詳細
調査を行ったのは、イギリスにあるリンカーン大学のチーム。2015年12月から2016年1月の期間、犬と猫の両方を飼っている人を対象とし、家庭内における両動物の仲の良さと、仲の良さに影響を及ぼす予見因子が何であるかを検証しました。イギリス(69.54%)、アメリカ(21.98%)、オーストラリア(3.08%)、カナダ(2.57%)、その他のヨーロッパ諸国(2.21%)に暮らしている合計748人の飼い主にアンケート調査を行ったところ、仲の良さの主観評価は10段階評価で「6.46」だったといいます。その他、以下のような特徴が浮かび上がってきました。
Thomson, J.E., Hall, S.S, Mills, D.S., Journal of Veterinary Behavior (2018), doi: 10.1016/j.jveb.2018.06.043
仲の良さの評価につながる行動
- 相手がいるときくつろいでいる?猫:82.9%/犬:91.2%
- 相手を脅かすことはある?猫:56.5%/犬:18.0%
- 相手に怪我を負わせたことはある?猫:9.6%/犬:0.9%
- 相手におもちゃを見せる?猫:5.6%/犬:20.5%
- 相手の前でお腹を見せる?猫:55.6%/犬:36.5%
- 相手と食べ物を共有する?猫:18.4%/犬:28.2%
- 相手と寝床を共有する?猫:42.8%/犬:49.2%
仲の良さを変動させる因子(抜粋)
- 先住犬と初めて顔を合わせた時の新参猫の年齢が若いほどポイントが高い
- 猫が室内飼いであるほどポイントが高い
- 犬の前で猫がくつろいでいる
- 犬が猫と寝具を共有している
- 猫が犬を脅かした
- 猫が犬の前でお腹を見せる
- 犬と猫が一緒に遊ぶ頻度
- 猫が犬の前でくつろいでいない
Thomson, J.E., Hall, S.S, Mills, D.S., Journal of Veterinary Behavior (2018), doi: 10.1016/j.jveb.2018.06.043
解説
古典的なイメージを犬と猫は本能的にいがみ合っており、決して仲良くなる事は無いされていますが、今回の調査では「相手がいるときくつろいでいる?」という問いに対し、飼い主の主観ベースでは猫が82.9%、犬が91.2%というかなり高い割合で「YES」と回答されています。犬と猫に直接聞いた場合の答えが同じかどうかは不明ですが、ほとんどの家庭では仲良く暮らせている可能性が高いと考えられます。ただし「相手を脅かすことはある?」に関しては猫が56.5%で犬が18.0%、「相手に怪我を負わせたことはある?」に関しては猫が9.6%で犬が0.9%になっていますので、犬がしつこくまとわりついたときの「猫パンチ」には注意が必要でしょう。
犬と猫の仲の良さを左右する予見因子としては、猫の態度がメインであることが明らかになりました。「相手の前でくつろいでいる」という全く同じ行動でも、普段は無愛想な猫が見せた方が強く飼い主の印象に残り、ポイントが高くなるものと推測されます。Foxが行った古典的な観察調査(1969)によると、犬のデフォルト状態は「社交的で誰とも仲良し」、猫のデフォルト状態は「無愛想で選り好みする」というものです。猫は自分より身体が大きな動物に捕食される危険性がありますので、本能的に相手をパーソナルスペースから締め出そうとするのは仕方のないことないでしょう。
過去に行われた調査(Feuerstein, 2008)では、犬と猫を仲良くさせる秘訣は若いときに顔合わせさせることとされています。今回の調査でも、犬を迎える前に猫を飼育することで仲の良さが高まる可能性が示されました。こうしたことから調査チームは、状況が許すなら猫が1歳になる前の段階で犬と顔合わせさせるのがよいと推奨しています。
猫が室内飼いされている場合、仲の良さが向上する可能性が示されました。一緒にいる時間が長いとそれだけお互いの存在に慣れ、敵対的な行動が減って逆に親和的な行動が増えるのかもしれません。ただし1つの部屋に犬と猫を強引に一緒にするのではなく、お互いのプライバシーを尊重した環境設定が必要だとしています。特に猫においては、犬がコンタクトできないような隠れ場所や犬が登れないような高い場所にプライベートスペースを設けてあげることが重要になるでしょう。ポイントは「好きな時に相手と接点をもてる」という制御性(controllability=自分で環境コントロールできるという感覚)と予見性(predictability=びっくりするようなことが起こらないという安心できる状態)を備えた環境づくりをするという点です。