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東日本大震災後に保護された猫たちの健康を悪化させる要因

 東日本大震災のあおりを受けて保護施設に収容された猫を対象とした調査により、健康を悪化させる要因が明らかになりました(2017.4.3/日本)。

詳細

 調査を行ったのは、アメリカ・カリフォルニア大学デイヴィス校と日本獣医生命科学大学から成る共同チーム。2011年から2012年の期間、福島県動物救護本部・飯野シェルターに収容された合計189頭の猫を対象とし、保護施設内で発症しやすい下痢と上部気道感染症(URI)に焦点を絞って危険因子を精査しました。2011年に収容された95頭(オス36頭+メス52頭+不明7頭)と、2012年に収容された94頭(オス46頭+メス47頭+不明1頭)の内訳は以下です(※原文内の表には一部誤記あり)。
2011年
2011年に飯野シェルターに収容された猫たちの健康状態
2012年
2012年に飯野シェルターに収容された猫たちの健康状態  統計的な調査の結果、症状の緩和を狙って投与したはずの「糖質コルチコイド」、「抗ヒスタミン剤」、「インターフェロン」、「抗生物質」は全て、病気の発症、持続期間、再発のいずれかを助長しているという事実が浮かび上がってきたと言います。また、使用する薬剤が多ければ多いほど、投与期間が長ければ長いほど症状の悪化が見られたとも。
 投薬治療を行った方が症状が悪化してしまうという逆説的な結果を踏まえ調査チームは、緊急時における動物医療の注意事項として以下のような項目を挙げています。
緊急時の動物医療対策
  • 推奨項目猫のストレスを軽減すること第一に考え、事前に対策を設けておく。具体的には身を隠すための空間確保、犬エリアとの隔離、ノイズの軽減、過密状態の解消、習熟したスタッフによる一貫性のあるケアなど。
  • 非推奨項目糖質コルチコイドの投与は、免疫抑制作用により体内に潜伏した日和見病原体(FHV-1など)が活性化し、逆に体調を崩してしまう危険性があるため推奨されない。
    インターフェロンや抗ヒスタミン剤がURIを改善させるというエビデンスが存在していないため、「とりあえず」といったいい加減な投与は推奨されない。
    抗生物質の無節操な投与は猫の症状を悪化させ、また薬剤耐性菌の発生につながり得るため推奨されない。
 今回の調査で明らかになったのは、ボランティアを申し出てくれた良心的な獣医師たちの労働力が、明確な治療指針が欠如していたがために、逆に猫たちの症状を悪化させる結果になったという事実です。何よりも重要なのは、事前に最悪の事態を想定し、インフラと人員を統率するためのガイドラインを整備しておく事だとしています。
Epidemiological evaluation of cat health at a first-response animal shelter in Fukushima, following the Great East Japan Earthquakes of 2011.
Tanaka A, Kass PH, Martinez -Lopez B, Hayama S (2017) PLoS ONE 12(3): e0174406. doi:10.1371/journal.pone.0174406

解説

 以下は2011年(青)と2012年(緑)の各項目を比較した一覧グラフです。 2011年と2012年における飯野シェルター収容猫の健康状態比較グラフ  下痢以下の症状に関し、2011年よりも2012年の方が全項目において改善していることが伺えます。こうした変化が生まれた理由として調査チームは、「インフラの整備」、「外の環境の改善」、「収容環境の改善」、「スタッフ及び収容動物のストレス軽減」、「人員の習熟」、「治療方針の統一」などを想定しています。阪神淡路大震災においても、犬や猫の疾患として多かったのは外傷より内科的なものだったと言いますので、災害時における健康管理の眼目はやはり「ストレスの軽減」なのでしょう。 開所から2ヶ月経過した2011年6月における飯野シェルター猫収容部屋の様子  災害に見舞われた時にどのような行動をとり、どのようにペットの安全を確保するかは、飼い主が事前にシミュレーションしておかなければならない項目です。避難先で動物たちのストレスをゼロにすることはかなり難しい課題ですが、予習復習によって軽減することくらいは出来るのではないでしょうか。ちなみに過去の調査から上部気道感染症(URI)の危険因子として判明しているものは、ストレス、過密、犬が近くにいる、頻回の移動、劣悪な衛生状態、収容スタイルなどです。 災害時に必要なこと