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「猫は液体」を検証する~猫は自分の体の大きさをわかってる?

 洋の東西を問わず「猫は液体」という比喩表現をよく聞きます。一見入れそうもない場所に猫が侵入する際、果たして自分の体の大きさを理解しているのでしょうか?検証実験が行われました。

猫は自分の大きさをわかってる?

 調査を行ったのはハンガリーにあるエトヴェシュ・ロラーンド大学動物学部。自分の体に含まれる属性に関する認識(自己表象, 身体意識)が猫にもあるのかどうかを確かめるため、段ボールを用いた簡単な実験を行いました。

調査対象

 調査対象となったのは一般家庭で飼育されているオス17頭とメス15頭。全頭8ヶ月齢以上で26頭が非純血種です。あらかじめ猫の体のサイズを平均化しておき、そのサイズより大きいくぐり穴と小さいくぐり穴を用意して猫たちがどのようなリアクションを見せるのかを観察しました。猫たちの平均サイズは以下です。
猫の平均サイズ
  • 四足立位時の地面から耳先まで=37.12cm
  • 肋骨の最大幅=11.48cm
  • スフィンクス肢位時の地面から耳先まで=19.61cm
  • 四足立位時の地面からき甲(肩甲骨間隆起部)まで=27.97cm
  • 頭部の最大幅=10.14cm

調査方法

 調査に際しては幅を15cmに統一して高さ(15, 20, 28, 37, 43cm)に変動をもたせたくぐり穴、および高さを50cmに統一して幅(5, 7, 9, 11, 13cm)に変動をもたせたくぐり穴が用意されました。 幅および高さを固定したくぐり穴  猫たちの自宅にあるドア枠にくぐり穴を設置し、実際にくぐれる穴を一つだけ露出した状態で猫の自発的な反応を観察しました。下図、くぐり穴の向こう側に置いてあるのは猫のモチベーションを高めるためのおもちゃやおやつです。 くぐり穴を用いた猫の通り抜け実験模式図  猫の行動は「穴をくぐる前」と「くぐっている最中」に大別され、それぞれのフェーズでためらいが見られるかどうかが動画解析を通して確認されました。上記「ためらい」には「減速する」「立ち止まる」「座り込む」「くぐらずに飛び越える」などが含まれます。

調査結果

 実験の結果、幅の変動で猫の行動にためらいが見られなかったのに対し、高さの変動では実際にくぐる前においても、くぐっている最中においてもためらい行動が顕著に増えたと言います。具体的には高さが20cm以下になった途端、急激に増え出し、体高のある個体ほどその傾向が強かったとも。
 実際に通り抜ける前の段階ですでにためらい行動が見られたことは、猫に何らかの身体意識(穴の大きさと自分の体の大きさを頭の中で比較できる)があることの証拠ではないかと推測されています。
Cats are (almost) liquid! - Cats selectively rely on body size awareness when negotiating short openings
Pongracz, iScience (2024), DOI:10.1016/j.isci.2024.110799

猫は幅よりも高さに敏感?

 動物の身体意識に関してはマルハナバチ、ヤドカリ、ヘビ、ズキンガラス、フェレット、イエイヌなどで報告があり、いずれも自身が通過できる穴の大きさを先験的に見分けることができるとされています。今回のくぐり穴を用いた実験により、猫にも自分の体の大きさに関する自己認識がある可能性が示されました。一点興味深いのは、高さの変化には敏感に反応したのに対し、幅に関してはたとえ自分の胸幅より狭くてもためらい行動が見られなかったという点です。

解剖学的な特性の影響?

 猫と同じ傾向を示す動物としてはズキンガラスがおり、報告を行ったチームはこの動物種が持つ解剖学的な特性が関わっているのではないかと言及しています。
 仮に同じ理屈を猫に当てはめると、鎖骨がない、触毛がある、肋骨が柔軟といった解剖学的な特性により、猫は先験的に「幅が狭くてもなんとかなる」という強い意識をもっているため、幅の変化をさほど気にしないということになります。

狩猟スタイルの影響?

 イエイヌではくぐり穴にトライする前にためらいが多く見られ、可能であれば迂回路を選ぶ傾向が強かったと報告されています。イエイヌの狩猟スタイルが長距離走行であるため、障害物に衝突したり挟まって身動きが取れなくなることに対する潜在的な恐怖心が強いからではないかと調査チームは推測しています。
 一方、猫の狩猟は一箇所に隠れてじっと獲物の到来を待つ待ち伏せスタイルです。獲物から身を隠すことが本業ですので、狭い場所に対する抵抗感が少なくとも犬よりは弱いのではないかと推測されています。
 またイエネコは捕食動物であると同時に被食動物でもあるため、外敵から身を隠せる狭い場所に対する忌避感が先天的に希薄である可能性も考慮すべきでしょう。

やっぱり「猫は液体」

 「猫は液体」という比喩表現に象徴されるように、猫たちが信じられないような狭い空間に体をねじ込んでいる姿をよく見かけます。 まるで液体のように狭い場所に潜り込む猫  人の目からはギチギチで苦しそうに見えますが、猫の身体意識では被毛を刈り取った華奢な体を表象として持っているのかもしれません。だとすると見た目ほどチギチではなく、猫感覚では被毛の厚さ分のほどよい遊びがあると考えられます。
 また猫の体はかなり柔軟で、肋骨で囲まれた胸郭などはまるでゴムボールのように容易に伸縮します。狭い場所や隙間にすんなりフィットするのは、人間の骨格にはないこうした柔軟性のなせる技なのでしょう。猫たちはしっかりとした身体意識をもってスペースに入り込んでいるようですので、たとえ苦しそうに見えても人間が過剰に心配する必要はないのかもしれません。
狭い幅を避けようとしないためか、たまに建物の隙間に挟まる猫が報告されますね。 壁の隙間に挟まって身動きが取れなくなった猫