伝説の出どころ
「猫には9つの命がある」あるいは「猫に九生あり」ということわざの正確な起源をたどることは容易ではありません。ただ、1500年代の時点ではすでに、こうした表現がイギリス国内で定着しつつあったと推測されます。その具体例は、イギリスの小説家ウィリアム・ボールドウィンが1561年に出した「Beware the Cat」(猫にご用心)という作品中の「魔女はその猫の体を九回使うことを許されるのだ」(a witch may take on her a cats body nine times)という一節や、シェイクスピアの戯曲として有名な「ロミオとジュリエット」中の、「猫王どの、九つあるというおぬしの命がたった一つだけ所望したいが」(Mer.Good King of Cats, nothing but one of your nine lives)という一節に見ることができます。
「100」や「1,000」など、たくさんある数字の中で、なぜ「9」が選ばれたのかに関しては、疑問が残るところです。よく聞く説としては「魔女が生まれ変われるのは9回だけ。だから猫にも9つの命がある」などが挙げられます。しかし本当の起源をさらに深くたどっていくと、どうやら魔女が生まれるよりもっと古い、古代エジプトにおける「エネアド」(Ennead)、すなわち「九柱神」にまで遡れるようです。
古代エジプト人にとって「9」は非常に神聖な数字でした。なぜなら、三位一体の神がさらに3組揃って初めてできる数字だったからです。神聖な「9」からなる「九柱神」は、早くも第5王朝(BC2500年頃)の時代から崇められていたと考えられています。九柱神には幾つかのバリエーションがありますが、最も有名な組み合わせは以下です。
エジプト九柱神(エネアド)
- アトゥム(天地創造の神)
- シュウ(大気の神)
- テフネト(湿気の神)
- ゲブ(大地の神)
- ヌト(天空の神)
- オシリス(生産の神)
- イシス(豊穣の神)
- セト(砂漠と異邦の神)
- ネフティス(夜の神)
エジプトでは全ての神が9柱単位で数えられた。猫に「9」という数字が捧げられたのはおそらくその影響だろう。エジプト人の思想に触れた国々では太陽と月、そしてその象徴である猫に、神聖なイメージを重ねたのだ(第33章・猫の9つの命)。
伝説の検証
猫と数字の「9」を結び付けるだけだったら、「9回ジャンプする」でも「9回食べる」でもよかったはずです。ではなぜ「9回生きる」という表現が生まれたのでしょうか?こちらも正確な起源をたどる事は容易ではありません。しかしいくつかの仮説なら挙げることができます。
優れた着地能力
猫が生まれながらに持っている優れた着地能力が、「9つの命」という表現の源になった可能性があります。具体的には以下です。
猫の着地能力
- 姿勢反射 猫には「姿勢反射」という反射が生まれながらにして備わっており、約60cmの高さがあればどんな体勢から落下しても必ず足で着地することができます。これは人間にはできない芸当です。
- 前足から落ちる 猫はかなり高い場所から降りるときでも前足を使って着地します。人間に置き換えると、高さ2mの場所からジャンプし、そのまま両手を使って着地するようなものですので、到底できることではありません。
- 高所から落下する 猫は木の上など、かなり高い場所から落ちてもケロッとしていることがあります。体重が軽くて着地した時の衝撃が少ないことのほか、脳みそが小さいので脳震とうを起こしにくいということが関わっていると考えられます。昔の人からすると不思議で仕方がなかったでしょう。
「プチ家出」の習性
多くの猫が見せる「プチ家出」という習性が、「9つの命」という表現の源になった可能性があります。
古代エジプトにしても、中世ヨーロッパにしても、猫は基本的に放し飼いだったと考えられます。外を自由に出歩くことのできる猫は、ふらっと外に出てプラプラ散歩し、気が向いた時に家に帰るというライフスタイルを送っていたに違いありません。その中には、2~3日家を出たまま帰らないものもあったことでしょう。こうした「プチ家出」に出くわした飼い主は、「ああ…うちの猫が死んでしまった…」と早合点し、勝手に死んだことにしてしまうかもしれません。そんな折、家出中だった猫がふらっと帰ってきます。飼い主は「ああ生きていたんだ!」と大喜びするでしょう。
このような「プチ家出→死亡説→帰宅→復活」というプロセスを何度も繰り返していると、「猫は何度も蘇る」という印象が強化され、いつしか「猫には9つの命がある」という風説に発展していく可能性が考えられます。
