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猫のユリ中毒~原因・症状から治療・予防法まで

 猫のユリ中毒とはワスレグサ属もしくはユリ属の植物を口から摂取することによって生じる中毒のことです。いまだに「ユリが猫に危険」という事実を知らない飼い主がいるようですので、基本的な知識を身に付けておきましょう。

猫のユリ中毒とは?

 猫のユリ中毒とはワスレグサ属(Hemerocallis)もしくはユリ属(Lilium)の植物を口から摂取することによって生じる中毒のことです。
 1992年に最初の症例が報告されて以来、徐々に認知度が高まっていますが、いまだに「ユリが猫に危険」という事実を知らない飼い主が多く、毎年たくさんの猫が中毒症状に陥って動物病院に担ぎこまれています。  SNSでは、わざわざ猫をユリ属の花に近づけて撮った画像が散見されます。猫に安全と勘違いしている飼い主がいかに多いのかがわかる好例です。

猫のユリ中毒・原因成分

 猫のユリ中毒を引き起こす原因成分についてはよくわかっていません。現時点で分かっていることは、植物に含まれている何らかの成分が猫の体に作用し、腎毒性を発揮するという事実です。具体的にどのような成分が猫にとって有害で、どのようなメカニズムで腎臓に悪影響を及ぼすのかに関してはよくわかっていません。
 植物の特定部分ではなく、植物全体が危険です。これには葉、茎、花弁のほか花粉や花を入れていた花瓶の水も含まれます。葉をわずか半分口にしただけで腎臓に障害が生じる危険性があります。
 不思議なことに犬、マウス、ウサギにおいてはかなりの量を摂取しても中毒症状に陥る事はありません。ワスレグサ属もしくはユリ属の植物による腎障害は猫にだけ見られる特異な現象です。
 なお「Lily of the valley」(スズラン)、「Peace lily」(スパティフィルム属)、「Arum lily」(オランダカイウ or カラー)には「Lily」という名称が含まれていますが、ユリ属の植物ではありません。しかし安全と言うわけではなく、全く違った成分が全く違ったメカニズムを通して有毒性を発揮する危険性があります。

猫のユリ中毒・症状

 ワスレグサ属もしくはユリ属の植物を誤食したときに猫が見せる代表的な症状は以下です。
ユリ中毒の症状・時系列順
  • 誤食から1~6時間以内よだれが増える | 悪心・嘔吐 | 食欲不振 | 元気消失
    ※消化器系の症状はおよそ6時間で消えるため、飼い主が安心して病院の受診をスキップしてしまうことがあります。しかし体内では有害成分が着々と腎臓を障害し、次の急性腎不全が引き起こされます。
  • 誤食から12~30時間後多飲多尿 | 口内潰瘍 | 尿毒症息 | 痛みを伴う肥大した腎臓
  • 誤食から18~30時間後乏尿~無尿 | 脱水症状 | ひきつけ
  • 誤食から30~72時間後無尿による有害成分の蓄積と嘔吐の再発
  • 誤食から3~7日死亡(※治療を行わなかった場合)
 誤食から18~24時間後、急性腎不全による組織学的な変化が見られるようになります。具体的には近位尿細管の壊死(特に上皮細胞)、ミトコンドリアの膨張、腎浮腫などです。血液検査では尿素、クレアチニン、リン、カリウム濃度の上昇が認められます。またまれに膵腺房細胞の変性による膵炎を併発することもありますが、これはおそらく別のメカニズムによるものだろうと推測されています。

猫のユリ中毒・治療

 ユリの有毒成分は猫が摂取してから48時間以内に体外に排出されると推測されています。ユリ中毒の治療において重要なのは早期発見・早期介入です。素早く適切な治療を行えば、障害を受けた腎臓が再生することが確認されています。「猫が葉っぱを食べた形跡がある」とか「花瓶の水をなめたかもしれない」という場合、速やかに動物病院を受診し、ユリの花を摂取した可能性を申告しましょう。
ユリ中毒の初期治療
  • 催吐剤による嘔吐
  • 活性炭による胃洗浄
  • 体をきれいにして有害成分を洗い流す
 初期治療が終わったら、カテーテルを挿入して尿の状態をモニタリングします。こうすることで、早ければ誤食から12時間で見られる尿細管障害(尿円柱・等張尿・尿糖など)を早期発見できます。
 治療が遅れて急性腎不全を発症した場合は血液透析や腹膜透析が有効とされています。多くの場合、小さな病院では対応できないため二次専門病院に回されるかもしれません。なおユリ中毒に由来する腎不全では、腎臓に作用する薬の効果が確認されていません。
 一般的に腎不全を発症する前に治療を行った場合の予後は良好ですが、受診が遅れて18時間を超えると予後が悪くなるとされています。またひとたび腎不全を発症した猫においては、後遺症が残る可能性を否定できません。

