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牛を原料としたキャットフードの成分~製造工程から安全性まで

 キャットフードのラベルに記された「牛肉粉」(ビーフミール)。この原料の成分から安全性と危険性までを詳しく解説します。そもそも猫に与えて大丈夫なのでしょうか?また何のために含まれ、猫の健康にどのような作用があるのでしょうか?

牛を原料としたキャットフードの成分

 ペットフードのラベルに記載されている「牛肉粉」や「牛脂」とは、基本的に不要部位を加工したものです。ここで言う「不要部位」とは、牛を食肉に加工する過程で発生する膨大な量のいらない部分のことを指します。具体的には皮膚、骨、脂肪、内臓、血液、四肢(前足+後ろ足)、頭部などです。「肉」という言葉が入っているので赤み部分を連想してしまいますが、人間の口に入る食肉部分は用いられていません。
 キャットフードのラベルでよく見られる具体的な表記例は以下です。「エキス」は煮詰めて取り出した抽出液、「パウダー」や「ミール」(meal)は粉々に砕いた状態を指します。
牛を原料とした成分一覧
  • ビーフ
  • ビーフエキス
  • ビーフパウダー
  • ビーフミール
  • 牛肉粉
 なお「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」によると魚や動物(牛・豚など)の不要物がと畜場や食鳥処理場から生じた場合は「動物系固形不要物」、その後の製造業から生じた場合は「動植物性残渣(ざんさ)」として区別されます。しかし混乱を避けるため、当ページ内では便宜上「不要部位」と統一して表現します。

牛肉粉・牛脂のレンダリング

 食肉に加工する過程で生じた牛の不要部位は「FAMIC」(独立行政法人農林水産消費安全技術センター)による審査に適合した製造基準適合確認事業場 に送られ、「牛肉粉」や「牛脂」といった形に加工されます。これが「レンダリング」(rendering)と呼ばれる工程で、レンダリングを行う業者は「レンダラー」(renderer)とも呼ばれます。
 以下は肉粉や牛脂が製造されてペットフードに使用されるまでの一般的な流れです。

牛の畜産業者

 牛の畜産業者とは、食肉に加工することや牛乳を採取することを目的として牛を飼養している業者のことです。牧場・酪農家とも言います。引退した乳牛も実は食肉に加工されており、年間の牛肉流通量4万トン強のうちおよそ3割を占めています。
 畜産業者が牛を食肉として売る場合、と畜場に送り出してと畜場法の定める手順に則ってと畜された後、食品衛生法によって許認可を受けた食肉処理施設において食肉加工されます。
 一方、家畜が病気(伝染病を除く)や事故で死んでしまった場合は廃棄物の処理及び清掃に関する法律によって産業廃棄物という区分になります。勝手に食べたり自宅の庭に埋めことはできません。
 家畜の死体には獣医師が「死亡獣畜処理指示書」を添付し、廃棄物処理法に基づく許可を有する運搬業者などを介して化製場(かせいじょう)に送り出して適切に処分します。化製場は化製場法に則り、都道府県知事の許可を受けていなければなりません。

牛の不要部位・供給施設

 不要部位の供給施設とは、と畜検査に合格した牛から食用に適する脂身や枝肉を切り分ける施設のことです。言い換えれば、食用には適さない不要部位を供給する施設でもあります。具体的には牛のと殺を行う「と畜場」、枝肉の加工を行う「食肉加工場」、加工された枝肉を一般消費者に販売する「精肉店」などが含まれます。
 牛は生きた状態でと畜場に送り込まれますので、必然的に体内から高濃度の安楽死薬が検出されることはありません。しかし抗生物質、合成抗菌剤、駆虫薬、農薬が体内に残っている可能性があるため、と畜場ではと畜検査官による簡易チェック、加工された食肉に対しては厚生労働省がポジティブリスト制度に則り「食品中の残留農薬等検査」を行って食肉の品質管理をしています。もし基準値を超えた場合は食品衛生法違反で廃棄処分となります。

