詳細
味には「甘い | 辛い | しょっぱい | すっぱい | 苦い」という分類がありますが、2002年に「T1R1/T1R3」と呼ばれる分子がL-アミノ酸を感知する受容器として同定されたことにより、第6の味として「うまみ」(umami)の存在が浮き彫りとなり、国際的にも認知されるようになってきました。
調査ではまず猫の「T1R1」を形成する遺伝子を大腸菌(E.coli)の中に組み込み、封入体と呼ばれる構造の中に大量の「ネコ型T1R1-N末端」を形成しました。「N末端」とはアミノ酸と結合する部位のことです。そしてリフォールディングと呼ばれる技術を用いてN末端の構造を再構成し、実験室の中に「猫の口の中」を模擬的に再現しました。 再現された「ネコ型T1R1-N末端」(猫のアミノ酸受容器)を元に、様々な種類のアミノ酸および人間やマウスにおいてうま味促進剤としての作用が確認されている「IMP」(イノシン5'‐一リン酸)や「GMP」(グアノシン-5'-一リン酸)との結合を調べていったところ、以下のようなデータが得られたと言います。アミノ酸は全て「L体」です。
Belloir C, Savistchenko J, Neiers F, Taylor AJ, McGrane S, Briand L (2017) PLoS ONE12(10): e0187051, https://doi.org/10.1371/journal.pone.0187051
- T1R
- 「T1R」とはアミノ酸配列や機能に基づいてA~Fまでの6つのクラスに分類されている「Gタンパク質共役受容体」の1つ。分類は「クラスC」(代謝性グルタミン酸受容体)。味覚には「T1R1~3」というサブユニットが関わっており、T1R3同士が合体した「T1R3/T1R3」が甘みの受容に、そしてT1R1とT1R3が合体した「T1R1/T1R3」がアミノ酸の受容に関わっていることが確認されている。
調査ではまず猫の「T1R1」を形成する遺伝子を大腸菌(E.coli)の中に組み込み、封入体と呼ばれる構造の中に大量の「ネコ型T1R1-N末端」を形成しました。「N末端」とはアミノ酸と結合する部位のことです。そしてリフォールディングと呼ばれる技術を用いてN末端の構造を再構成し、実験室の中に「猫の口の中」を模擬的に再現しました。 再現された「ネコ型T1R1-N末端」(猫のアミノ酸受容器)を元に、様々な種類のアミノ酸および人間やマウスにおいてうま味促進剤としての作用が確認されている「IMP」(イノシン5'‐一リン酸)や「GMP」(グアノシン-5'-一リン酸)との結合を調べていったところ、以下のようなデータが得られたと言います。アミノ酸は全て「L体」です。
猫のアミノ酸受容器の特徴
- 6種類のアミノ酸と結合能力を示す
- 特にアラニンとイソロイシンとの親和性が強い
- システインとは結合しない
- 低濃度のIMPやGMPによってN末端とアミノ酸の結合が促進される
- IMPの存在によって特に結合力が強化されるのはヒスチジン、それについでアラニン、イソロイシン、アルギニン
Belloir C, Savistchenko J, Neiers F, Taylor AJ, McGrane S, Briand L (2017) PLoS ONE12(10): e0187051, https://doi.org/10.1371/journal.pone.0187051
解説
過去に猫を対象として行われた調査では、何も含まれていない水よりもアラニンやヒスチジンが含まれた水の方を好むことが確認されています。今回の調査でも、T1R1のN端末がアラニンやヒスチジンと結合する能力を有していることが確認されました。ですから猫の舌には「うまい!」と感じられている可能性はあるでしょう。一方、N端末とアルギニンとが結合することも確認されましたが、猫はこのアミノ酸が含まれた水を好むどころか、逆に忌避するとされています。その理由として調査チームは、アルギニンが忌避されたと言うよりも、アルギニンによって水のpHが低下したのが原因ではないかと推測しています。
分子内に硫黄(S)を含むシステインとN末端との結合は確認されませんでした。しかし猫を対象とした味覚試験では、システインを含むものを好んだと報告されています。この理由に関し調査チームは、マウスにおける「mGluR1」や「mGluR4」のように、T1Rとは全く別系統のアミノ酸受容器があるのではないかと推測しています。
人間においては「IMP」と「GMP」がうま味促進剤として作用することが知られていますが、詳細なメカニズム関してはよくわかっていませんでした。今回の調査では、アミノ酸が存在していなくてもIMPやGMPがT1R1のN末端と単独で結合することが確認されましたので、これらの分子自体がうま味成分というよりも、N末端に結合して構造を安定化させることにより、アミノ酸分子との結合力を促進してうま味を強めている可能性が強まりました。
人間ではLグルタミン酸とLアスパラギン酸の2つだけがうま味成分とされています。一方、猫においては少なくとも6種類のアミノ酸が受容器と結合することが確認されました。アミノ酸受容器とアミノ酸が結合した結果、電気信号が脳に送られ「うまい!」と感じているのかどうかは猫に聞いてみないとわかりませんが、小さな口の中で人間より多くの「うま味」を享受している可能性は高いようです。