詳細
イエネコは今から1万年前の近東(小アジア)で人間と接点を持つようになり、紀元前3,500年頃エジプトにおいて繁栄をとげ、紀元1世紀以降になってようやくローマ人によってヨーロッパに持ち込まれたと考えられています。しかしこうした仮説の基になっているのは、人間が残した考古学的な遺跡において発見されたリビアヤマネコ(もしくはイエネコ)のミトコンドリアDNAであり、人間の文化とは全く無関係な遺跡は調査の対象外でした。
今回の調査を行ったのはポーランド・ワルシャワ大学の調査チーム。人間と直接的な関わりがない19の考古学的な遺跡から、ネコ科動物のものと思われる遺骨36サンプルを採取し、そこからミトコンドリアDNAを抽出して系統発生的な位置づけを行いました。その結果、11サンプルがリビアヤマネコ(もしくはイエネコ)のもとの断定されたといいます。さらに放射性炭素年代測定によってどの程度古いものかを判定した所、1つは中世の初期、2つは中世後期、1つはローマ時代でしたが、5つは新石器時代中期から後期の物であることが判明しました。数字で表すと今から4,200~5,300年前のものですので、ローマ人がヨーロッパに猫を広めたと考えられている紀元1世紀(今からおよそ2,000年前)よりも軽く2~3,000年先行するということになります。
こうした発見から調査チームは、ローマ人によってヨーロッパに持ち込まれるはるか以前の新石器時代の段階で、すでにリビアヤマネコ(もしくはイエネコ)が中央ヨーロッパに存在していた可能性が高いとの結論に至りました。シナリオとしては、近東のリビアヤマネコとヨーロッパ土着のヤマネコが交雑したとか、新石器時代の人々の移動に合わせてヤマネコも移動したなどが考えられています。
Human mediated dispersal of cats in the Neolithic Central Europe
Mateusz Baca et al., doi: https://doi.org/10.1101/259143, bioRxiv(February 5, 2018)
Mateusz Baca et al., doi: https://doi.org/10.1101/259143, bioRxiv(February 5, 2018)
解説
考古学的な証拠からイエネコがフェニキア人によってギリシアに持ち込まれたのは早くとも今から3,400年前、ローマに持ち込まれたのは2,500年前と推測されています。そしてローマ帝国の繁栄に伴いヨーロッパ中に広がっていったのが紀元1世紀頃というのが現在広く認められているシナリオです。しかし今回の発見により、それよりもはるか昔からヤマネコが中央ヨーロッパに存在していた可能性が浮上してきました。では一体、現代のトルコ辺りに暮らしていたはずのリビアヤマネコはどのようにしてポーランドくんだりまでやってきたのでしょうか?調査チームは3つの可能性を指摘しています。
こうした事実から調査チームは、人間の集落から出るゴミや、ゴミを狙って繁殖したげっ歯類を食料とするため、ヤマネコが自発的に人間の移動に合わせてヨーロッパに入ってきた可能性が高いとしています。これはちょうどイノシシが人間の集落に付いていったプロセスに似ていますが、存在価値を早めに見出されたイノシシの方で数千年早く家畜化が起こり「ブタ」になりました。 この仮説が正しいとすると、従来のシナリオよりも2~3千年も早い段階で既にヤマネコが中央ヨーロッパに存在していたということになります。しかし今のところ、人間と関わりがある文化的な遺跡からは同じくらい古いDNAサンプルは見つかっていません。ですから仮にヤマネコがいたとしても、人間の集落で一緒に眠る「ペット」のような存在ではなかったと推測されます。キプロスの遺跡で発見された「人間のそばに埋葬された猫っぽい遺骨」といったわかりやすいサンプルが見つかれば話は別ですが。
気候の変化に応じて自主的にやってきた
気候的なアドバンテージを求めて近東から中央ヨーロッパに自主的に異動してきたとする仮説です。しかし北アフリカとアラビア半島の暑くて乾燥した気候と、涼しくて湿気が高く雨量も多かった新石器時代のポーランドの気候は大きく異なります。また獲物の構成も大きく変わることから、調査チームはこの可能性は薄いのではないかと考えています。
ヨーロッパヤマネコとリビアヤマネコが交雑した
ヨーロッパに元からいたヨーロッパヤマネコとリビアヤマネコが交雑して少しずつヨーロッパに広がっていったとする仮説です。ヤマネコとイエネコの交雑は現在でも確認されていることから、調査チームは比較的あり得るのではないかと考えています。
新石器時代の人々について回った
初期の農耕民族の移動に伴って、猫もヨーロッパに移ってきたとする仮説です。線形陶器文化がポーランドに現れたのは今から7,500年前、ピークはKuyaviaでは今から4,500~5,500年前、Lesser Polandでは4,000~5,000年前と推測されています。この時代はちょうど、非文化的な遺跡から発掘された5つのヤマネコのサンプルとちょうど同じ年代です。こうした事実から調査チームは、人間の集落から出るゴミや、ゴミを狙って繁殖したげっ歯類を食料とするため、ヤマネコが自発的に人間の移動に合わせてヨーロッパに入ってきた可能性が高いとしています。これはちょうどイノシシが人間の集落に付いていったプロセスに似ていますが、存在価値を早めに見出されたイノシシの方で数千年早く家畜化が起こり「ブタ」になりました。 この仮説が正しいとすると、従来のシナリオよりも2~3千年も早い段階で既にヤマネコが中央ヨーロッパに存在していたということになります。しかし今のところ、人間と関わりがある文化的な遺跡からは同じくらい古いDNAサンプルは見つかっていません。ですから仮にヤマネコがいたとしても、人間の集落で一緒に眠る「ペット」のような存在ではなかったと推測されます。キプロスの遺跡で発見された「人間のそばに埋葬された猫っぽい遺骨」といったわかりやすいサンプルが見つかれば話は別ですが。