詳細
調査を行ったのは国立台湾大学のチーム。2012年から2014年の期間、台湾国内にある233の動物病院に協力を仰ぎ、犬や猫の死亡原因(安楽死を含む)に関するデータを収集しました。犬2,252頭、猫1,325頭分のデータの中から「外傷」を原因とするケース(犬177件 | 猫101件)だけを抽出して統計的に検証したところ、以下のような傾向が浮かび上がってきたといいます。
Wei-Hsiang Huang, et al., Taiwan Veterinary Journal, Vol. 44, No. A (2018) 1?12, DOI:10.1142/S1682648517500111
外傷死リスクへの影響因子
- 10歳未満に多い
- 秋に多い
- オスメスとも不妊未手術に多い
- 自然死ケースに多い
外傷の原因とその影響因子
- 交通事故10歳未満(+79%) | 犬(+77%) | 未手術(+52%) | 自然死(+57% ※安楽死に対し)
- 落下事故10歳未満(+59%)
- 他の動物との争い未手術(+77%)
Wei-Hsiang Huang, et al., Taiwan Veterinary Journal, Vol. 44, No. A (2018) 1?12, DOI:10.1142/S1682648517500111
解説
犬でも猫でも10歳未満の個体において10歳以下より80%ほど高い外傷死リスクが確認されました。中でも0~6歳の年齢層で死亡例が多くカウントされたといいます。身体の動きが未熟だったり、他の動物との交流の仕方が下手だったり、自動車やオートバイといった外の世界にある危険なものを認識する能力が劣っていたからかもしれません。
季節別にみると、春を基準にしたとき夏(6~8月)に30%ほど少なくなり、秋から冬(9~2月)にかけては逆に30%ほど多くなるという傾向が確認されました。暑さも寒さも動きの妨げになりますが、犬も猫も汗をかきませんのでやはり体温がこもりやすい夏の期間は活動性が落ちるのかもしれません。
犬でも猫でも性別にかかわらず不妊手術を行っていない場合、手術を行った場合に対して50%以上高い死亡リスクが確認されました。性ホルモンが多く残っているため放浪癖が生まれたり、他の同性個体と争う機会が多くなり、交通事故や怪我による外傷死亡が増えるのでしょうか。
交通事故に絞ってみると「10歳未満」「犬」「未手術」といった項目が死亡率の上昇と関わっていました。1行で表すと「不妊手術を行っていない若い犬」ということになります。男性ホルモンが豊富で放浪癖が強く、また若くて身体能力が高いことが、道路への飛び出しを誘発しているものと考えられます。
落下事故に絞ってみると、10歳未満の動物で6割ほど高い死亡リスクが確認されました。幼い頃から賃貸住宅などの高い場所で暮らしていると、人間でいう「高所平気症」のような状態になり、ベランダなどから飛び降りてしまうのかもしれません。猫では「高層症候群」といった言葉もあります。
他の動物との争いに絞ってみると、不妊手術を受けていない動物において80%ほど高い死亡リスクが確認されました。男性ホルモンが体内に残っているとライバル意識が強くなり、同性個体と遭遇したとき取っ組み合いの喧嘩に発展してしまうものと推測されます。
死亡原因として無視できないのは、犬の12.2%(34件)、猫の17.8%(18件)で報告されている「原因不明」という項目です。調査チームは動物虐待の可能性を否定できないため、疑わしいケースを発見した獣医師が関連機関に効率的に報告できるような国家的なシステムが必要だと提唱しています。上記「システム」のイメージとしては、近年アメリカの「National Link Coalition」が設立した「How Do I Report Suspected Abuse?」が近いでしょう。これは全米6,500の郡や都市をカバーしたデータベースで、獣医師がどのようにして動物虐待ケースを報告したらよいのかがすぐにわかるようにデザインされています。
日本では動物愛護法(第四十一条の二)により「獣医師は、その業務を行うに当たり、みだりに殺されたと思われる動物の死体又はみだりに傷つけられ、若しくは虐待を受けたと思われる動物を発見したときは、都道府県知事その他の関係機関に通報するよう努めなければならない」と規定されていますが、2013年度の「動物の虐待事例等調査報告書」では全国における受理件数がわずか46件(2012年度)となっています。犬猫合わせて2千万頭弱というペットの飼育頭数に対するこの異常な少なさの背景にあるのは、効果的な報告システムの欠如なのかもしれません。