古代エジプトにしても、中世ヨーロッパにしても、猫は基本的に放し飼いだったと考えられます。外を自由に出歩くことのできる猫は、ふらっと外に出てプラプラ散歩し、気が向いた時に家に帰るというライフスタイルを送っていたに違いありません。その中には、2~3日家を出たまま帰らないものもあったことでしょう。こうした「プチ家出」に出くわした飼い主は、「ああ…うちの猫が死んでしまった…」と早合点し、勝手に死んだことにしてしまうかもしれません。そんな折、家出中だった猫がふらっと帰ってきます。飼い主は「ああ生きていたんだ!」と大喜びするでしょう。
このような「プチ家出→死亡説→帰宅→復活」というプロセスを何度も繰り返していると、「猫は何度も蘇る」という印象が強化され、いつしか「猫には9つの命がある」という風説に発展していく可能性が考えられます。
魔女の使い魔
中世における魔女のイメージが、「9つの命」という表現の源になった可能性があります。
中世ヨーロッパにおいて、猫は魔女の使い魔であるとみなされていました。魔女に対する当時の迫害は厳しく、「魔女狩り」のマニュアル本が出版されたくらいです。「魔女への鉄槌」(1486年)と題された悪名高い魔女狩り指南書の中では、魔女であることを見抜くための様々な手法が記されています。例えば「手足を縛って水に沈める」、「体中を鉄の針で刺す」などです。これらの記述は、当時のキリスト教教会にとって「魔女=不死身」というイメージだったことを物語っています。
もしこのイメージが、魔女の使い魔である猫にも重ねられるようになったのだとすると、「猫は不死身である」という風説の土台になった可能性は十分にあるでしょう。
中世ヨーロッパにおいて、猫は魔女の使い魔であるとみなされていました。魔女に対する当時の迫害は厳しく、「魔女狩り」のマニュアル本が出版されたくらいです。「魔女への鉄槌」(1486年)と題された悪名高い魔女狩り指南書の中では、魔女であることを見抜くための様々な手法が記されています。例えば「手足を縛って水に沈める」、「体中を鉄の針で刺す」などです。これらの記述は、当時のキリスト教教会にとって「魔女=不死身」というイメージだったことを物語っています。
もしこのイメージが、魔女の使い魔である猫にも重ねられるようになったのだとすると、「猫は不死身である」という風説の土台になった可能性は十分にあるでしょう。
伝説の結論
古代エジプトから中世ヨーロッパを経て、いつの間にか作り上げられた「猫には9つの命がある」(Cat has nine lives)という表現は、数千年の時を経て今もなお生き続けています。「なかなか死なない」とか「しぶとい」といった意味合いで用いられることが多いようです。
このことわざにヒントを得たのかどうかは知りませんが、「猫の歴史と奇話」(築地書館)の中では、死んだ人を蘇らせる「タナトロジー」の実験台として、猫が用いられていたという仰天エピソードが紹介されています。この非倫理的な実験が行われたのは、終戦間もない旧ソ連のレニングラード。麻酔をかけた上で猫の動脈を切断し、約7分後に心臓が停止すると、今度は猫から採った血液に酸素を満たして動脈に輸血しなおしたそうです。猫にとっては、迷惑この上ない話ですね。 いつの時代であっても、猫の命は1つしかありません。また絵本のように100万回生きることもできません。しかし、死の危険を1回かわすことを「一生」としてカウントするならば、「九生」を全うすることも決して不可能ではないでしょう。以下は猫の「九生」を実現するために飼い主ができる9つのポイントです。
このことわざにヒントを得たのかどうかは知りませんが、「猫の歴史と奇話」(築地書館)の中では、死んだ人を蘇らせる「タナトロジー」の実験台として、猫が用いられていたという仰天エピソードが紹介されています。この非倫理的な実験が行われたのは、終戦間もない旧ソ連のレニングラード。麻酔をかけた上で猫の動脈を切断し、約7分後に心臓が停止すると、今度は猫から採った血液に酸素を満たして動脈に輸血しなおしたそうです。猫にとっては、迷惑この上ない話ですね。 いつの時代であっても、猫の命は1つしかありません。また絵本のように100万回生きることもできません。しかし、死の危険を1回かわすことを「一生」としてカウントするならば、「九生」を全うすることも決して不可能ではないでしょう。以下は猫の「九生」を実現するために飼い主ができる9つのポイントです。
寿命を延ばす9つのコツ