詳細
調査を行ったのは西蔵自治区農牧科学院のチーム。2015年7月から10月の期間、標高3,100mに位置するチベットのニンティ市に暮らしている猫20頭(トンキニーズ | オスメス10頭ずつ)と標高10mに位置する中国浙江省に暮らしている猫20頭(トンキニーズ | オスメス10頭ずつ)から血液サンプルを採取し、生化学的な検査項目にどのような違いが見られるのかを検証しました。
その結果、高地に暮らしている猫では「赤血球数」(RBC)「ヘモグロビン濃度」(HGB)「平均赤血球ヘモグロビン量」(MCH)「平均赤血球ヘモグロビン濃度」(MCHC)が高く、逆に「平均赤血球容積」(MCV)が低いという特徴が見られたと言います。そしてこの特徴は高地を生息地とする他の動物と同じであるとも。 こうした結果から調査チームは、標高が高い地域に暮らしている猫では、赤血球の数やヘモグロビンの濃度を変化させることで低酸素環境に適応しているという可能性を示しました。 Physiological variations among blood parameters of domestic cats at high- and low-altitude regions of China
Hui Zhang, Hailong Dong, Khalid Mehmood, Kun Li, Fazul Nabi, Zhenyu Chang, Mujeeb Ur Rehman, Muhammad Ijaz, Qingxia Wu & Jiakui Li (2018): ,Archives of Physiology and Biochemistry, DOI: 10.1080/13813455.2018.1423623
その結果、高地に暮らしている猫では「赤血球数」(RBC)「ヘモグロビン濃度」(HGB)「平均赤血球ヘモグロビン量」(MCH)「平均赤血球ヘモグロビン濃度」(MCHC)が高く、逆に「平均赤血球容積」(MCV)が低いという特徴が見られたと言います。そしてこの特徴は高地を生息地とする他の動物と同じであるとも。 こうした結果から調査チームは、標高が高い地域に暮らしている猫では、赤血球の数やヘモグロビンの濃度を変化させることで低酸素環境に適応しているという可能性を示しました。 Physiological variations among blood parameters of domestic cats at high- and low-altitude regions of China
Hui Zhang, Hailong Dong, Khalid Mehmood, Kun Li, Fazul Nabi, Zhenyu Chang, Mujeeb Ur Rehman, Muhammad Ijaz, Qingxia Wu & Jiakui Li (2018): ,Archives of Physiology and Biochemistry, DOI: 10.1080/13813455.2018.1423623
解説
今回の調査は2015年に提起された「ユキヒョウの赤血球はなぜ猫と同じなのか?」という謎に部分的に答えるものです。
2015年、デンマーク・オーフス大学の調査チームは、標高5,000mを超える高地に暮らしているネコ科動物の一種ユキヒョウ(Panthera uncia)を対象とし、その他のネコ科動物と血液組成に違いがあるかどうかを検証しました(→出典)。ライオン、トラ、ヒョウ、ピューマ、イエネコと比較した結果、酸素を運搬する赤血球に関し、構造的にも機能的にも全く違いは見られず、普通の猫とも何ら変わりないことが明らかになったといいます。ではなぜユキヒョウは高地で暮らせるのかという疑問に対し調査チームは「多分激しく呼吸することで補っているのだろう」との見解を示していました。 今回のトンキニーズを対象とした調査により、高地に暮らしている猫では赤血球の数やヘモグロビンの濃度が高まる可能性が示されました。この知見から、高地に暮らしているネコ科動物はただ単に呼吸数を増やしているだけでなく、血液の組成自体を変えることで低酸素環境に適応しているものと推測されます。
ネコ科動物は分岐する以前の祖先種で起こった突然変異(β2His→Phe)によりDPG感受性が低く、赤血球が酸素と結合する能力が他の脊椎動物に比べて劣るとされています。その結果、酸素が薄い環境に適応できず、基本的には標高が低い場所でしか暮らしていけないと考えられてきました。今回の調査を踏まえて考えると、少なくともイエネコに関しては標高3,000m程度の環境には適応できるようです。
日本の地形は標高差がそれほど大きくなく、人口の83%は標高0~100mに暮らしており、標高1,000mを超える場所で暮らしている人の割合は0.1%程度だとされています(→出典)。仮にこうした高い場所に暮らしている猫がいたとすると、普通の猫に比べて上記したような血液組成の変化(RBC・HGB・MCH・MCHC↑/MCV↓)が見られるかもしれません。健康な猫の参照値からずれていても、必ずしも異常とは言えないでしょう。
2015年、デンマーク・オーフス大学の調査チームは、標高5,000mを超える高地に暮らしているネコ科動物の一種ユキヒョウ(Panthera uncia)を対象とし、その他のネコ科動物と血液組成に違いがあるかどうかを検証しました(→出典)。ライオン、トラ、ヒョウ、ピューマ、イエネコと比較した結果、酸素を運搬する赤血球に関し、構造的にも機能的にも全く違いは見られず、普通の猫とも何ら変わりないことが明らかになったといいます。ではなぜユキヒョウは高地で暮らせるのかという疑問に対し調査チームは「多分激しく呼吸することで補っているのだろう」との見解を示していました。 今回のトンキニーズを対象とした調査により、高地に暮らしている猫では赤血球の数やヘモグロビンの濃度が高まる可能性が示されました。この知見から、高地に暮らしているネコ科動物はただ単に呼吸数を増やしているだけでなく、血液の組成自体を変えることで低酸素環境に適応しているものと推測されます。
ネコ科動物は分岐する以前の祖先種で起こった突然変異(β2His→Phe)によりDPG感受性が低く、赤血球が酸素と結合する能力が他の脊椎動物に比べて劣るとされています。その結果、酸素が薄い環境に適応できず、基本的には標高が低い場所でしか暮らしていけないと考えられてきました。今回の調査を踏まえて考えると、少なくともイエネコに関しては標高3,000m程度の環境には適応できるようです。
日本の地形は標高差がそれほど大きくなく、人口の83%は標高0~100mに暮らしており、標高1,000mを超える場所で暮らしている人の割合は0.1%程度だとされています(→出典)。仮にこうした高い場所に暮らしている猫がいたとすると、普通の猫に比べて上記したような血液組成の変化(RBC・HGB・MCH・MCHC↑/MCV↓)が見られるかもしれません。健康な猫の参照値からずれていても、必ずしも異常とは言えないでしょう。