ネコモルビリウイルスの脅威
「モルビリウイルス属」はRNAウイルスの一種で、ウシの「牛疫」、ヒトの「麻疹」、イヌの「イヌジステンパー」といった伝染性の強い感染症を引き起こすことで知られています。特徴は、宿主特異性が強く限られた動物種にしか感染しないという点や、血清型が単一でワクチンを生成しやすいという点などです。これまで猫を宿主とするウイルスは発見されていませんでしたが、2012年、香港で報告された症例から「ネコモルビリウイルス」(FeMV)という新種の存在が明るみに出ました(:Furuya, 2014)。このウイルスは、完全には証明されていないものの、原因不明の慢性腎臓病と関連性の強い尿細管間質性のネフローシスを引き起こしているのではないかと疑われています。
2016年、アメリカ、ドイツ、アイルランドの大学からなる共同研究チームは、アメリカ国内におけるネコモルビリウイルスの蔓延状況を報告しました。チームが慢性腎臓病の猫3頭、健康な猫7頭からアンプリコン(ポリメラーゼ連鎖反応と呼ばれるDNAを増幅する手法で増幅されたDNAのこと)を生成したところ、香港で報告された「FeMV-776U」と85~97%一致したものの、完全に同一のものではないことが確認されたといいます。さらにこのウイルスは、臨床上健康な猫の尿から数年レベルという長期に渡って外界に排出されている可能性があるとも。
研究チームは、動物種を乗り越えて感染する能力を獲得してしまうと予想外の病原性を発揮する危険性がある点を挙げ、ネコモルビリウイルスがどのように系統発生し、どのように蔓延するのかに関する予備知識を集積しておくことが急務であるとしています。正確な感染率は不明ですが、現在大規模な調査が進行中とのことです。 Chronic Infection of Domestic Cats with Feline Morbillivirus, United States
研究チームは、動物種を乗り越えて感染する能力を獲得してしまうと予想外の病原性を発揮する危険性がある点を挙げ、ネコモルビリウイルスがどのように系統発生し、どのように蔓延するのかに関する予備知識を集積しておくことが急務であるとしています。正確な感染率は不明ですが、現在大規模な調査が進行中とのことです。 Chronic Infection of Domestic Cats with Feline Morbillivirus, United States
ネコモルビリウイルスは日本にも
ネコモルビリウイルスに関しては2013年、日本でもその存在が確認されています。東京大学農学部などが中心となって北海道、山口県、愛媛県にある動物病院でランダムに採取された尿82サンプル、東京にある株式会社ケーナインラボから提供された血液10サンプル、麻布大学から提供された腎炎の組織10サンプルを調査しました。その結果、ウイルスの陽性率は血液が10%(1/10)、尿が6.1%(5/82)、腎炎組織が40%(4/10)だったと言います。腎炎とウイルスの因果関係は分からなかったものの、40%という高い陽性率は慢性腎臓病と何らかの関わりを持っている可能性をうかがわせます。
Existence of feline morbillivirus infection in Japanese cat populations