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超音波式「猫よけ」の効果と限界

 猫よけに効果があるという超音波発生器は本当に猫を特定エリアから遠ざけてくれるのでしょうか?検証実験が行われました(2018.10.3/オーストラリア)。

詳細

 調査を行ったのはオーストラリアにあるマードッグ大学のチーム。猫よけに効果があるとされる2種類の超音波発生器「CatStop©」「On-Guard Mega-Sonic Cat Repeller©」を用い、一定区画内に猫が入ってくる頻度や時間を減らす効果があるのかどうかを検証しました。 超音波式の猫よけ装置  調査対象となったのはウエスタンオーストラリアのパース(6,420平方km | 人口200万人)にある18のエリア。選定条件は「毎週猫がやって来る」「6週間観察可能」「エリア内に犬や鳥などの外飼いペットがいない」という3つです。
 「CatStop©」を10エリア、「Cat Repeller©」を8エリアに置き、動作反応型カメラと共に猫の通り道に設置して「スイッチオフ」→「スイッチオン」→「スイッチオフ」というフェーズを2週間ずつ観察したところ、以下のような結果になったといいます。「居住猫」とは、まだ機器が設置されていない第1フェーズにおいて最もエリアを活用していた猫(最低100秒)、「周辺猫」とは居住猫以外の猫のことです。
猫よけ超音波機器の効果
  • 17のエリアで合計78頭の猫が確認された
  • 1エリアで2~9頭が確認された
  • 首輪や住人からの情報では53.0%がペット猫だった
  • フェーズ1(オフ)での活動性は周辺猫(7.1/日)より居住猫(15.1/日)の方が高かった
  • 超音波機器は居住猫のエリア侵入頻度を46%減少させた
  • 超音波機器は居住猫のエリア侵入時間を78%減少させた
  • フェーズ2(オン)における活動性の減少は居住猫でおいてのみ確認された
  • フェーズ3(オフ)における活動性の減少は居住猫でおいてのみ確認された
  • 周辺猫の活動性はすべてのフェーズを通じて低かった
  • 超音波機器に対する反応に性差はなかった
  • ペット猫の方が来歴不明の猫より活動性が3倍ほど高かった
  • メス(4.2/日)よりオス(5.5/日)の方がやや活動性が高かった
  • 超音波機器の性能に格差はなかった
 こうしたデータから調査チームは、市販されている超音波発生器には特定のエリアに猫が侵入してくる頻度や時間を減少させる効果があるとの結論に至りました。この効果は特に特定エリアの近くに暮らしており、頻繁に利用する「居住猫」に対して高いとも。ただし猫の狩猟行動までは防げないとしています。
Ultrasonic deterrents reduce nuisance cat (Felis catus) activity on suburban properties
Heather M.Crawford, Joseph B.Fontaine, Michael C.Calver, Global Ecology and Conservation, Volume 15, July 2018, doi.org/10.1016/j.gecco.2018.e00444

解説

 過去にイギリス郊外で行われた調査では、「Catwatch©」と呼ばれる超音波発生器に関し猫のエリア侵入頻度を32.0%、侵入時間を38.0%減少させると報告されています(Nelson et al., 2006)。また「Pestaway Champ©」と呼ばれる超音波発生器に関しては、猫の身体に継続的な不快感を及ぼすことはないものの、侵入頻度や時間を減らす効果までは確認できなかったとされています(Mills et al. 2000)。

超音波猫よけの効果と難点

 今回の調査では、ある特定エリアを頻繁に活用する「居住猫」に対し侵入頻度や時間を減らす効果が確認されました。ただしこの効果は「2週間」という限られた時間内におけるものですので、永続的な効果があるかどうかまではわかりません。その他、超音波発生器がもつ難点やデメリットは以下です。
超音波発生器の難点
  • 別の場所に侵入する可能性がある
  • 猫の耳に慣れが生じる
  • 機器が雨などで壊れる
  • 耳が良い人には超音波が聞こえてしまう
栃木県の矢板市が市民に対してレンタルを行っている猫よけ超音波発生機  日本国内では2017年12月、栃木県の矢板市で猫よけ超音波発生機のレンタルが行われました。目的は猫による敷地内の糞尿被害を減らすことで、効果があった場合は自分で購入してほしいとしています。

猫の飼育ルールとコンプライアンス

 ウエスタンオーストラリアでは「Western Australia's Cat Act」(2011)により不妊手術とマイクロチップの装着が義務付けられています。また地方条例では首輪やIDタグの装着が義務付けられています。しかし当調査では、首輪を装着していた猫が26頭(33.3%)、IDタグを装着していたのは9頭(11.5%)、生殖能力を保っていた猫が25.6%という割合でした。こうしたデータから、仮に法律や条例があったとしても、それが守られているかどうかを厳密にチェックする体制がなければ十分な法令遵守率(コンプライアンス)は実現できないことがうかがえます。
 日本の奄美大島でも2011年より「飼い猫の適正な飼養及び管理に関する条例」が制定され、同様の「努力義務」を課していますがほとんど有形無実になっており、増えすぎた野良猫や野猫によるアマミノクロウサギの捕食が問題となっています。猫が一方的に悪者扱いされていますが、責任の一端は猫を放し飼いする人間やそれをしっかりと管理できなかった行政機関にあることは間違いないでしょう。

室内飼いの重要性

 猫を放し飼いにする人の中には「閉じ込めるのはかわいそう」という意見がある一方、「猫との感情的な結びつきが弱い」「そもそも興味がない」といった無関心によって室内飼育を放棄する人がいるといいます(McLeod et al. 2015)。日本においても、繰り返し繰り返し殺処分数、交通事故で命を落とす猫の数、毎年繰り返される猫の虐待事件を教えているにもかかわらず、頑なに室内飼いをしない飼い主がいます。こういう人たちは現実に対する理解能力がないのではなく、そもそも猫に対する興味が薄いのかもしれません。
 生殖機能がコントロールされていない地域においてはみだりな繁殖が起こり、猫の密度が344~976頭/平方kmに達するとされています(Finkler et al., 2011)。また外にいる猫に対して餌付けする人間がいると猫密度がさらに増加するとも。また今回の調査期間中、6頭の猫が20回に渡り狩猟行動を見せ、そのうち10回は機器が作動している最中だったといいます。こうした事実から調査チームは、超音波には狩猟行動を減らす効果まではないと推測しています。
 猫の敷地内への侵入、狩猟行動と生態系の破壊、みだりな繁殖による個体数の増加と殺処分といった問題をすべて解決する方法は、超音波猫よけを設置することではなく「完全室内飼育」を徹底することです。「そもそも猫への関心が薄い」飼い主の心に響かせることは難しいですが、ただ単に「閉じ込めるのはかわいそう」と思い込んでいる飼い主に対しては、以下の情報が役立ってくれるでしょう。 放し飼いが招く猫の死 猫の幸福とストレス