詳細
トルコの医学誌「Journal of Istanbul Veterinary Sciences」(Volume2, Issue1, April 2017)に投稿された症例報告の概要は以下です。
生後6ヶ月のメス猫(1.3kg)の咳が1週間ほど続いていたため、飼い主が自己判断でアセトアミノフェン500mg含んだ人間用の解熱薬1錠を猫に経口投与した。それから1~2時間後、猫の具合が急に悪くなったため病院を受診したところ、口腔・鼻腔の粘膜や舌のチアノーゼ(紫色に変色する状態)、頻呼吸(45回/分)、頻脈(160回/分)、低体温(直腸温で36.5℃)といった症状が確認され、血液の色が深紅色で尿の色も濃く変色していたことから、急性のアセトアミノフェン中毒と診断された。
薬剤はすでに体内に吸収されていたため、催吐剤の投与や胃洗浄は行われず、アセトアミノフェンに対する解毒作用を有したアセチルシステインの複数回投与が行われると同時に、体液量を調整するための輸液、赤血球の正常化を図るためのアスコルビン酸(ビタミンC)の投与などが行われた。
治療開始から8時間後、唇と眼科周辺部のむくみが見られたものの、治療の進行とともに数時間で軽快。むくみが減少するとともに粘膜部の血色も元に戻っていった。3日目になると貧血症状と黄疸が見られたため輸血を決行。その結果、呼吸数、心拍数が正常化し、食欲も戻った。
Acetaminophen Toxicosis in a Cat
解説
今回の症例ではたまたま猫が一命を取り留めましたが、少しでも治療開始が遅れていたら命を落としていただろうと考えられています。飼い主が誤って投与してしまった場合や猫が誤飲してしまった場合、早急に病院を受診する必要があります。人間にとってなじみ深い解熱剤が、猫にとっては猛毒になってしまう理由は以下です。
アセトアミノフェンは通常、経口摂取した後、腸管から肝臓へと送られて大部分がグルクロン酸抱合や硫酸抱合といったメカニズムによって代謝されます。しかしすべてが代謝されるわけではなく、一部はチトクロームP-450代謝経路に入り、N-アセチル-p-ベンゾキノンイミン(NAPQI)という物質に変換されます。この物質は毒性を有していますが、肝臓におけるグルタチオン抱合メカニズムによって無毒化され、最終的にはメルカプツール酸に代謝されて尿中に排泄されます。
ややこしい専門用語がたくさん出てきましたが、要するに肝臓における「グルクロン酸抱合」、「硫酸抱合」、「グルタチオン抱合」といった解毒作用が正常に機能していれば、アセトアミノフェンは最終的に無毒化されて尿中から排出されるということです。しかし残念なことに、猫の肝臓は少量しかグルタチオンを蓄えておらず、またグルクロン酸転移酵素の活性が極めて低く抑えられています。つまりアセトアミノフェンを無毒化して体外に放出するための「グルクロン酸抱合」と「グルタチオン抱合」が、他の動物に比べて極めて弱いのです。その結果、犬よりも7~10倍もアセトアミノフェン中毒にかかりやすいと推定されています。 2016年にイギリスの保険会社が行った調査では、約9%の飼い主が「人間用の医薬品をペットに与えたことがある」と回答しています。また1人平均7回の投与歴があり、具体的な医薬品名としては以下のようなものが多かったそうです。
ややこしい専門用語がたくさん出てきましたが、要するに肝臓における「グルクロン酸抱合」、「硫酸抱合」、「グルタチオン抱合」といった解毒作用が正常に機能していれば、アセトアミノフェンは最終的に無毒化されて尿中から排出されるということです。しかし残念なことに、猫の肝臓は少量しかグルタチオンを蓄えておらず、またグルクロン酸転移酵素の活性が極めて低く抑えられています。つまりアセトアミノフェンを無毒化して体外に放出するための「グルクロン酸抱合」と「グルタチオン抱合」が、他の動物に比べて極めて弱いのです。その結果、犬よりも7~10倍もアセトアミノフェン中毒にかかりやすいと推定されています。 2016年にイギリスの保険会社が行った調査では、約9%の飼い主が「人間用の医薬品をペットに与えたことがある」と回答しています。また1人平均7回の投与歴があり、具体的な医薬品名としては以下のようなものが多かったそうです。
ペットに投与される人間用医薬品
- 抗ヒスタミン薬→36%
- アセトアミノフェン→28%
- 殺菌クリーム→21%
- イブプロフェン→17%
- アスピリン→14%
人間用医薬品をなぜ与える?
- 医療費を削減するため→35%
- 病院に行くほどではないと判断した→21%
- 取り急ぎ苦痛を緩和しようとした→33%
- 市販薬をペット与えてもよいという誤解→27%