トップ2017年・猫ニュース一覧1月の猫ニュース1月19日

犬や猫向け菜食主義(ベジタリアン・ヴィーガン)フードの多くにはなぜか動物成分が入っている

 犬や猫向けに売られている「100%植物成分」を謳ったベジタリアン(ヴィーガン)フードを調べたところ、およそ半数に動物のDNAが含まれていることが明らかになりました(2017.1.19/アメリカ)。

詳細

 調査を行ったのは、カリフォルニア大学デーヴィス校のチーム。2014年6月から10月の期間、アメリカ国内で犬や猫向けに「ベジタリアンフード」もしくは「ヴィーガンフード」として市販されている14商品(ドライ6+ウェット8)を、3~4ヶ月の間を空けて2度購入し、中に含まれている動物11種類のDNAを「multiplex PCR」という手法を用いて調査しました。 ベジタリアンとヴィーガンが口にできる食品の一覧表  その結果、乾燥卵を含んでいた1商品を除き、残り13商品はすべてラベル上で「植物由来の成分しか使っていません」と宣言していたにもかかわらず、実際はドライフード6種類全てとウェットフード1種類から、動物のDNAが1種類以上検されたと言います。
 こうした事実から調査チームは、動物成分の混入が意図的に行われたものなのか、保存・輸送・製造の過程で偶発的に混入してしまったものなのかはわからないものの、嘘偽りのないラベリングを義務づけている「連邦食品・医薬品・化粧品法」に抵触しているのみならず、消費者の信頼を裏切る行為だとしています。
Determination of mammalian deoxyribonucleic acid (DNA) in commercial vegetarian and vegan diets for dogs and cats.
Kanakubo, K., Fascetti, A. J. And Larsen, J. A. (2017), J Anim Physiol Anim Nutr, 101: 70?74. doi:10.1111/jpn.12506

解説

 市販のペットフードの中に、ラベルには表示されていない成分が含まれているという現象は、過去に行われたいくつかの調査でも報告されています(→詳細)。今回の調査においても、およそ半数の商品でミスラベリングが確認されましたので、「またか」という感を否めません。ミスラベリングは特に、ある特定の成分に対してアレルギーを持った犬や猫にとっては一大事になることがあるため、メーカー側の倫理とコンプライアンスが強く求められます。

ペットへの菜食主義フードは虐待?

 今回調査対象となった植物成分オンリーのペットフードは、近年ベジタリアンやヴィーガンの間で流行っているものです(→出典)。人間の場合、動物成分を口にしない信念の背景には道徳観や宗教があり、個人の自由とされます。しかしその食習慣をペットである犬や猫にまで強要することに対しては、かねてから非難の声がありました(→出典)。特に雑食性の人間や犬とは違い、動物由来のアミノ酸や脂肪酸に対する栄養要求が高い猫に対してベジタリアンフードを強要することは、動物虐待に匹敵するという辛辣な意見もあります。
 菜食主義フードを信奉する人の中には、倫理観ばかりが先行し、信頼のおける情報源を示さないままフードの切り替えを推奨している人がいます(→出典)。一方、菜食主義フードに否定的な意見を持っている人の中には、ペットフードメーカーと利害関係があり、発言内容にバイアスがかかっている可能性を否定できない人がいます(→出典)。結局、どちらの意見も頭ごなしに信用することはできないというのが現状です。

菜食主義フードのエビデンス

 菜食主義フードの安全性に関するエビデンス(医学的な証拠)を中立的な立場から調査したものとしては、2016年にイギリス・ウィンチェスター大学が行った総括レビューがあります。内容を要約すると以下です。
 2000年以降にベジタリアン(ヴィーガン)フードを対象として行われた調査をレビューしたところ、ほとんどのケースでAAFCOもしくはNRCの栄養基準を下回る商品が見つかった。しかし少数の例外を除き、植物由来のフードが犬や猫に健康被害をもたらすという証拠は不思議と見当たらなかった。それどころか、逸話的ではあるものの、以前より健康になったと言う飼い主すら存在する。ただしこうした調査の多くは、エビデンスに基づいた医学の基準とされるRCT(ランダム化比較試験)という条件を満たしておらず、また血液検査も不十分であるため、解釈は慎重に行わなければならない。
 現時点における知見を総括すると、食餌が動物由来であれ植物由来であれ、栄養要求さえ満たしていればペットに健康被害をもたらすことはないと考えられる。重要なのは、フードの種類にかかわらず、飼い主自身がペットの栄養に関する正しい知識を持っておくこと、およびメーカーが品質を維持するためにどのような体制を敷いているか確認しておくことである。 Vegetarian versus Meat-Based Diets for Companion Animals
 最後の「メーカーが品質を維持するためにどのような体制を敷いているか」という観点は確かに重要です。ウィンチェスター大学の調査チームが2015年の末、ペット用のベジタリアンフードを国際的に販売している12の企業に対し、「第三者機関による検査結果を品質保証の証拠として提出できるか?」という質問を投げかけたところ、1社は回答拒否、5社は完全無視という不誠実な対応だったと言います。残りの6社からは何らかの回答を得ることができましたが、「企業秘密」などを盾にして、第三者機関による分析結果を開示してくれる所はとうとう1つもなかったそうです。
 こうした対応とカリフォルニア大学の混入成分調査とを考え合わせると、現時点でメーカーに全幅の信頼を置き「市販の菜食主義フードさえ与えていれば大丈夫!」と言うのは早計でしょう。猫向けフードにおいてはカリウム、ある種のアミノ酸(メチオニン・システイン)、ビタミンB12、タウリン、葉酸不足などが報告されていますので、食餌を切り替える際は猫の栄養要求を参照しつつ慎重に行う必要があります。 猫の栄養と食事