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ベラプロストナトリウムを含んだ猫専用の慢性腎臓病薬が登場

 日本生まれのオリジナル成分「ベラプロストナトリウム」を含んだ薬が、猫専用の慢性腎臓病薬として登場しました(2017.1.24/日本)。

ベラプロストナトリウムの特徴

 2017年1月23日、東レ株式会社は同月13日付で、農林水産省から猫の慢性腎臓病治療薬として経口プロスタサイクリン(プロスタグランジンI2)製剤の製造販売承認を取得したことを発表しました(→出典)。「ラプロス®」という商標名をつけられたこの新薬の特徴は、人間の慢性動脈閉塞症や肺動脈性肺高血圧症に用いられている「ベラプロストナトリウム」を有効成分としているという点です。この成分は血管内皮細胞の保護や炎症性サイトカインの産生抑制といった効果を有していることから、腎臓の炎症と線維化を病態とする猫の慢性腎不全にも応用できるのではないかと目をつけられ、今回の商品化へとつながりました。販売は2017年4月以降を予定しています。
ベラプロストナトリウムの基本情報
プロスタグランジンI2(プロスタサイクリン)の分子構造
  • 生理作用アラキドン酸から生合成されるプロスタグランジンI2(プロスタサイクリン)を改良し、経口投与ができるようにしたもの。生理作用はプロスタグランジンと同じで、抗血小板作用、血管拡張作用、血管内皮細胞の保護作用、炎症性サイトカインの産生抑制作用など。
  • 特徴腎臓の炎症を抑制したり、血管内皮を保護して虚血を防ぐことで腎臓間質の線維化を予防する。末梢血管を拡張して血圧を下げることで腎臓を保護する「アンジオテンシン変換酵素阻害薬」(ACEインヒビター)や、腸内で有害物質を吸着して便とともに排泄させることで腎臓の負担を減らし、尿毒症を防ぐ「球形吸着炭」とはコンセプトが異なる。
  • 法律平成29年1月13日、農林水産省から承認を受けると同時に、要指示医薬品に指定された(獣医師等の処方箋・指示がなければ投与できない)。国内オリジナルの有効成分で、動物用医薬品として海外での製造販売等の実績はない。
  • 対象投与対象はIRISステージ2~3の慢性腎臓病を抱えた猫。1回あたり1錠、1日2回、朝晩の食後に経口投与する。ただし10ヶ月齢未満の子猫や体重7kgを超える肥満(大柄)猫に対する有効性は確認されていない。
薬事分科会動物用医薬品等部会・議事録 農林水産省・動物用医薬品データベース

ベラプロストナトリウムの安全性と有効性

 大々的に発表しているにもかかわらず、法律との兼ね合いからか安全性に関するデータをほとんど見つけることができません。発表が行われた1月23日時点で、ネット上で確認できるものとしては以下のようなものがあります。
安全性と有効性
  • 安全性試験 11頭の猫を投与グループ(6頭)と対照グループ(5頭)とに分け、前者には含有量が異なる薬剤(10, 30, 70, 100μg/kg)を1日2回、後者には偽薬を1日2回投与した。投与期間は1つの含有量につき1週間で、含有量を変更する場合は2週間の間隔を開けた。
     投薬を開始する30分前と1週間の投与試験が終了した1時間後のタイミングで血液動態や組成を調べたところ、30μg/kg以上になると含有量に応じて心拍数が上昇したが、血圧や血液成分にはほとんど影響がなかった。70と100μg/kgでは、投与前および対照グループに比べて血清クレアチニンが有意に減少した。70μg/kgで散発的な下痢、100μg/kgで一時的な軽い嘔吐と鎮静が見られたものの、医療的な介入をしなくても自然に復調した。
     猫におけるベラプロストナトリウムの副反応は他の動物で見られるものとほとんど同じで、30μg/kgを1日2回までなら、長期的に使用しても問題ないと考えられる(→出典)。
  • 臨床試験 国内にある18の医療機関において、投与グループ36頭と対照グループ38頭を対象とした無作為化二重盲検比較試験を行った。180日間の投与試験を行ったところ、偽薬を与えられた対照グループの血清クレアチニンが有意に悪化したのに対し、投与グループでは60日目から改善の兆しを見せはじめ、180日目まで維持された(→出典)。
 この成分は日本で独自に開発されたものであるため、海外における使用データはありません。つまり、猫に対して本当に有効であるかどうかは、日本国内に暮らしている慢性腎不全を患ったたくさんの猫たちを通して実証するしかないわけです。まるで動物実験のようで聞こえは悪いですが、人間用であれ動物用であれ、医薬品の多くは市場に出すことで副作用事例を集めているという側面がありますので、別に珍しいことではありません。
 現時点でこの薬はいいとも悪いとも言えませんが、最低限の知識くらいは持っておいても損はないでしょう。なお物理・化学的試験、安定性に関する試験、毒性試験、薬理試験、吸収等試験についてもっと知りたい場合は、ダメ元で直接メーカに問い合わせるしかありません。
(追記)2017年11月、ラプロスの投薬試験に関する詳細が一般公開されました。詳しくは以下のページにまとめてありますのでご参照ください。 猫の慢性腎臓病に対するベラプロストナトリウム(ラプロス®)の投薬試験結果 猫の慢性腎不全