牛のレンダリング施設

 レンダリング施設とは、国から食用油脂や牛肉粉(牛肉骨粉)を製造する許可を受けた業者のことです。食用油脂の製造工程を「ファットレンダリング」、ひずめ、角、血液、内臓などの製造工程を「アニマルレンダリング」と区別することもあります。
 レンダリング施設では、供給施設から回収した脂身やその他の不要部位から以下のような製品を製造します。
牛副産物を利用した製品
  • 食用油脂食用油脂とはマーガリンやショートニングの原料、飲食店におけるフライ用油や香味油、小売店におけるラードや牛脂(タロウ)などです。基本的には人間の口に入ります。原料は背脂を始めとした牛の生脂です。詳しくは「牛脂」でも解説してありますのでご参照ください。
  • 獣脂かす獣脂(じゅうし)かすとは脂身から脂を抽出したあとに残るかすのうち、粗脂肪が20~30%前後のもののことです。
  • 肉粉肉粉(にくふん)とは脂身から脂を抽出したあとに残るかすを粉砕し、粗脂肪8~12%程度に調整したものです。「ミートミール」や「ビーフミール」とも呼ばれます。ペットフードの原料となりラベルでも頻繁に見かけますが、原料は肉ではなく脂身ですので、誤解を避けるため本来は「脂粉」とか「脂かす」と呼ぶべきでしょう。
  • 肉骨粉肉骨粉(にくこっぷん)とは肉粉に骨が含まれているものです。「ミートボーンミール」とも呼ばれます。
 上記以外では、血液を加工した「血粉」、ひづめを加工した「蹄粉」、角(つの)を加工した「角粉」などがあります。牛、ヒツジ、ヤギなどの反芻(はんすう)動物のレンダリングを行う場合は、ブタ、ニワトリ、魚などの製造ラインとは明確に分けなければなりません。もし製造ラインをごちゃごちゃにすると、飼料安全法違反となり営業停止処分を喰らいます。また、製造された加工製品は家畜の飼料としても、ペットフードの原料としても特別な許可がない限り出荷できなくなります。

調製加工業者

 調製加工業者とは肉粉などを収集し、プレス、粉砕、成分調製を行う業者のことです。ペットフードの原料として出荷するためには、業者がFAMICによる審査に合格し、なおかつ加工製品に肉粉等供給管理票を添付しなければなりません。

ペットフード製造業者

 ペットフード製造業者とは、成分調整された肉粉を原料として仕入れ、ペットフードを製造する業者のことです。事前にFAMICに申請を出し、現地見分による審査に合格しなければ営業はできません。ここを経てようやく一般の飼い主の手元にペットフードが届きます。
 なお日本国内ではペット向けに使用できる原材料が「人間の食用としてと畜された獣畜や食鳥の副産物」と規定されており、「肉粉等供給管理票」によって業者間の流れが管理されています(→FAMIC。ですから必然的に「4D」と呼ばれる「病死した動物」「と畜検査で不合格となった動物」「安楽死薬で死亡した動物」などがペットフードに混入することは、ルール違反がない限りありません。もちろん道路上で死亡した動物や保健所などで殺処分となった動物が混入することもありえません。

異常プリオン(狂牛病)予防

 牛を原料とした食材で問題となるのがプリオン病です。 プリオン病とは体の中に産生される蛋白質が異常化することで発生する疾患のことで、ウイルスや細菌といった病原性微生物によって引き起こされる感染症と似ていますが全くの別物です。
 1986年、イギリス国内において最初のウシ海綿状脳症(BSE)、いわゆる「狂牛病」が確認されたことから、世界中の食肉市場で混乱が起こり、各国で急いで対策法案が制定されていきました。日本も例外ではなく、「飼料の安全性の確保及び品質の改善に関する法律」および「牛海綿状脳症対策特別措置法」により、BSEの感染源となりうる原料を飼料として利用することが制限されています。