猫のユリ中毒・予防法

 猫をユリ中毒から確実に守る方法は飼い主が注意することです。
 2009年にイギリスで行われた調査では、ユリ中毒に陥った猫の飼い主48人のうち73%もがそもそも有害性について認識していなかったといいます。ですからまず「ユリが猫に危険」という事実を肝に銘じておく必要があるでしょう。
 2009年にイギリスで行われた調査では、猫が誤食してしまったユリの来歴について以下のように報告されています。何らかのイベントに伴って他人から花をもらい、それをそのまま家の中に持ち込んでしまうというケースが非常に多く見られます。
ユリの花はどこから来た?
日常生活の中にユリの花が持ち込まれる状況
  • 他人から贈呈された=45.8%
  • 自分で購入した=39.6%
  • 他人への贈り物として購入=6.3%
  • 同居人が購入した=2.1%
  • 屋外観賞用=2.1%
  • 不明=4.2%
 またユリの花が生活の中に入ってくる機会としては以下のようなものが考えられます。
ユリが登場する状況・イベント
  • 他人からもらう状況結婚式 | 入学式 | 卒業式 | 送別会 | お葬式
  • 自分で買う状況庭の花壇・ガーデニング | 鉢植え・観葉植物 | 活け花 | フラワーアレンジメント | 感謝祭(海外)
 過去のデータでは、ユリ中毒に陥るリスクに関し猫の性別、品種、年齢は無関係だったといいます。また飼い主がユリの危険性を理解していたにもかかわらず中毒に陥ってしまう猫も少なからずいました。理由は、猫が好奇心にかられて自発的に花に近づいていったからです。ドアをこじ開けて花のある部屋に侵入するとか、棚や椅子の背もたれを伝って高い場所にある花にアクセスするといった事例が報告されています。
 「好奇心が猫を殺す」という慣用表現がありますが、好奇心の対象がユリの場合、比喩的な表現ではなく本当に死んでしまいますので飼い主は要注意です。確実な予防法はワスレグサ属もしくはユリ属の植物を一切家の敷地内に持ち込まないということです。庭では花壇やプランター、家の中では鉢植えや観葉植物に注意しましょう。猫を放し飼いにするなどという行為は論外です。

ユリ中毒の原因となる植物・写真と見た目

 「ユリの花は猫に危険」という知識があっても、見た目をしっかり覚えておかなければあまり意味がありません。以下ではワスレグサ属および代表的なユリ属の植物を画像でご紹介しますので、目に焼き付けておきましょう。 猫のユリ中毒の原因となる植物~ワスレグサ属(Day lily) 📷写真出典:Day lilies
  • 【和名】ワスレグサ属
  • 【英名】Day lily
  • 【学名】Hemerocallis
猫のユリ中毒の原因となる植物~ヤマユリ(Asiatic lily) 📷写真出典:Unidentified Asiatic lily
  • 【和名】ヤマユリ
  • 【英名】Asiatic lily
  • 【学名】Lilium asiatica
猫のユリ中毒の原因となる植物~ニワシロユリ(Madonna lily) 📷写真出典:Madonna Lilies
  • 【和名】ニワシロユリ
  • 【英名】Madonna lily
  • 【学名】Lilium candidum
猫のユリ中毒の原因となる植物~オニユリ(Tiger lily) 📷写真出典:Turk's Cap lilies
  • 【和名】オニユリ
  • 【英名】Tiger lily
  • 【学名】Lilium lancifolium
猫のユリ中毒の原因となる植物~テッポウユリ(Easter lily) 📷写真出典:Easter Lilies
  • 【和名】テッポウユリ
  • 【英名】Easter lily
  • 【学名】Lilium longiforum
猫のユリ中毒の原因となる植物~スターゲイザー(Stargazer, Oriental lily) 📷写真出典:Stargazers
  • 【和名】スターゲイザー
  • 【英名】Stargazer(Oriental lily)
  • 【学名】Lilium orientalis
猫のユリ中毒の原因となる植物~カノコユリ(Showy lily) 📷写真出典:lilium speciosum
  • 【和名】カノコユリ
  • 【英名】Showy lily
  • 【学名】Lilium speciosum
猫のユリ中毒の原因となる植物~ウエスタンウッドリリー(Western wood lily) 📷写真出典:Western Wood Lily Kananas
  • 【和名】ウエスタンウッドリリー
  • 【英名】Western wood lily
  • 【学名】Lilium umbellatum
家族全員がユリの危険性を認識し、誰一人として家の中に持ち込まないよう気をつけてください。