詳細
調査を行ったのは、フランス・パリ東大学を中心とした共同研究チーム。ヨーロッパ、カナダ、アメリカに暮らしている70頭のメインクーンに対して手と足 のレントゲン撮影を行い、48頭の多指個体と22頭の通常個体の間に、どのような違いがあるのかを解剖学的に比較しました。
その結果、手や足の指に連なる手根骨や足根骨の構造に違いは見られたものの、前腕を構成している橈骨(とうこつ)には明確な差異がなかったと言います。またこの知見は、3ヶ月齢の多指個体と通常個体、および成猫の多指個体と通常個体を比較した場合も同じだったとのこと。
こうした事実から研究チームはメインクーンで見られる「多指症」が、猫の健康や福祉を損なっているという証拠は見出せなかったと結論づけました。 Clinical characterisation of polydactyly in Maine Coon cats
こうした事実から研究チームはメインクーンで見られる「多指症」が、猫の健康や福祉を損なっているという証拠は見出せなかったと結論づけました。 Clinical characterisation of polydactyly in Maine Coon cats
解説
メインクーンやピクシーボブでよく見られる多指症の遺伝に関しては現在、常染色体上の「Pd」遺伝子による不完全優性遺伝という説が有力視されています。「常染色体」とは性別に関係なく発現するという意味で、「不完全優性」とは個体が持つ2つの対立遺伝子のどちらにも属さない中間的な表現型が現れることがあるという意味です。もし「Pd」遺伝子が通常の優性遺伝だとしたら、母親か父親のどちらか一方から1本でも遺伝子を受け継げば、100%の確率で多指症の猫が生まれます。しかし実際は不完全優性遺伝であるため、仮に「Pd」遺伝子を保有していたとしても、必ずしも多指症の猫が生まれるわけではありません。
「Pd」遺伝子は、発生の初期段階で四肢の軸前部(親指側)に変化をもたらし、結果として指が多くなると考えられています。その現れ方は多種多様で、Danforthが1947年、97頭の多指猫を対象として行った調査では、以下の表で示すようなバリエーションがあったそうです(※T=通常は短いはずの親指が長く伸びている状態)。
猫の多指症は一時期、骨の形成不全と関連があるのではないかとの疑いが持たれていました。この疑念の発端となったのは、1990年代に一部の非倫理的なブリーダーが「ツイスティキャット」(twisty cat)と呼ばれる奇形猫を選択的に繁殖したことだと考えられます。これらのブリーダーはリスのような短足猫を作出するため、短足同士を熱心に掛けあわせていましたが、そのようして生まれた猫の中には関節が不完全で「ハンバーガー」と呼ばれるむっちりした手足を持つものが多くいました。この手足の外観が多指猫のものとよく似ていたため、「骨格の形成不全=多指猫」という思い込みが広まった可能性があります。
指の骨格が通常の猫とは違うという特徴から、何らかの奇形を引き起こすのではないかと心配する声もありますが、今のところ以下に示すような遺伝的な疾患との関連性は証明されていません。
多指症と無関係の骨格異常
- 合指症
- 母指3指節
- 四肢一側形成不全症
- 橈骨形成不全症
- エリス・ファンクレフェルト症候群