詳細
アメリカのミズーリ大学が主導している「99 Lives Cat Genome Sequencing Initiative」は、猫の細胞内に含まれる38本の染色体をすべて解析し、DNA変異に関するデータベースを構築しようというプロジェクト(→出典)。2015年にスタートしてから74頭の猫(イエネコ)と9頭のネコ科動物の全ゲノム解析(WGS)が終了しています。プロジェクトの最終目標は99頭のWGSを完了することですので、今もなお進行中です。
しかし小脳低形成の場合、通常は歩行能力が保たれており症状は進行しないが、この子猫の場合は生後12週齢から24週齢になるまでの間に、明らかな症状の悪化を示していた。生後38週齢時、福祉の観点から安楽死が実行された後、血液サンプルがワシントン大学「McDonnell Genome Institute」に提出され、全ゲノム解析が行われた。 各種の症状から「ライソゾーム病」(細胞内小器官の1つライソゾーム内部の酵素が欠損して老廃物が蓄積してしまう病気)の疑いがあると判断されたため、DNA解析結果のうちこの疾患と関連のある遺伝子に焦点を絞って調べると同時に、「99 Lives Cat Genome Sequencing Initiative」に蓄積されている他の猫のDNAデータと照合した。その結果、症状を示した子猫だけがホモ型(両親から1本ずつ受け継ぐ型)で保有している変異が見つかった。具体的には、D3染色体上のNPC1遺伝子内で、アデニンとシトシンが入れ替わる(c.1322A>C)というミスセンス変異だった。「NPC1遺伝子」の変異は、人間のニーマンピック病C型患者の95%で見られるものであることから、子猫の病気は、猫では珍しいニーマンピック病(C型1)であると推定された。
こうしたゲノムデータの解析と蓄積は、病気の早期発見や適切な治療からなる「猫の個別化医療」の礎(いしずえ)になってくれるものと期待される。 Precision Medicine in Cats: Novel Niemann-Pick Type C1 Diagnosed by Whole-Genome Sequencing
Mauler, D.A., Gandolfi, B., Reinero, C.R., O'Brien, D.P., Spooner, J.L., Lyons, L.A. and 99 Lives Consortium (2016), J Vet Intern Med. doi:10.1111/jvim.14599
- 全ゲノム解析
- 生物のゲノムがもつ遺伝情報を総合的に解析し、DNAを構成しているすべての塩基を明確化するという手法。
しかし小脳低形成の場合、通常は歩行能力が保たれており症状は進行しないが、この子猫の場合は生後12週齢から24週齢になるまでの間に、明らかな症状の悪化を示していた。生後38週齢時、福祉の観点から安楽死が実行された後、血液サンプルがワシントン大学「McDonnell Genome Institute」に提出され、全ゲノム解析が行われた。 各種の症状から「ライソゾーム病」(細胞内小器官の1つライソゾーム内部の酵素が欠損して老廃物が蓄積してしまう病気)の疑いがあると判断されたため、DNA解析結果のうちこの疾患と関連のある遺伝子に焦点を絞って調べると同時に、「99 Lives Cat Genome Sequencing Initiative」に蓄積されている他の猫のDNAデータと照合した。その結果、症状を示した子猫だけがホモ型(両親から1本ずつ受け継ぐ型)で保有している変異が見つかった。具体的には、D3染色体上のNPC1遺伝子内で、アデニンとシトシンが入れ替わる(c.1322A>C)というミスセンス変異だった。「NPC1遺伝子」の変異は、人間のニーマンピック病C型患者の95%で見られるものであることから、子猫の病気は、猫では珍しいニーマンピック病(C型1)であると推定された。
こうしたゲノムデータの解析と蓄積は、病気の早期発見や適切な治療からなる「猫の個別化医療」の礎(いしずえ)になってくれるものと期待される。 Precision Medicine in Cats: Novel Niemann-Pick Type C1 Diagnosed by Whole-Genome Sequencing
Mauler, D.A., Gandolfi, B., Reinero, C.R., O'Brien, D.P., Spooner, J.L., Lyons, L.A. and 99 Lives Consortium (2016), J Vet Intern Med. doi:10.1111/jvim.14599
解説
現在70近い遺伝子変異が、猫の見た目、病気、血液型を決定づけていることが確認されています(→出典)。例えばペルシャにおける進行性網膜萎縮症、ジャパニーズボブテイルの短尾、デボンレックスとスフィンクスにおける遺伝性の筋無力症候群などです。今回の調査で発見された変異(D3染色体>NPC1遺伝子>c.1322A>C)は、人医学の分野でも獣医学の分野でも報告されていない新しいものですので、データベースの拡充に役立ってくれるものと思われます。
猫のDNAはマウスのものと比較して人間のDNAと相同性が高いと言います。つまり、人間のDNAを元にして得られた知見を猫に応用したり、逆に猫のDNAを基にして得られた知見を人間に応用したりするといった融通が利くという意味です。こうした特性から、猫エイズ(FIV)の研究が人間のエイズ(HIV)の研究に役立ってくれるのではないかと期待されています(→出典)。 人間では数千人単位、犬では数百頭単位で全ゲノム解析が進んでいます。それに対し猫のゲノム解析は、2007年に「シナモン」という名のアビシニアンが解析されて以降、全頭を合わせても100頭に届きません。1番のネックになっているのは1頭につき3,000ドルという調査費用だと考えられます。ミズーリ大学では引き続きゲノム解析の対象となる猫のDNAサンプルを募っていますので、興味のある方は参加してみてはいかがでしょうか? 99 Lives Cat Genome Sequencing Initiative
猫のDNAはマウスのものと比較して人間のDNAと相同性が高いと言います。つまり、人間のDNAを元にして得られた知見を猫に応用したり、逆に猫のDNAを基にして得られた知見を人間に応用したりするといった融通が利くという意味です。こうした特性から、猫エイズ(FIV)の研究が人間のエイズ(HIV)の研究に役立ってくれるのではないかと期待されています(→出典)。 人間では数千人単位、犬では数百頭単位で全ゲノム解析が進んでいます。それに対し猫のゲノム解析は、2007年に「シナモン」という名のアビシニアンが解析されて以降、全頭を合わせても100頭に届きません。1番のネックになっているのは1頭につき3,000ドルという調査費用だと考えられます。ミズーリ大学では引き続きゲノム解析の対象となる猫のDNAサンプルを募っていますので、興味のある方は参加してみてはいかがでしょうか? 99 Lives Cat Genome Sequencing Initiative