猫の肉球・ミクロ調査
調査を行ったのは中国にある北京航空航天大学を中心としたチーム。猫の肉球が持つショックアブゾーバー(衝撃吸収材)としての機能を調査するため、バイオメカニクス(生物力学)的にミクロ(顕微鏡)およびマクロ(肉眼)の解析を行いました。検体となったのは調査とは全く関係がない心疾患で死亡した猫5頭です。
猫の肉球を顕微鏡を用いて断面的に見たところ、外側から表皮層、真皮層、皮下組織層という3層構造になっていることが判明したといいます。
猫の肉球を顕微鏡を用いて断面的に見たところ、外側から表皮層、真皮層、皮下組織層という3層構造になっていることが判明したといいます。
肉球の表皮層
表皮層にはコラーゲン繊維のうちタイプIと呼ばれるものが最も多く含まれていました。このタイプは強い引っ張り強度をもっている繊維です。地面と直接接触するという関係上、簡単には損傷を受けないような構造になっているのでしょう。
肉球の真皮層
真皮層には真皮乳頭と呼ばれる突起構造が多く観察されました。また弾性繊維のほか、表皮層と同じタイプIのコラーゲン繊維が大部分を占めていました。ハニカム構造を形成するこの突起の中には神経や血管が豊富に含まれており、地面から受け取った感覚や周辺組織への栄養補給を行っています。また汗腺(エクリン腺)の導管が通っており、表皮層を湿らせて滑り止めにする役割も担っています。
肉球の皮下組織層
皮下組織層にはコラーゲン繊維(タイプIII)で囲まれた小さな脂肪がたくさん観察されました。さらにこの微小コンパートメントを三次元的に解析したところ、形と大きさが不揃いのラグビーボールをびっしりと詰め込んだような構造になっていたといいます。
猫の肉球・マクロ調査
調査チームは皮下組織層を埋め尽くしている楕円形の脂肪コンパートメントに着目しました。この形状が持つショックアブゾーバーとしての性能を検証するため、ラグビーボール状および円柱状のシミュレーションモデルを作成して上下から圧力(歩行=0.11Hz/走行=1.1Hz/跳躍= 11Hz)を加えたところ、ラグビーボールモデルにおいてのみ応力-ひずみ曲線に上昇カーブが確認されたといいます。言い換えると「圧力が加われば加わるほどひずみの度合いが小さくなる」ということです。この現象をさらに詳しく探ったところ、圧力が加わることで楕円形が円柱形に変化し、ひずみが生じにくくなることが原因であることが判明しました。
Comprehensive Biomechanism of Impact Resistance in the Cat’s Paw Pad
Xueqing Wu, Baoqing Pei et al., Hindawi BioMed Research International, Volume 2019, Article ID 2183712, 9 pages, https://doi.org/10.1155/2019/2183712
Xueqing Wu, Baoqing Pei et al., Hindawi BioMed Research International, Volume 2019, Article ID 2183712, 9 pages, https://doi.org/10.1155/2019/2183712
肉球は高性能クッション
猫に肉球は優れたショックアブゾーバーであり、中心的な役割を担っているのが皮下組織層に含まれる脂肪であることが判明しました。
足の裏が地面に接触した瞬間、ラグビーボール状の脂肪コンパートメントに圧力が伝わり、瞬時にして円柱状に変形します。ひずみが生じにくくなったタイミングで再び足に力を入れると、スムーズに筋力が地面に伝わるというデザインです。調査チームは「肉球のチャタリング防止システム」と呼んでいます(※チャタリング=機械などが振動でブレること)。 コラーゲン繊維で囲まれた小さな脂肪が埋め尽くすというこの構造、実は人間のかかとにある「踵骨下脂肪体」でも見られます。この脂肪体はひずみ率や温度に左右されず、コンパートメント間で液体の出入りがないとのこと。ですから人間のかかとはある意味、猫と同じ静水圧システムを備えた「肉球」なのかもしれませんね。
足の裏が地面に接触した瞬間、ラグビーボール状の脂肪コンパートメントに圧力が伝わり、瞬時にして円柱状に変形します。ひずみが生じにくくなったタイミングで再び足に力を入れると、スムーズに筋力が地面に伝わるというデザインです。調査チームは「肉球のチャタリング防止システム」と呼んでいます(※チャタリング=機械などが振動でブレること)。 コラーゲン繊維で囲まれた小さな脂肪が埋め尽くすというこの構造、実は人間のかかとにある「踵骨下脂肪体」でも見られます。この脂肪体はひずみ率や温度に左右されず、コンパートメント間で液体の出入りがないとのこと。ですから人間のかかとはある意味、猫と同じ静水圧システムを備えた「肉球」なのかもしれませんね。
かかとを思い切り叩いてもまったく痛くない理由は、中に含まれる脂肪がショックを吸収してくれているからなのでしょう。