詳細
調査を行ったのは、イギリス王立獣医科大学のチーム。2007年1月から2014年3月の期間、大学付属の病院を受診した猫のうち、骨折部位を外側から固定する「創外固定法」によって治療した猫だけを選抜し、合併症の危険性を高める要因が何であるかを検証しました。その結果、合計140頭の猫が調査対象として残り、以下のような傾向が浮かび上がってきたと言います。
Lee Beever et al., Journal of Feline Medicine and Surgery(2017) 19, 727?736, DoI: 10.1177/1098612X17699466
多い骨折部位
- 脛骨=24%
- 足首以遠=16%
- 大腿骨=14%
- 足根骨=14%
- 上腕骨=10%
- 顎骨=7%
- 前腕=6%
- 膝=4%
- 手首以遠=3%
- 脊柱=1%
多い骨折合併症
- 刺入部感染症(表層)=45%
- 器具の不具合=41%
- 医原性骨折=7%
- 刺入部感染症(深層)=7%
骨折部位と多い合併症(抜粋)
- 足根骨✓刺入部感染症(表層)=13%
✓刺入部感染症(深層)=13%
✓器具の不具合=63%
✓医原性骨折=13% - 大腿骨✓刺入部感染症(表層)=60%
✓刺入部感染症(深層)=10%
✓器具の不具合=30%
✓医原性骨折=0%
Lee Beever et al., Journal of Feline Medicine and Surgery(2017) 19, 727?736, DoI: 10.1177/1098612X17699466
解説
今回の調査には、骨折を治療した猫が網羅的に含まれているわけではなく、治療法に関する医療記録がしっかり整っており、なおかつ「創外固定法で治療を受けた」という条件を揃えた猫だけが選別されています。ですから猫全体における骨折外傷の縮図というわけではありません。例えば当調査では最も多い受傷部位として「脛骨」が挙げられていますが、この部位が必ずしも猫全体における最も危険な部位とは限らないということになります。
骨折部位と合併症の種類を合わせて見たとき、大腿骨ではピン刺入部の感染症が、足根骨では固定器具のズレが最も多く観察されました。太ももは荷重が比較的小さい代わりに軟部組織が多くて微生物の繁殖が起こりやすいこと、足首の付近は軟部組織が少ない代わりに荷重がかかりやすく固定器具に対する外圧が大きいことが、合併症を引き起こす要因と考えられます。ちなみに手術から合併症が診断されるまでのタイムラグは10~154日で、中央値は43日でしたので、骨が癒合してある程度動けるようになったくらいの時期が一番危険なのかもしれません。
犬を対象として行われた過去の調査では、骨折に関連した合併症の発生率が100%と報告されています。一方、猫を対象として行われた同様の調査では26~65%となっています。今回の調査では「創外固定法」に限定されていますが、19%(27/140頭)という値になりました。少なくとも犬を比較対象とした場合、猫における合併症の発生率は低いようです。要因としては、犬に比べて猫は活動性が低く多くの時間を寝て過ごすため、術後の安静期間における患部へのストレスが少ないことなどが考えられます。
骨折部位にかかわらず、すべての猫に対して6~8週間の安静が指示されました。動きの取れないケージの中で1~2ヶ月間の軟禁生活を強いられるというのは、いくら昼寝が趣味の猫といえども辛いものと推測されます。当調査では骨折の原因までは検証されませんでしたが、一般的に「落下」、「交通事故」、「虐待」が原因の多くを占めていますので、飼い主としては安易なベランダ出しや放し飼いに注意したいところです。