トップ2025年・猫ニュース一覧2月の猫ニュース2月5日

青島の猫を襲ったカリシウイルス強毒型の変異株について

 2020年冬、愛媛県の青島に暮らす猫たちを突如として襲ったカリシウイルスのアウトブレイク。原因ウイルスを遺伝子レベルで解析したところ、既知のものとは異なる島固有の強毒株であることが明らかになりました。

青島を襲ったカリシウイルス

 2020年、一部の人達が「猫の島」などともてはやす愛媛県の青島で、多数の猫が命を落とす感染症のアウトブレイクが発生しました。岡山理科大学の調査チームが詳細を報告しましたのでご紹介します。 愛媛県北西に浮かぶ孤島・青島  2020年11月初旬、愛媛県の青島内に暮らすおよそ100頭の猫たちのうち数頭が重篤な流感様症状を示し、12日までに少なくとも5頭が死亡した。症状を示した猫たちを四国本土にあるクリニックに移送した後、咽頭スワブでウイルスを採取しPCRで種の同定を試みたところカリシウイルスである可能性が浮上。新型コロナウイルス、パルボウイルス、ヘモプラズマなどとの鑑別診断の末、最終的に原因がカリシウイルスであると断定された。
 ウイルスが島外から持ち込まれた可能性を考慮し、愛媛、大阪、熊本で採取された既存型カリシウイルスと遺伝的に比較したものの一致せず、また強毒株として有名なFCV-255(肺症状が強く出る)とも別物だった。
 強毒感染症に典型的な症状(ウイルス血症など)が散発的であること、感染猫が海をわたって島内に入り込んだ可能性がほぼ考えられないこと、他地域のウイルスと遺伝的にかけ離れていることなどから考え、既存株とは違う島固有株であると推測。また島内で採取された弱毒株と遺伝的に同じ系統グループに属すること、および弱毒に反応するワクチンと交差反応が見られたことから、弱毒株が島内で突然変異して強毒株ができた可能性が高いと推測された。
 実際、ウイルスのキャプシド遺伝子E領域に含まれるアミノ酸を解析した結果、正統株と強毒株のちょうど中間特性が認められた。
Molecular characterization of feline caliciviruses isolated from several adult cats with atypical infection showing severe flu-like symptoms on a remote island in Ehime, Japan
Yuki Nishisaka, Hikaru Fujii, et al., Virus Research(2025) Volume 353, DOI:10.1016/j.virusres.2025.199535

感染拡大を防ぐには

 カリシウイルスの強毒化は遺伝子内においてランダムで起こりますので、変異自体を意図的に予防することは難しいでしょう。青島で発生した惨劇から何か教訓を得るとすれば、一体どのようなものがあるのでしょうか?
 カリシウイルスは猫の扁桃腺に潜伏していると考えられていますので、唾液を介して感染するルートが一般的です。猫同士のグルーミングを完全に防ぎ切ることは困難ですが、人間の手による偶発的な感染拡大は確実に予防できます。
 例えば、猫の唾液が付着した被毛を撫でた後で他の猫をむやみに触らないとか、猫の毛を整えたブラシを使い回さないなどです。観光案内では「猫島」「猫の楽園」「猫の天国」などと持ち上げられていますが、青島を訪れる不特定多数の人たちは人間が媒介しうる感染性の病気を理解し、しっかり手洗いを行っているのでしょうか?島猫の世話をしている人たちは食器やブラシを猫1頭ずつに用意しているのでしょうか?複数の猫を同じ道具でケアしないよう、消毒や交換を徹底しているのでしょうか? 無自覚な人間のケアが猫の感染症を広めうる  島内で行われているTNRが目指すところはあくまでも「個体数の緩やかな減少」であり、マリオン島の猫殲滅作戦のように感染症で一気に減らすことではありません。無自覚な人間の手で致死率の高い病原体を広げてしまわないよう注意が必要です。
カリシウイルスだけでなく白癬菌や寄生虫卵も人を介して広がる危険性があります。「かわいい~」の代償を猫たちに押し付けないよう気をつけましょう。 猫カリシウイルス感染症