詳細
調査を行ったのは麻生大学獣医学部のチーム。30人の大学生(男性10名+女性20名/平均年齢20歳)を対象とし、ぬいぐるみや本物の猫を撫でている時、脳内で一体どのような変化が起こっているのかを「機能的近赤外線スペクトロスコピー」(fNIRS)という計測機器を用いてデータ化しました。
すべてのデータが出そろったところで、各項目の関連性を統計的に調べたところ、以下のような傾向が浮かび上がってきたと言います。
Ai Kobayashi et al., Anthrozoos Volume 30, 2017, Issue 3, dx.doi.org/10.1080/08927936.2017.1335115
- fNIRS
- 「機能的近赤外線スペクトロスコピー」(fNIRS)とは、酸化ヘモグロビンと脱酸化ヘモグロビンの間で見られる吸光度の違いを利用して脳内の血流をモニタリングする機器。CTやMRIに比べて大掛かりな装置を必要とせず、スペースを取らないのが特徴。今回の調査では、感情や社会的コミュニケーションとの関わりが深いとされている下前頭回という部位が調査対象となった。
猫撫でテスト(各60秒)
- おもちゃの猫の背中を触る
- おもちゃの猫の背中を撫でる
- おもちゃの猫の背中を自由に撫でる
- 本物の猫の背中を触る
- 本物の猫の背中を撫でる
- 本物の猫の背中を自由に撫でる
すべてのデータが出そろったところで、各項目の関連性を統計的に調べたところ、以下のような傾向が浮かび上がってきたと言います。
猫撫でと脳内変化
- 本物の猫を接触対象としているとき、下前頭回の活性レベルは男性よりも女性の方が高かった
- 女性の喜びの度合いは、おもちゃの猫よりも本物の猫を接触対象としているときの方が強かった
- 女性では左脳にある下前頭回の活性化レベルが高まるほど本物の猫を撫でる回数が増えた
- 女性では喜びの度合いが強まるほど本物の猫を撫でる回数が増えた
- 女性が本物の猫を撫でている時、神経質傾向が強い人ほど左脳にある下前頭回の活性レベルが高まった
Ai Kobayashi et al., Anthrozoos Volume 30, 2017, Issue 3, dx.doi.org/10.1080/08927936.2017.1335115
解説
猫好きの人間はたまに「モフモフしたい!」という衝動に駆られることがあります。これが先天的なものなのか後天的なものなのかはわかりませんが、脳科学レベルで解析するとある程度は説明が可能なのかもしれません。
おもちゃと本物
神経質傾向
その人が持つ神経質傾向が、猫と自由に接触しているときの反応に影響を及ぼしていました。具体的には、神経質傾向が強い男性ほど猫を撫でているときに脳の活性が低くなったのに対し、神経質傾向が強い女性ほど活性が高くなるというものです。過去に行われた調査では、神経質傾向が強い飼い主ほど猫とポジティブに交流すると報告されています(Wedl et al., 2011)。しかしもっと掘り下げて調べていくと、その反応は一様ではなく男女差が見られるのかもしれません。ちなみに「ビッグファイブ理論」で言う「神経質」とは、怒り、不安、抑うつといった不快な感情を抱きやすい傾向のことです。
男性と女性
男性と女性を比較したとき、女性の方が猫と接しているときの反応が強いことが明らかになりました。過去に行われた調査では、男性と女性とでは感情の処理をする脳の容量に差がある(Gur et al, 2002)、顔の動きや感情の変化に関し男性よりも女性の方が強く反応する(Kring et al, 1998)、猫と交流しているとき男性よりも女性の方がポジティブな接し方をする(Wedl et al,
2011)と報告されています。ですから猫と接した時のリアクションの違いには脳の器質的な男女差が関連しているのかもしれません。そう考えると、猫カフェデートで彼女に無理矢理連れてこられた男性がつまらなそうな顔をしているのは、致し方ないことと言えるでしょう。
野良猫に餌付けをしている人を統計的に調べたところ、アメリカ・フロリダ州では84%(年齢中央値45歳)が、そしてイスラエル・エルサレムでは81%(年齢中央値58歳)が女性だったと言います。こうした女性優位の傾向を生み出している要因としては、「家にいる時間が長く自由な時間が多い」といった家庭環境的なもののほか、「そもそも女性の方が猫との接触によって得られる感情的な報酬が大きい」といった脳生理学的なものも考えられます。