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アレルギーを引き起こしにくいハイポアレジェニック・キャットはガセネタ

 ネット上では「アレルギーを引き起こしにくい猫の品種がいる」というデマが広がっています。しかし2019年の時点でアレルゲンの生成量が少ないと証明された猫の品種は存在していませんので騙されないでください。

ハイポアレジェニック・キャットとは?

 アレルギーを引き起こしにくい猫は一般的に「ハイポアレジェニック・キャット」(Hypoallergenic cat, 低アレルゲン猫)と呼ばれています。 理論的な根拠はアレルギーを引き起こすアレルゲンの生成量が少ない、もしくはアレルゲンの付着した抜け毛が少ないというものです。
 インターネット上ではハイポアレジェニック・キャットとして具体的な猫の品種を挙げている人がいます。例えばバリニーズ、オリエンタルショートヘア、ジャバニーズ、デボレックス、コーニッシュレックス、スフィンクス、サイベリアンなどです。  しかしこうした主張に科学的な根拠があるわけではなく、おそらく Wikipedia(英語版)に記載されている出典不明の主張を受け売りで言っているのだと推測されます。「citation needed」は「要出典」という意味です。
A hypoallergenic cat is a cat that is less likely to provoke an allergic reaction in humans. Although the topic is controversial, owners' experience and recent clinical studies suggest that Siberian cats, Devon Rex and Cornish Rex cats, Abyssinian cats, Balinese cats, and several other breeds,[citation needed] Allergy to cats(Wikipedia)
 「医学調査(clinical studies)が行われた」と言っているにもかかわらず、具体的にどのような調査だったのかが示されていません。これでは検証のしようがありませんね😓
 いろいろ調べた結果、2019年の時点でアレルゲンの生成量が少ないと確認された猫の品種は存在していないことが判明しました。かろうじて科学的な検証がされたのはサイベリアンと呼ばれる長毛品種だけです。

サイベリアンのアレルゲン

 調査を行ったのはイタリア・トリノ大学の獣医科学チーム。アレルギーを引き起こしにくい猫の品種として名前がよく挙がるサイベリアンを対象とし、アレルゲンの主犯格である「Fel d 1」 の生成量が本当に少ないのかどうかを検証しました。
Fel d 1
上皮粘膜から分泌される低分子タンパク質(セクレトグロビン)の一種。猫の皮脂腺、肛門腺、唾液腺から分泌された後、グルーミングを通して皮膚や被毛に付着する。7種類ある猫アレルゲンのうち最もメジャーなもの。
 調査に加わったのはサイベリアン4頭と比較対象として選ばれた普通の短毛種35頭。全ての猫からDNAサンプルを採取し、次世代シーケンス(NGS)と呼ばれる手法を用いて「Fel d 1」の生成に関連した遺伝子「Ch1」と「Ch2」を解析しました。
 その結果、サイベリアンでだけ確認された変異部分が「Ch1」には13箇所、「Ch2」には8箇所見つかったと言います。特に「Ch1」(Ch1 X62477/g.138G > T)と「Ch2」(Ch2 X62478/g.2231A > G)の両方の遺伝子内にミスセンス変異(塩基が別の塩基に置き換わることにより形状の異なるタンパク質が形成されること)が確認された1頭では、唾液中のFel d 1が他の猫(1.5μg/mL超)に比べ1/3以下(0.48μg/mL)だったとも。
 こうした結果から調査チームは、サイベリアンに特有の遺伝子変異がタンパク質の構造を変化させ、結果としてアレルゲン「Fel d 1」の機能を変化させているかもしれないとの可能性に行き着きました。ただし調査対象となったサイベリアンがたった4頭だったため断言はできず、今後さらなる追加調査が必要だとしています。
Polymorphism Analysis of Ch1 and Ch2 Genes in the Siberian Cat
Stefano Sartore, et al. Veterinary Sciences 2017, 4(4), 63; doi:10.3390/vetsci4040063, 2019

「獣医師監修」記事の危うさ

 上記したように、科学的な検証が行われているサイベリアンですら「ハイポアレジェニック・キャット」とは確定していません。ましてその他の品種に関しては調査すら行われていないのが現状です。 ハイポアレジェニック・キャット(低アレルゲン猫)として名前の挙がることが多いサイベリアン  2017年頃、キュレーションメディア「Welq」が信頼性の低い医学的な情報をばらまいたことから、日本国内において検索エンジンを牛耳っているGoogleが順位付けのプロトコルを変え、専門家による監修を受けたページを上位に表示するようになりました。その結果、「獣医師監修」というページが雨後の筍のごとくたくさん作られています。
 ところがその内容は必ずしも信頼性のおけるものではなく、「当サイトを含めた他サイトからの転用(パクリライト)」「Wikipediaの受け売り」「科学的根拠(エビデンス)のない嘘八百」がけっこう散見されます。例えば「犬の食糞症を改善するにはドッグフードにスプーン一杯の味の素をかける」とか「アレルゲンを生成しにくい猫の品種がいる」などです。
 こうした人たちは、仕事の合間の片手間や小遣い稼ぎとして記事を書いているため、おそらく十分な下調べをしていないのでしょう。アドバイスの中には非常にいい加減で、犬や猫の健康に悪影響を及ぼしかねないものもありますので「獣医師監修」という文字に全幅の信頼は置かないようにしてください。
 ハイポアレジェニック・キャット(低アレルゲン猫)のデマに関しては、品種差別につながったりペットショップの宣伝文句として悪用される危険性があります。また「アレルギーが出ないと聞いてオリエンタルショートヘアを買ったのに出るじゃないか!捨ててしまおう」といった飼育放棄のパターンも増えてしまうでしょう。
 言っている内容の信頼性が疑わしい場合は、検証可能な一次情報源を提示できているかどうかをひとつの目安にすると良いでしょう。 猫アレルギー・完全ガイド
「出典Wikipedia」とあるときは、その記事内の元データまでしっかりたどらないと、うかつに信用できません。