の6.5%(13頭)、2つに反応が0.5%(1頭)、3つに反応が2%(4頭)、4つに反応が1%(2頭)という内訳でした。
 季節ごとの陽性率を調べましたが、6~8月が5%、9~11月が9.3%、12~5月が17%となり、格差は認められたものの統計的に有意とまでは判断されませんでした。また地域による陽性率の偏りも確認されませんでした。

尿中への病原体排出率

 尿サンプルを用いて病原体のDNAを検出するPCR検査を全数調査したところ、院内テストでは3.5%(7頭)、ラボテストでは2.5%(5頭)という結果になりました。両者に差が生まれた理由は、ラボにサンプルを送るまでの間にDNAが劣化して検出を免れたからだと考えられています。
Serologic and urinary survey of exposure to Leptospira species in a feral cat population of Prince Edward Island, Canada
Emilia Bourassi , Christine Savidge, Peter Foley, Sunny Hartwig, Journal of Feline Medicine and Surgery 2021, Vol. 23, DOI:10.1177/1098612X211001042

外猫は病気の媒介動物になりうる

 レプトスピラ症は地球温暖化、洪水、中間宿主動物の増加などにより、再興とエンデミックの恐れが常にある人獣共通感染症です。病原体を含んだ尿との直接的な接触や、尿を含んだ土壌などとの間接的な接触によって人間に感染します。

菌はネズミから猫へ

 病原体を媒介する動物の代表格はネズミです。しかしネズミと接する機会がある動物もまた体内にレプトスピラを取り込んで中間宿主になる危険性をはらんでいます。飼い主のいない野良猫などが好例でしょう。 ネズミを捕食する猫は間接的にレプトスピラを体内に取り込む  猫はレプトスピラに抵抗があると考えられてきましたが、尿中排出率に関しタイでは0.8%、台湾では67.8%と報告されています。またオーストラリアのクリスマス島では腎臓内に限り、ネズミよりも高い保有率だったとされています。要するにたとえ症状が出ていなくても、ネズミと接することで保菌動物として病原体を広めてしまう可能性があるということです。

解決策は完全室内飼い

 2021年12月、福岡県朝倉市の環境課が保護した猫を税金で養う代わりに「ネズミ捕り係」として車両敷地内で放し飼いにすることがニュースとして取り上げられました。税金で不適正飼養をすること自体論外ですが、「環境課」であるにもかかわらず、環境内に生息する人獣共通感染症や猫がそれを媒介してしまう危険性を認識していないというのは愚の骨頂ですね。 公務員によって不適正飼養されている2頭の猫  飼い主のいない野良猫だけでなく、放し飼いという無責任な飼い方をされている猫も保菌動物および媒介動物になりえます。当たり前のことですが完全室内飼いが望まれます。 猫を放し飼いにしてはいけない理由