詳細
調査を行ったのは、ポーランド・ワルシャワ大学の生物科学部が中心となったチーム。2002年10月から2007年12月の期間、ポーランド中央部に位置する「田舎エリア」と「都会エリア」合わせて26地域に暮らしている猫の飼い主にお願いし、外を自由に出歩くことができる猫が自宅に持ち帰ってくる「お土産」の数と種類をカウントしてもらいました。田舎と都会の簡単な定義は以下です。
調査チームは、猫が生態系に対して大きな影響を及ぼすのは春(鳥類)と秋(げっ歯類)である可能性が高いとの結論に至りました。 Annual variation in prey composition of domestic cats in rural and urban environment
Krauze-Gryz, D., ?mihorski, M. & Gryz, J. Urban Ecosyst (2016). doi:10.1007/s11252-016-0634-1
田舎と都会の定義
- 田舎エリア草原と森林がモザイク状に入り交じっている地域。耕作地が60~90%、森林が6~30%。
- 都会エリア低い建物や庭付きの家屋などが散在するワルシャワ郊外の小さな町。建物が50%、耕作地が30%、森林16%。
お土産の絶対数
お土産の割合
お土産の季節性
こうした結果から調査チームは、過去に行われた調査を基にして立てた3つの仮説がおおむね証明されることを確認しました。
1つ目は田舎よりも都会において鳥が大きな割合を占めるということです。この現象には都会に生息している鳥の数が田舎に比べて多いことが関係していると考えられます。都会エリアの獲物の中で特に多かったスズメ目(63羽)とハト目(25羽)は、過去の調査において都会における生息密度が高いと報告されていますので、当調査においてもこうした鳥の生態の差が、各地域におけるお土産の数に反映されたものと推測されます。
2つ目は、季節ごとに小動物の構成が変わるということです。具体的には、個体数が最も多くなる秋(9月~10月)になるとげっ歯類が多くなり、若鳥が巣立つ夏(6月)ごろになると鳥が多くなり、冬眠などで不活発になる冬(11月~2月)になると爬虫類が減ることが確認されました。
3つ目は田舎と都会とでは獲物の構成が大きく様変わりするということです。これは小動物たちの数やライフスタイルが、生息している場所の影響を受けて変動するからだと考えられます。例えば、トガリネズミやモグラといったトガリネズミ目やトカゲやヘビと言った爬虫類は、暮らしにくい都会エリア(1.8%と3.5%)よりも暮らしやすい田舎エリア(10.4%と11.4%)において多いなどです。調査チームは、猫が生態系に対して大きな影響を及ぼすのは春(鳥類)と秋(げっ歯類)である可能性が高いとの結論に至りました。 Annual variation in prey composition of domestic cats in rural and urban environment
Krauze-Gryz, D., ?mihorski, M. & Gryz, J. Urban Ecosyst (2016). doi:10.1007/s11252-016-0634-1
解説
今回の調査では、猫が家に持ち帰った小動物を獲物の数として無条件でカウントしましたが、この方法はいくつかの問題を含んでいます。まず1つは、猫はすべての獲物を家に持ち帰るわけでは無いという点です。屋外において捕らえた獲物は、その場に放置したり、その場で食べたり、家に持ち帰ったりします。家に持ち帰った分だけをカウントしてしまうと、放置された獲物や胃袋に入っている獲物の数を無視してしまうことになりますので、過少カウントになるでしょう。もう一つは、猫が持ち帰った獲物は猫が殺したとは限らないという点です。自然死して道端に落ちていた死骸を、猫が興味本位で家に持ってきたという可能性を否定できません。このお土産を猫の狩猟の成果としてカウントしてしまうと、逆に過剰カウントになってしまうでしょう。
過去に行われた調査では、「カナダにおいて年間1~3.5億羽の鳥類が外猫によって殺されている(→出典)」、「アメリカでは年間24億羽の鳥類と123億匹の哺乳類が猫に殺されている(→出典)」、「オーストラリアでは外来種である猫が土着動物の減少に関わっている(→出典)」といった報告がなされています。見積もりの仕方に異議を唱える意見はあるものの、必要でない状況で獲物を殺傷する「満腹狩り」という習性を猫が持っている以上、外をうろついてる猫(野猫や外飼い猫)が生態系に影響を及ぼす事はないと言い張ることには無理があります。
2017年1月、鹿児島県の徳之島において、国の特別天然記念物に指定されているアマミノクロウサギを猫がくわえている写真が公開されニュースになりました。このウサギの死が自然死なのか猫によってもたらされたのかはわかりませんが、少なくとも「猫を外に出さない・迷子にしない」という鉄則さえ守っていれば、生態系への介入を最小限に抑えられると考えられます。