詳細
調査を行ったのは、イギリスにあるハーパー・アダムズ大学の調査チーム。不妊手術のために動物病院を受診した臨床上健康な猫30頭(5~7ヶ月齢 | オス16頭)を、「隠れ家があるケージ」と「隠れ家がないケージ」というグループに15頭ずつランダムで振り分け、身体を隠せる空間の有無が猫の短期的なストレスにどのような影響を及ぼすかを検証しました。
ストレスの指標となったのは呼吸数、心拍数、体温、および体の位置や行動から猫のストレスの度合いを推し量る「キャットストレススコア」(CSS)と呼ばれる指標。来院してすぐのタイミングで生理学的な3つの指標を計測した後すぐケージに移し、2分ごとにCSSを数値化して20分間様子を見ました。その後猫をケージから取り出し、再び生理学的な指標を計測して、両グループ間にどのような違いがあるのかを統計的に計算しました。その結果、以下のような傾向が浮かび上がってきたといいます
Louise A. Buckley & Laura Arrandale (2017) , Veterinary Nursing Journal, 32:5, 129-132, DOI: 10.1080/17415349.2017.1301632
隠れ空間と猫の短期ストレス
- 箱の使用箱の中で過ごす時間の中央値が9分だったのに対し、箱の上で過ごす時間の中央値は0分/統計的に箱の上よりも中で過ごす時間の方が多い
- 呼吸数来院直後は「箱あり46回/分:箱なし43回/分」、20分後は「箱あり36回/分:箱なし41回/分」/差は見られたが小さいため統計的に有意では無い
- 心拍数来院直後は「箱あり151回/分:箱なし143回/分」で隠れ箱グループの方が高い/20分後は「箱あり131回/分:箱なし142回/分」で隠れ箱グループの方が低い/統計的に心拍数の低下が見られたのは隠れ箱グループだけ
- 体温来院直後は「箱あり38.5℃:箱なし38.4℃」、20分後は「箱あり38.4℃:箱なし38.4℃」/いずれも統計的に有意ではない
- CSS来院直後の格差はなかったが、20分後は箱ありグループのほうが有意に低い値(=ストレスが少ない)を示した
Louise A. Buckley & Laura Arrandale (2017) , Veterinary Nursing Journal, 32:5, 129-132, DOI: 10.1080/17415349.2017.1301632
解説
オランダ・ユトレヒト大学の研究チームが2016年に行った調査では、保護施設に収容された猫を対象とした隠れ家の効果が検証されました。その結果、「慣れない場所に連れてこられた猫たちのストレスを軽減するためには、身を隠せる箱の存在が極めて重要である」との結論に至っています。
まずキャリアに入れられた猫から飼い主の姿は見えませんので、「囚われた状態で何者かに連れ去られている!」という感覚に陥ります。また、プラスチックの窓があるから安全といった認識はなく「こちらから見えているので向こうからも見えている!襲われるかもしれない!」といった具合に、窓を覗き込む人々から多大な脅威を受けます。人間で例えると、体を縛られた状態でオープンカーに乗せられ、自動運転でサファリパークの中を横切っているような状況です。この状況を楽しめるような達観した猫はおそらくいないでしょう。 猫をフィーチャーした漫画、サービス、施設、商品の中には、猫の福祉を最優先に考えているとは思えないものが結構あります。真新しいものや人気のあるものをにすぐに飛びつくのではなく、猫のストレス軽減を優先的に考える癖をつけておけば、あとで後悔することも少なくなるでしょう。今回の知見を例に取ると、猫を病院に連れて行くときは、猫が「しっかりと身を隠せている!」と安心できるよう外界の変化が容易に見えないキャリーを使い、なるべく揺らさずに運んであげるなどです。
上記調査は2週間という長期に渡る猫のストレスがモニタリングされましたが、当調査によって「20分間」という非常に短い時間においても、隠れ家の存在がプラスに働いている可能性が示されました。臨床の現場で実際に採用するかどうかは別として、慣れない環境にある猫のストレスを軽減するには隠れ家が有効という知見を持っておけば、何かと応用が利くでしょう。
近年、宇宙飛行士に着想を得て作られたという猫用のキャリーが発売され話題になりました。しかしこの商品は「猫が外の景色を楽しんでいる」という致命的な誤解の上に成り立っています。おそらく「犬を散歩させる」とか「子供をドライブに連れて行く」といった感覚でデザインしたのでしょうが、犬や子供と猫を同等視してはいけません。まずキャリアに入れられた猫から飼い主の姿は見えませんので、「囚われた状態で何者かに連れ去られている!」という感覚に陥ります。また、プラスチックの窓があるから安全といった認識はなく「こちらから見えているので向こうからも見えている!襲われるかもしれない!」といった具合に、窓を覗き込む人々から多大な脅威を受けます。人間で例えると、体を縛られた状態でオープンカーに乗せられ、自動運転でサファリパークの中を横切っているような状況です。この状況を楽しめるような達観した猫はおそらくいないでしょう。 猫をフィーチャーした漫画、サービス、施設、商品の中には、猫の福祉を最優先に考えているとは思えないものが結構あります。真新しいものや人気のあるものをにすぐに飛びつくのではなく、猫のストレス軽減を優先的に考える癖をつけておけば、あとで後悔することも少なくなるでしょう。今回の知見を例に取ると、猫を病院に連れて行くときは、猫が「しっかりと身を隠せている!」と安心できるよう外界の変化が容易に見えないキャリーを使い、なるべく揺らさずに運んであげるなどです。