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ニューヨークの猫で流行したトリインフルエンザは世紀末前後の変異株

 ニューヨークにある猫の保護施設で流行を見せたトリインフルエンザウイルスは世紀末前後の変異株であることが明らかになりました(2017.12.25/アメリカ)。

詳細

 2016年12月、ニューヨーク市内にある複数の動物保護施設でトリインフルエンザが小流行(エンデミック)を見せました。始まりはマンハッタンにあるシェルターの猫45頭で、その後クイーンズやブルックリンにあるシェルターでも感染が確認され、陽性猫の合計は最終的に400頭近くに上りました。猫と濃密に接する機会があった獣医師がインフルエンザ様の症状を示したことから、猫から人間に感染する可能性がにわかに浮上。急遽、市内の保護施設で働く160人やシェルターから猫を引き取った里親350人を対象として健康調査を行いましたが、最初に症状を示した獣医師以外でウイルスの感染は確認されませんでした。感染した猫たちは検疫にかけられ、現在では収束しています。 2016年12月、ニューヨークの猫で流行した鳥インフルエンザは20年前の変異株  今回の調査報告を行ったのは、アメリカ疾病管理予防センター(CDC)、ニューヨーク州健康福祉局、ウィスコンシン大学などからなる共同チーム。2016年のパンデミックで死亡した猫、およびその猫からウイルスをもらった獣医師の呼吸器からウイルスサンプルを採取し、両者を遺伝的に精査しました。その結果、当初の予測通り99.9%という高い近似性を見せ、両ウイルスがほぼ同じものであることが確認されました。さらに系統発生的に検証したところ、1994年から2006年の期間、アメリカ東~北東部(ニューヨーク、ペンシルバニア、バージニア、ウエストバージニア、ノースカロライナ、マサチューセッツ)で流行を見せたトリインフルエンザウイルス(LPAI-A(H7N2))と共有部分が多く、おそらく近似種であろうとの結論に至りました。
 しかし全く同じものという訳ではなく、人間に感染したウイルスでは「人の気管上皮細胞で効率的に複製できる」、「低いpHでヘマグルチニン活性が起こる」といったヒトインフルエンザウイルスに近い特質が見られたと言います。
 こうした結果から調査チームは、遺伝子再結合(re-assortment)によってトリインフルエンザウイルスが変異し、種の壁(species barrier)を越えて猫や人間に対する感染能を獲得するかもしれないと警鐘を鳴らしています。 Avian Influenza A(H7N2) Virus in Human Exposed to Sick Cats, New York, USA, 2016 Characterization of a Feline Influenza A(H7N2) Virus Vet Catches Bird Flu From a Cat in New York(NBC) Journal of Virology Rare Bird Flu Strikes Cats: What You Need to Know(Live Science) Hundreds of cats quarantined in New York City bird flu outbreak(Reuters)

解説

 変異型が多くて世界的な大流行を起こしやすいA型インフルエンザウイルスは、一般的に種特異性が高いとされていますが、異なる動物種間における伝播も確認されています。例えば以下は、猫における感染が確認されたことがあるウイルスの一覧です。
猫への感染が確認されたインフルエンザウイルス一覧
  • ヒトH2N2
  • ヒトH3N2
  • アザラシH7N7
  • トリH1N9
  • トリH4N6
  • トリH5N1
  • トリH7N2(※今回の調査対象)
  • トリH7N3
  • トリH7N7
  • トリH9N2
  • イヌH3N2
 今回の調査により、ニューヨークの猫で確認されたウイルスは世紀末前後に流行したトリインフルエンザウイルス(LPAI-A(H7N2))の変異株である可能性が高まりました。しかしいくつかの疑問点も残されています。
 まず第一に、猫が一体どこでウイルスをもらったのかがよくわかっていません。マンハッタンの保護施設に収容された時点ですでにウイルスを保有していましたので、猫がそもそもどこでウイルスを保有するに至ったのかに関してはもはやたどることが不可能です。
 第二に、なぜ猫の間でだけ流行を見せたのかがよくわかっていません。人間を対象とした調査では、ウイルスへの感染自体は確認されているものの、人から人への伝染に関しては確認されていませんので、おそらくそれほど伝播能力は強くないものと推測されています。一方、ニューヨークの事例では、ウイルスが400頭近い猫たちの間にあっという間に広まってしまいました。おそらく、猫同士のコンタクトを通して広まったものと考えられますが、なぜ猫でだけこれほどの大流行を見せたのかはよくわかっていません。
 インフルエンザウイルスは「遺伝子再結合」(re-assortment)によって常にマイナーチェンジ繰り返しています。猫にとって最悪なのは、これまで「トリインフルエンザ」と呼ばれていたものが種の壁を越えて感染能力を獲得し、「ネコインフルエンザ」になってしまうことです。今回のウイルスは幸いくしゃみや鼻水と言った軽症しか引き起こしませんでしたが、今後さらなる再結合が起こり、病原性の強い「ネコインフルエンザ」に変貌を遂げる可能性は常に残されています。当然「ヒトインフルエンザ」になる危険性もあります。猫はヒトインフルエンザに感染して媒介するかもしれない