猫との別れと「たこつぼ心筋症」
「たこつぼ心筋症」(Takotsubo Cardiomyopathy)とは何の前触れもなしに突然発症する心臓病の一種。主な症状は胸の痛み、動悸、息切れ、吐き気などです。本来なら円錐型をしているはずの左心室がいびつに変形し、収縮したときに心臓の下端に当たる心尖部(しんせんぶ)が膨らんで「たこつぼ」に見えることから、正式な医学用語としてこのユニークな名称が用いられています。
詳細な発症メカニズムは解明されていないものの、多くの場合強いストレスが引き金になることが知られています。たとえば身内の不幸、ケンカ、激しい運動などです。海外において、ペット猫との死別が原因と考えられるたこつぼ心筋症の2症例が報告されましたのでご紹介します。
Takotsubo Cardiomyopathy Triggered by the Death of Pets (Cats): Two Case Reports
Muhammad Hanif, Muhammad Adnan Haider, et al., Cereus(2020), DOI: 10.7759/cureus.10690
Muhammad Hanif, Muhammad Adnan Haider, et al., Cereus(2020), DOI: 10.7759/cureus.10690
症例1:56歳の男性
仕事中に突然始まった、肩にまで及ぶ激しい胸の痛みで来院。自覚症状として発汗、吐き気、軽度の呼吸困難があった。問診により、数日前からペットの猫を失ったことによる強いストレスを感じていることが判明。
頸静脈圧測定、心電図検査、心臓カテーテル検査などを通し、冠状動脈の閉塞を伴わない重度の左心室収縮不全が確認されたことから、最終的には「たこつぼ心筋症」と診断された。投薬治療による保存療法が取られ、3ヶ月後に行われた心エコー検査では心機能の改善が確認された。
頸静脈圧測定、心電図検査、心臓カテーテル検査などを通し、冠状動脈の閉塞を伴わない重度の左心室収縮不全が確認されたことから、最終的には「たこつぼ心筋症」と診断された。投薬治療による保存療法が取られ、3ヶ月後に行われた心エコー検査では心機能の改善が確認された。
症例2:54歳の女性
病院から出たタイミングで突然卒倒し、通行人の心肺蘇生によって辛うじて一命を取り留める。救急搬送後に意識を取り戻し、問診により卒倒の2日前、愛猫を失ったことによる強いストレスを感じていたことが判明。
重度の左室駆出率低下のほか、心エコー検査で左心室収縮機能不全が見られたが、心臓カテーテル検査で冠状動脈の異常は見られなかった。症状が重かったため心臓ケア病棟に移送され、集中治療を実施。バイオプシーでは心筋の肥大や軽度の間質性線維症が確認された。入院から9日後には心電図所見で改善が見られ、15日後には除細動器を埋め込んだ状態で退院。3ヶ月後に行った心エコー検査では心機能の改善が見られた。
重度の左室駆出率低下のほか、心エコー検査で左心室収縮機能不全が見られたが、心臓カテーテル検査で冠状動脈の異常は見られなかった。症状が重かったため心臓ケア病棟に移送され、集中治療を実施。バイオプシーでは心筋の肥大や軽度の間質性線維症が確認された。入院から9日後には心電図所見で改善が見られ、15日後には除細動器を埋め込んだ状態で退院。3ヶ月後に行った心エコー検査では心機能の改善が見られた。
別れに伴うストレスに要注意
たこつぼ心筋症の発症メカニズムはよく分かっていませんが、心理的もしくは身体的なストレスによって交感神経が活性化し、血液中に大量のカテコールアミン(アドレナリンやノルアドレナリン)が急激に放出されることで心臓が障害されるのではないかと推測されています。また疫学的に中高年の女性に多いことから、女性ホルモンの減少が何らかの形で関わっているのではないかという憶測もあります(:奈良県医師会)。
「強い心理的ストレス」はすべての人に関わる因子です。例えば新潟県中越地震(2004年)や東日本大震災(2011年)では、被災地において当症の高い発症率が確認されたといいます。原因としては身近に迫った死への恐怖、愛する者との突然の死別、今後の経済的不安、家屋や財産を失ったショックと絶望、避難所での不自由な生活と強度のストレスなどが考えられます。
死別の対象は人間だけに限りません。今回紹介したようにペットとの別れが原因で強いストレスを感じていると、何の前触れもなく突然発症することも十分にありえます。たこつぼ心筋症の予後は比較的良好で自然回復することが多いとされますが、時として心不全、不整脈、低血圧、ショック、突然死につながることもありますので要注意です。
「強い心理的ストレス」はすべての人に関わる因子です。例えば新潟県中越地震(2004年)や東日本大震災(2011年)では、被災地において当症の高い発症率が確認されたといいます。原因としては身近に迫った死への恐怖、愛する者との突然の死別、今後の経済的不安、家屋や財産を失ったショックと絶望、避難所での不自由な生活と強度のストレスなどが考えられます。
死別の対象は人間だけに限りません。今回紹介したようにペットとの別れが原因で強いストレスを感じていると、何の前触れもなく突然発症することも十分にありえます。たこつぼ心筋症の予後は比較的良好で自然回復することが多いとされますが、時として心不全、不整脈、低血圧、ショック、突然死につながることもありますので要注意です。
「猫のことが死ぬほど好き」という方はこの表現が現実にならないよう、少なくとも迷子などで突然愛猫を失うことがないようにしましょう。