ペットフードの狂牛病リスク

 ペットフードに関して言うと、異常プリオンによる汚染の可能性がないことから2012年、「牛、めん羊、山羊」から取れた食用脂肪を原料とする肉粉の使用が解禁されました。ただし牛脂や肉粉の製造業者には以下の要件を満たすことが求められています。 肉粉等のペットフード原料としての利用に関する手続(FAMIC)
牛脂・肉粉製造業者の要件
  • 肉粉等の製造原料としては、と畜場で特定危険部位が除去されていることが確実な脂肪を用いる
  • 肉粉等の製造に当たっては、原料及び製品の数量等を記録・管理する
  • ペットフードの原料として用いる肉粉の輸送に当たっては、専用の容器を用いるとともに、トレーサビリティを確保するため「肉粉等供給管理票」による管理を行う
 また肉粉を原料としてペットフードを製造する業者には以下のような要件が求められています。
ペットフード製造業者の要件
  • 肉粉等を使用したペットフードは、家畜・養殖魚用飼料の製造工程と分離した工程で製造する
  • 製造するペットフードは、荷姿からペットフードであることが容易にわかる「リテール製品」に限定する
  • 肉粉等を用いてペットフードを製造する際は、原料及び製品の数量等を記録・管理する
 上記の要件が遵守されていることを確認するため、「FAMIC」(独立行政法人農林水産消費安全技術センター)による確認制度が導入されています。ですから牛を原料とした肉粉や肉骨粉が日本国内で製造している限り、異常プリオンに汚染された製品が流通する可能性はかなり低いと考えられます。

輸入された牛肉粉等のリスク

 国内においては肉粉等の原料が厳密に規定されていることがわかりました。では海外で製造された肉粉等はどうなのでしょうか?
 国外から肉粉等を輸入しようとする場合も規制がかかります。まずどんな国からでも輸入できるわけではありません。輸入が許されているのは、農林水産省との間で「家畜衛生条件」が締結されている国だけです。「家畜衛生条件が締結されている」とは、日本国内で実行されているリスク管理と同等以上の管理が相手国側でも行われていることを意味します。具体的には「人間の食用としてと畜された獣畜や食鳥の副産物」だけを用いた肉粉となるでしょう。
 国家間で家畜衛生条件が締結され、海外の輸出国から製造施設が具体的に指定されると、日本国内の輸入業者はFAMICが定める手続を行い、指定された製造施設だけからペットフード用原料として肉粉等を輸入することが可能となります。要するに適当な国にあるよくわからない会社から、日本国内に好き勝手に輸入できるわけではないということです。
 ちなみに「動物の骨粉、肉粉、肉骨粉、血粉、皮粉、羽粉、蹄角粉及び臓器粉」は家畜伝染病予防法によって指定検疫物、すなわち輸出国と輸入国双方の検査と許可が必要なものに指定されていますので、密輸入することは容易ではありません。

輸入されたペットフードのリスク

 海外で製造されたペットフードはどうなのでしょう?実は最もリスクが高いのはこのパターンだと考えられます。
 先述したとおり、日本国内でペットフードを製造しようとすると、原材料に一定に規制がかかり、汚染物質が製造工程から排除されるような仕組みになっています。しかし海外において同様の仕組みが機能しているとは限りません。例えば、安楽死薬で殺した家畜の肉をペットフードに転用するなどです。実際に2017年と2018年には、アメリカ国内で犬用のウエットフードに安楽死薬の一種「ペントバルビタール」が混入し、食べた犬1頭が死亡するという事件が起こっています。また異常な量の甲状腺ホルモンが混入したためドライフードやトリーツ5種が立て続けにリコールされるという事件も同時期に起こっています。後者の事件における原料はすべて牛でした。 日本のペットフードに安楽死薬(ペントバルビタール)が混入する可能性はないのか? ドッグフードの甲状腺ホルモン汚染・経緯と原因  日本の法律では、すでに製造されたペットフードは家畜伝染病予防法が定める指定検疫物にはなっていませんので、検査の対象にはなりません。また日本のペットフード安全法が定める有害物質の基準項目や上限値も、国が変われば変動してしまうことがあります。要するに海外製のペットフードには何が入っているのかわからないと言っても過言ではないのです。
 2017年、人間や動物の食品の安全性を客観的に評価する「Clean Label Project」は、アメリカ国内で流通している85のペットフードブランドを対象とし130種近くの化学物質(重金属など)の含有率調査を行いました。その結果、鉛、水銀、ビスフェノールA、カドミウムを無視できないレベルで含有しているフードが数多く発見されたといいます。
輸入業者が受入規格を設けており、フードメーカーの生産工程や海外から輸入したフードをしっかりとチェックしているかどうかは直接問い合わせて確認する必要があります。