猫の顔幅に性差はある?
調査を行ったのはポルトガルにあるルゾフォナ大学獣医学部のチーム。リスボンにある動物病院において調査とは全く別の目的でCTスキャンを受けた37頭の猫を対象とし、頭蓋骨に多数のランドマークをつけた上で形態計測学な解析を行いました。猫たちの平均年齢は8.3歳(1~17歳)、オス18頭+メス19頭、全て非純血(品種として区分できないの意)の短毛種です。選別にあたっては「12ヶ月齢以上」「頭部外傷を受けた履歴がない」「CT画像が鮮明」が条件として設けられました。
調査の結果、以下の項目においてオスとメスの間に統計的に有意なレベルの差が見られたといいます。
Ramos, J.; Viegas, I.;Pereira, H.; Requicha, J.F.Veterinary Science(2021), 8, 161. DOI:10.3390/vetsci8080161
調査の結果、以下の項目においてオスとメスの間に統計的に有意なレベルの差が見られたといいます。
猫の頭蓋骨の性差
指標 | オス猫 | メス猫 |
SL | 9.31cm | 8.59cm |
CL | 8.51cm | 7.92cm |
NL | 0.80cm | 0.67cm |
EHC | 3.40cm | 3.30cm |
ILC | 5.68cm | 5.39cm |
ELC | 6.50cm | 6.14cm |
Ci | 50.3% | 53.9% |
ICi | 43.5% | 47.6% |
ECi | 52.3% | 53.8% |
ICSi | 61.0% | 62.8% |
ECSi | 69.9% | 71.5% |
- SL後頭隆起から鼻骨吻側端までの長さ(鼻骨を含む)
- CL後頭隆起から鼻骨尾側端までの長さ(鼻骨を含まない)
- NL鼻骨尾側端から吻側端までの長さ(いわゆる鼻筋の長さ)
- EHC頭蓋の高さ(骨の厚さ含む)
- ILC前頭篩骨結合部のへこみ最深部から後頭隆起の内側までの長さ
- ELC前頭篩骨結合部の吻側遠位端から後頭隆起の外側までの長さ
- Ci頭蓋骨の幅/頭蓋骨の高さ(大きいほど頭が前後に短い/小さいほど頭が前後に長い)
- ICiIHC/ILC(大きいほど頭が前後に短い/小さいほど頭が前後に長い)
- ECiEHC/ELC(大きいほど頭が前後に短い/小さいほど頭が前後に長い)
- ICSiILC/SL(大きいほど鼻ぺちゃ/小さいほど面長)
- ECSiELC/SL(大きいほど鼻ぺちゃ/小さいほど面長)
Ramos, J.; Viegas, I.;Pereira, H.; Requicha, J.F.Veterinary Science(2021), 8, 161. DOI:10.3390/vetsci8080161
猫の顔の都市伝説はガセ
顔幅の平均値に関してはオスが「4.28cm」、メスが「4.27cm」とわずかな差が見られたものの、統計的に有意とまではみなされませんでした。「メス猫よりオス猫の顔幅が広い」という都市伝説は古くからあるものの、頭蓋骨だけに着目した場合はガセネタということになります。ただし計測から除外された頬骨や、骨の上についている筋肉、脂肪、皮膚といった軟部組織まで含めるとわかりやすい性差が現れるかもしれません。
一方、明白な性差として確認されたのは頭蓋骨の前後左右の長さ比です。平たく言うと、上から見た時オスはラグビーボールのように楕円形、メスは野球ボールのように球形に近いとなります。また鼻骨(NL)に関してはオス猫の方が長いようですので、面長という印象を与えることもあるでしょう。「明白な」と言ったものの、実測値では1cmに満たない数mmの世界ですので、人間が目視だけで確認するのは難しく、せいぜい「なんとなく」といったレベルです。
なお今回の調査では不妊手術の有無が記載されていませんでしたので、性腺ホルモンがどの程度頭蓋骨の形成に影響を及ぼすのかまではわかりませんでした。
猫ではアクロメガリー(先端肥大症)が多く見られます。昔に比べて顔幅が大きくなってきたとか、マズル(口吻部)が突出してきたという場合は内分泌系の疾患を疑ってみてください。