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猫用のメタボリックシンドローム診断基準が登場

 内臓脂肪型の肥満を早期発見して関連疾患の発症予防するため、猫用のメタボリックシンドローム診断基準が提案されました(2017.2.23/日本)。

詳細

 臨床の現場において猫の肥満を判定する際は「ボディコンディションスコア」(BCS)と呼ばれる目視評価表が用いられます。しかしこの方法は「人の目で判断する」という性質上、評価するドクターによって結果が変わりうるという難点がありました。 BCS1~やせすぎの猫 BCS5~太りすぎの猫  目視評価に代わる方法としては、超音波画像、CTスキャン、MRI、DEXA、BIA、重水希釈法といった方法がありますが、大掛かりな設備を必要とするとか、全身麻酔を必要とするといったネックがあるため実用的とは言えません。そこで考案されたのが、主観によるブレが少なく、安価で、猫に対する侵襲性が少ない「メタボリックシンドローム評価」という方法です。
 日本獣医生命科学大学のチームは、関東にある6つの動物病院から合計14頭の猫(0~16歳)をリクルートし、体型ごとに3つのグループ(普通=7頭 | 太り気味=5頭 | 肥満=2頭)に分けた上で、内臓脂肪の増加を示すバイオマーカーがないかどうかを検証しました。CTスキャン、肝組織、内臓脂肪、皮下脂肪の生検、血清検査などを行った結果、以下のような傾向が確認されたと言います。
猫のメタボバイオマーカー
  • アディポネクチンアディポネクチンは脂肪細胞から分泌されるサイトカインの一種。普通体型(BCS3)の猫におけるアディポネクチン濃度は、太り気味(BCS4)や肥満(BCS5)の猫と比較して著しく高かった。肥満猫における濃度は普通体型の16分の1、太り気味の4分の1しかなかった。またアディポネクチン濃度は、皮下脂肪の増加とともに上昇するが、内臓脂肪が増加すると逆に低下する傾向を見せた。猫の体型別・アディポネクチン濃度
  • TNFαTNFα(腫瘍壊死因子α)は主にマクロファージによって産生されるサイトカインの一種。肥満(BCS5)の猫におけるTNFα濃度は普通体型(BCS3)の11倍、太り気味(BCS4)の9倍高かった。猫の体型別・血中TNFα濃度
  • 脂質中性脂肪と遊離脂肪酸は肥満度に応じて高濃度になっていった。
  • 肝組織肥満体型の猫の肝臓組織では、小型の脂肪滴が多く見られたが脂肪肝の兆候やALT・AST値の異常は見られなかった。
  • 脂肪細胞脂肪がどこに蓄積しているかにかかわらず、肥満体型の猫では単位面積あたりの脂肪細胞数が少なく、サイズが大きかった。また体型が肥満に近づくにつれ、皮下脂肪から内臓脂肪へとシフトし、一つ一つの細胞のサイズも大きくなっていった。猫の体型別・脂肪細胞顕微鏡画像猫の皮下脂肪と内臓脂肪のCTスキャン画像
 こうしたデータから調査チームは、アディポネクチンは内臓脂肪の状態を示す有望なバイオマーカーであるという結論に至りました。猫のメタボリックシンドロームの診断基準としては、具体的に以下のような値が提案されています。BCSとアディポネクチンが必須条件で、※の付いた項目が1つ以上併存している状態がメタボリックシンドロームです。
猫のメタボの診断基準
  • BCS=5段階で3.5超
  • アディポネクチン=3.0μg/mL未満
  • ※空腹時血糖値=120mg/dL超
  • ※中性脂肪=165mg/dL超
  • ※総コレステロール=180mg/dL超
Comparison of Visceral Fat Accumulation and Metabolome Markers among Cats of Varying BCS and Novel Classification of Feline Obesity and Metabolic Syndrome
Okada Y, Kobayashi M, Sawamura M and Arai T (2017) Front. Vet. Sci. 4:17. doi: 10.3389/fvets.2017.00017

解説

 従来のBCS評価に代わるものとして提案されたメタボリックシンドロームの診断基準ですが、実際に臨床の現場で使おうとするといくつかの問題点が見えてきます。
メタボ基準の障壁
  • 体型の評価1~5までの5段階評価で3.5超が必須条件とされています。主観によるブレを減らすために開発されたはずの診断基準に、相変わらず主観による評価が入っているのはおかしな話です。なおかつ「3.5」という細かな設定が用いられていますので、多くの獣医師は難しさを感じるのではないでしょうか。
  • 血糖値空腹時血糖値120mg/dL超が部分的な条件とされています。食事のタイミングを度外視して計測する随時血糖とは違い、空腹時血糖は直近の食事から18~24時間の断食期間を設けなければなりません。メタボかどうかを判断するためだけに猫に空腹を強いるのはかわいそうですし、病室内でのストレスが猫の血糖値を一時的に上昇させてしまうという紛らわしい事態も考えられます。ただ血糖値に関しては中性脂肪(165mg/dL)や総コレステロール(180mg/dL)で代替できるので、こちらの値を用いたほうが猫に優しいかもしれません。
  • アディポネクチン3.0μg/mL未満が必須条件とされていますが、血糖値やコレステロール値とは違い、アディポネクチンは特殊な検査キットを用いて数時間かけて調べなければなりません(→出典)。このキットを導入するには10万円近くの費用がかかるため、おそらく1回の検査に対し1,000円程度の負担を求められると考えられます。メタボかどうかを知るためだけに1,000円を払って長時間待つということに対し、多くの飼い主は抵抗を示すのではないでしょうか。
 猫用のメタボリックシンドローム診断基準は2015年11月「2016年の秋をめどに東京都獣医師会に加盟するおよそ700の動物病院で活用される予定である」と報道されました(→出典)。しかし、その後の目立った中間報告が無い点から考えると、上記したような様々な障壁が足かせになっているのかもしれません。 デブ猫を可愛いともてはやす一部のマスコミが猫の健康を悪化させる  人医学におけるメタボリックシンドロームは、動脈硬化症、慢性腎不全、非アルコール性脂肪肝の危険因子とされています。猫において同様の因果関係があるのかどうかは不明ですが、内臓脂肪の蓄積に伴うアディポネクチンの減少は、AMPKと呼ばれる酵素の働きを弱めることで組織における抗炎症作用やインスリン抵抗性を悪化させ、結果として2型の糖尿病を引き起こすと考えられています。飼い主として気をつけるべき事は、デブ猫かわいいとする一部のメディアに流されることなく、飼い猫の体型を日常的にチェックしておく事でしょう。 猫の肥満 猫のダイエット