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胸骨を骨折した猫は香箱座りができなくなる

 猫がリラックスしているときに見せてくれる香箱座り。これができない場合、胸の骨が折れているかもしれません(2018.5.18/韓国)。

詳細

 報告を行ったのは韓国にある複数の動物病院からなる共同チーム。脊柱とともに肋骨の支柱となっている胸元の骨「胸骨」(sternum)に怪我を負った結果、まともに歩けなくなった2頭の猫に対しロッキングプレート(LP)と呼ばれる固定器具を外科手術で取り付けたところ、良好な治療結果を得られたと言います。具体的には以下です。
ケース1
✓患猫=27ヶ月齢 | 4.85kg | 避妊済みメス猫
 2Fから落下して以来、体が衰弱して立ち上がることもできなくなり「王立動物医療センター」を受診。心拍数は正常の範囲内(168回/分)でしたが、呼吸数は通常よりも少ない56回/分で呼吸困難気味でした。レントゲン撮影を行ったところ、胸骨6~7における位置ずれが確認されたほか、橈骨、尺骨、下顎骨も折れていることが判明。治療チームはさしあたり橈骨、尺骨、下顎骨の骨折に対する治療を行い、位置ずれを起こしていた胸骨はそのままにしました。 外傷に起因する猫の胸骨変形症例1  受診から14ヶ月後のレントゲン撮影では橈骨、尺骨、下顎骨の治癒が確認されましたが、胸骨のへこみと胸椎の不安定性は改善されず、姿勢や歩き方もおかしなままだったことから、胸骨に対する外科的な治療が行われました。胸を切開して金属プレートとボルトで固定し直したところ、おかしかった歩き方も改善し、呼吸、心拍、血液の検査値も全て正常の範囲内に戻りました。
ケース2
✓患猫=96ヶ月齢 | 5.27 kg | 去勢済みのオス猫
 掃除機の音を嫌がって上った家具から落下したはずみで胸を強打。受診時の呼吸数は54回/分の呼吸困難、心拍数は225回/分の頻脈でした。胸元の触診で腫脹と胸骨のずれが確認されたためレントゲン撮影を行ったところ、4~5番目における位置ずれが確認されました。 外傷に起因する猫の胸骨変形症例2  心肺機能の悪化が顕著だったためすぐに外科手術が行われ、胸骨が金属プレートで固定されました。外科手術から5週間で呼吸や心拍が正常化し、術後19ヶ月目のタイミングで飼い主に対して行った電話調査では問題は報告されませんでした。
Management of sternal dislocation with and without surgery in cats: owner-assessed long-term follow-up of two clinical cases
The Journal of Veterinary Medical Science, Gab-Chol CHOI, Md. Mahbubur RAHMAN, Hwangmin KIM, Sehoon KIM, In-Seong JEONG, doi.org/10.1292/jvms.17-0307

解説

 人医学における胸骨の外傷では保存療法が第一選択肢とされ、症例の2/3では鎮痛薬を処方するだけだといます。外科手術の適用となるのは、骨がずれていたり痛みが酷い症例です。
 ケース1では保存療法が選択されましたが、1年以上経過しても姿勢や歩様は自然回復しませんでした。痛みがあったかどうかまではわからないものの、香箱座りができなかったり歩く時にふらつくという状態は、猫の生活の質を著しく低下させているものと考えられます。
 ケース2では来院時の時点で呼吸と心拍の異常が確認されました。胸骨がずれたことによって生じた痛みのほか、肋骨をスムーズに上下動できないことでこうした症状が引き起こされたものと推測されます。
 どちらのケースでも外科手術によって呼吸や心拍数が正常化し、通常の生活を送れるまでに回復しました。猫が胸元を地面にピタッとつけて座る「香箱座り」はリラックスの証とされます。この姿勢を取れないのは猫にとってもストレスでしょうし、飼い主にとっても心配の種でしょう。 猫が見せる「香箱座り」(loaf)はリラックス(心)と体(身)が健康である証  胸元への強い衝撃は落下、交通事故、心無い人間の虐待(蹴飛ばすなど)によって生じますので、猫を完全室内飼いにして不測の事態に備えてあげることが推奨されます。また胸元に奇妙な盛り上がりが見られたり、触ったときに大きなデコボコが確認される場合はレントゲン撮影をしたほうがよいかもしれません。 放し飼いが招く猫の死 猫が香箱座りをする