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犬や猫の不凍液(エチレングリコール)中毒にはウォッカが有効!?

 不凍液の誤飲による猫の急性エチレングリコール中毒に対し、ウォッカを解毒剤として用いたという症例が報告されました(2017.7.18)。

詳細

 2017年に入り、急性エチレングリコール中毒に陥った猫に対し、お酒の一種である「ウォッカ」を静脈から注射することによって応急処置をしたという事例が立て続けに報告されました。概要は以下です。
 2017年3月、イギリスに暮らすテレサ・マリアさんは庭にある小屋の近くでずぶ濡れになって倒れている猫の「プリンセス」(7歳)を発見した。近くには棚から落ちたボトルとそこからこぼれ出た不凍液があったため、急性中毒を疑ってロンドンにあるブルークロス動物病院に直行。獣医師はすぐ近くの酒場へ走り、ウォッカを購入して猫に静脈注射した。24時間に及ぶ集中治療の末、プリンセスは元気を取り戻した。 Mirror(2017.3.31) ウォッカによる不凍液中毒治療を受けたイギリスの猫「プリンセス」
 2017年7月、オーストラリア・ブリスベン西部に位置するローウッドのタイヤ店で、身元不明の猫が倒れていた。発見者がワコールにあるRSPCA動物病院に急行して血液検査を行ってもらったところ、急性腎不全に陥っていることが判明。状況から考えて不凍液中毒と判断した獣医師は、看護師の1人が偶然持っていたウォッカを静脈注射した。翌朝、幾分か元気を取り戻した猫には、いみじくも「Tipsy」(ほろ酔いちゃん)という名が与えられた。 abc(2017.7.17) ウォッカによる不凍液中毒治療を受けたオーストラリアの猫「ティップシィ」
 「猫にウォッカを注射する」とは一瞬耳を疑うような表現ですが、症例が不凍液中毒の場合は例外的に行われるようです。しかし上で紹介したような「毒をもって毒を制する」治療法が成立するには、猫が不凍液を摂取した事が確かなこと、および摂取から3時間以内であることという条件が必要になります。また人間の中毒患者に対して稀に行われるように、口から直接飲ませるということはできませんので、「自分にも出来るかもしれない!」と誤解しないようにしましょう。 猫の急性腎不全

解説

 犬や猫の不凍液中毒は多くの場合「エチレングリコール」(ethylene glycol)と呼ばれる化学物質によって引き起こされます。

エチレングリコール中毒の症状

 摂取してから30分以内に見られる急性期の症状は、人間の「酔っ払い」に近いものです(→出典)。
30分~12時間の超急性期症状
  • ふらつき
  • 多尿
  • のどの渇き
  • 嘔吐
  • 倦怠感
 急性期を過ぎるといったん症状が治まったように見えますが、体の中では臓器への侵食が進行しています。具体的には、アルコールデヒドロゲナーゼと呼ばれる分解酵素によってエチレングリコールが代謝され、生成されたグリコール酸とシュウ酸が腎臓や肝臓に毒性を発揮するという流れです。その結果、摂取から12~24時間のうちに以下に示すような症状へと進行します。
12時間以降の急性期症状
  • 呼吸数と心拍数の上昇
  • アシドーシス
  • 脱水症状
  • 倦怠感
  • 食欲不振
  • 発作
  • 昏睡
  • 沈うつ
  • 重度の腎不全
  • 無尿
  • 死亡

エチレングリコール中毒の診断

 エチレングリコール中毒に特異的な症状が1つも無いため、肉眼で確認できる症状だけから他の疾患と鑑別することは困難です。また、たとえ血液検査や尿検査を行ったとしてもやはり特異的な症状が少ないことから、他の疾患と誤診される可能性も否定できません(→出典)。

エチレングリコール中毒の治療

 誤飲した直後で物質が体内に吸収されていないことが確かな場合は、「嘔吐」が治療の第一選択肢となります。しかし誤飲からしばらく経過し、内臓から吸収されて神経症状が出ている場合は、「解毒剤」が第一選択肢になります。猫の場合、摂取から3時間以内がタイムリミットです。
 エチレングリコールに対する解毒剤には「ホメピゾール」(fomepizole)と「エタノール」(エチルアルコール, ethanol)があります。両者に共通している効果は、アルコールデヒドロゲナーゼとの親和性が極めて高く、エチレングリコールが分解される前に酵素と結合し、有毒な代謝産物の蓄積量を減らすというものです。しかし前者に関しては非常に高価だったり流通自体がストップしていることもあるため、すべての動物病院が常備しているとは限りません。結果として、ホメピゾールを常備していない動物病院にエチレングリコール中毒が強く疑われる動物が運び込まれた際は、エタノールの静脈注射が行われます。しかし、その動物病院がこのエタノールすら常備していなかった場合は、窮余の策としてアルコール度数が極めて高い「ウォッカ」や「エヴァークリア」などが用いられます。 犬と猫の中毒ハンドブック(学窓社)

エチレングリコール中毒の予後・予防

 エチレングリコールの吸収量が少なく、投与したエタノールの量が適正である場合、24時間程度で徐々に快方に向かっていくことが期待されます。しかし、エチレングリコールの吸収量が多い場合や、エタノールの投与量が多すぎる場合は、急性腎不全や肝不全から最悪のケースでは死亡してしまいますので楽観視はできません。ニュースで紹介されるような事例は、どちらかといえば例外的なものと考えた方が現実的でしょう。
 最も重要な事は言うまでもなく予防です。エチレングリコールは以下のような製品に含まれている可能性がありますので、あらゆる状況を想定し、絶対に猫が接触できないよう注意します(→出典)。悪意ある人間による意図的な不凍液の散布は世界中でちらほら聞かれますので、無責任な放し飼いは猫にとって命取りです。
エチレングリコール含有製品
  • 不凍液
  • 凍らない保冷剤
  • 古い保冷枕
  • 自作PCの水冷
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